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────5話*俺のものだよ
9・同情と欲情の先にあるもの
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****♡Side・課長(唯野)
「はあ……」
小言を聞き終えて戻ると昼はとうに終わっていた。苦情係のある階に着くとエレベーターの傍に誰かが立っている。スマホの画面をじっと見つめながら。
「副社長」
「あ、唯野さん」
彼はスマホから顔をあげるとこちらを見る。
「何してるんです?」
と、唯野。
「待ってた。お昼まだでしょ?」
「ん、まあ」
「外、行こう」
彼は二人きりになると、いつもこうだ。営業部にいた頃と同じように先輩として扱ってくれる。彼に連れられるまま、彼の行きつけの喫茶店へ。
「ここなら、融通利くから」
唯野は小さくため息をつくと彼に微笑みかけ、カウンターに腰かけた。揚げたてだと言うので、かつ丼定食を頼み皇に視線を移す。
「どうした?」
と問いかければ、済まなそうな顔をする。
「俺のせいなんでしょ」
「皇のせいじゃないだろ」
思わせぶりな態度を取ったわけじゃない。自分らしく生きていて人に好かれるのは、誰が悪いというのだろうか。
「でも、俺のせいで唯野さんは、社長からパワハラ受けてる」
「今に始まったことじゃない」
唯野は出されたナス漬に箸をつけながら。
「本気で嫌なら、俺をクビにでもすればいい。あの人がそれをしないのは、俺以外にあたれる奴がいないから。ただそれだけだ」
こっちから辞めることだってできる。辞めないのは何も、家族が養えないとか、そんな理由じゃない。自分が辞めれば、皇が犠牲になることが分かっているから。自分はそこまで非人情にはなれない。
「そんなに気に病むなよ」
「でも……」
「俺に負い目があるっていうなら、今度飯でも食わせてくれればいいから」
言って笑う。
言葉は確かに暴力なる。しかし性的暴力はその遥か上を行く。声なら耳を塞げばいい。嫌なら逃げればいい。確かに心は病むが。
だが性交は、肉体にも精神にも異常をきたす。皇はまだ二十六だ。この先一生、好きでもない男に苦しまされなければならないなんて地獄以外の何物でもない。
もし自分に守れるというのならば。
目を背けたところで何も変わりはしない。いつか自分を襲うのは罪悪感。
「俺は同情なんてしてない。安心しろ」
運ばれてきたかつ丼定食はとても美味しそうだ。
皇は隣で紅茶を飲んでいる。
「でも、塩田は……」
やはりそこが気になるのかと、思った。
「あいつは同情なんてしないだろ」
自分は皇をそういう目で見たことが無いから分からないが、社長を始めとし黒岩も神流川もすっかり彼の虜だ。そんなにいい身体をしているのだろうか。
「それに自ら動いたなら、それはあいつの意志だ」
自分は塩田に執着している。こうなった今も、塩田だけに。
「はあ……」
小言を聞き終えて戻ると昼はとうに終わっていた。苦情係のある階に着くとエレベーターの傍に誰かが立っている。スマホの画面をじっと見つめながら。
「副社長」
「あ、唯野さん」
彼はスマホから顔をあげるとこちらを見る。
「何してるんです?」
と、唯野。
「待ってた。お昼まだでしょ?」
「ん、まあ」
「外、行こう」
彼は二人きりになると、いつもこうだ。営業部にいた頃と同じように先輩として扱ってくれる。彼に連れられるまま、彼の行きつけの喫茶店へ。
「ここなら、融通利くから」
唯野は小さくため息をつくと彼に微笑みかけ、カウンターに腰かけた。揚げたてだと言うので、かつ丼定食を頼み皇に視線を移す。
「どうした?」
と問いかければ、済まなそうな顔をする。
「俺のせいなんでしょ」
「皇のせいじゃないだろ」
思わせぶりな態度を取ったわけじゃない。自分らしく生きていて人に好かれるのは、誰が悪いというのだろうか。
「でも、俺のせいで唯野さんは、社長からパワハラ受けてる」
「今に始まったことじゃない」
唯野は出されたナス漬に箸をつけながら。
「本気で嫌なら、俺をクビにでもすればいい。あの人がそれをしないのは、俺以外にあたれる奴がいないから。ただそれだけだ」
こっちから辞めることだってできる。辞めないのは何も、家族が養えないとか、そんな理由じゃない。自分が辞めれば、皇が犠牲になることが分かっているから。自分はそこまで非人情にはなれない。
「そんなに気に病むなよ」
「でも……」
「俺に負い目があるっていうなら、今度飯でも食わせてくれればいいから」
言って笑う。
言葉は確かに暴力なる。しかし性的暴力はその遥か上を行く。声なら耳を塞げばいい。嫌なら逃げればいい。確かに心は病むが。
だが性交は、肉体にも精神にも異常をきたす。皇はまだ二十六だ。この先一生、好きでもない男に苦しまされなければならないなんて地獄以外の何物でもない。
もし自分に守れるというのならば。
目を背けたところで何も変わりはしない。いつか自分を襲うのは罪悪感。
「俺は同情なんてしてない。安心しろ」
運ばれてきたかつ丼定食はとても美味しそうだ。
皇は隣で紅茶を飲んでいる。
「でも、塩田は……」
やはりそこが気になるのかと、思った。
「あいつは同情なんてしないだろ」
自分は皇をそういう目で見たことが無いから分からないが、社長を始めとし黒岩も神流川もすっかり彼の虜だ。そんなにいい身体をしているのだろうか。
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自分は塩田に執着している。こうなった今も、塩田だけに。
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