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────5話*俺のものだよ

11・一人に気づく日

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****♡Side・塩田

「え、一緒に行かないの?」
 電車でんまの驚いた顔を眺めながら、強く頷いた塩田。

──怖いから乗りたくない。

 とてもシンプルな心情だ。車で一番安全なのは運転席。一番危険なのは助手席と相場が決まっている。”まだ、死にたくない”と塩田は思った。
「じゃあ、一人で行って来る」
と、電車。
「Good luck」
と塩田が無表情で片手をあげると、
「皮肉かッ」
と苦笑いする彼。
「俺は、安全な家で待つ」
「分かりやすすぎる」
 彼は不満を溢しながらも、列車に乗り込んだ。片道が列車ならそう時間もかかるまい。彼の運転次第だが。

「あれ? 塩田」
 プラットホームから改札口に向かおうとしたら、我が課の課長こと唯野に声をかけられた。板井も一緒だ。
「珍しいな」
と唯野。
「紀夫が車取りに、実家に戻ったから」
と塩田が答えると、唯野はなるほどと言う顔をする。
「副社長は?」
「会食らしい」
 その言葉に唯野は心配そうな表情を浮かべた。唯野と皇の関係は、周りから見ると少し異質だ。互いに心配しているように見えるのに、一定の距離感を保っている。他人事だから詮索しようとは思わないが。
「そっか、心配だな」
 それは社長とのことを言ってるのだろうか。
「気を付けて帰れよ」

 唯野は『引き留めて悪かった』と言って、片手をあげる。
 板井は『また』とだけ言って唯野に向き直った。板井は余計なことを言わない男だ。しかし唯野のことを誰より心配しているのもの彼。変な意味ではなく、部下として。
 塩田は改札へ向かう。もしかしたら板井は色んな事情を知っているから、何も言わないのかも知れないと思いながら。

──一人ひとりは、こんなに静かだっただろうか。

 ざわめきが消える。人は集中すると音が聞こえなくなるものだ。早く電車でんまが戻れは良いと、強く願う。いつから自分は人と居ることになれたのだろう。少なくとも今の会社に入るまでは、ずっと一人だった。
 友人はおらず、単独行動ばかりしていた。それが今や誰かが傍に居ることが当たり前になっている。
「ん?」
 スマホがチカチカしていることに気づき、塩田は耳に充てた。
『あ、塩田か?』
と皇の声。
「他に誰にかけてるつもりなんだ?」
『おまッ……』
 何、当たり前のことを聞くんだと思いながら入場券を改札に通し、駅の出口に向かう。
「で、どうかしたのか?」
『いや。何か欲しいものあるか』
 どうやら会食の帰りに、土産を買ってきてくれるらしい。塩田は何もいらないと言おうとし、彼が早めに会食を切り上げるための口実が欲しいのではないかと思いなおした。なるべく早く閉店する店を想像する。彼が早く抜けられば良いと願いながら。
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