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────4話*水面下の戦い
15・あの日の課長と塩田の本音
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****♡Side・課長(唯野)
隣の黒岩はすっかり項垂れてしまっていた。
自分とて、もし皇が彼のことを好きだと言うのであれば止めたりなどしないのだ。しかし現実は違う。皇が好きなのは塩田だ。それはどう転んでも変わらない。唯野はチラリと腕時計に目をやる。
──そろそろ出来上がった頃だろうか?
指示をしたのは自分だが胸が痛い。あの塩田が何故引き受けたのかは分かっている。
『引き返せないけど、良いのか?』
と問えば、
『やれと言ったのはそっちなのに変なこと言うんだな』
と塩田は無表情のままそう言った。
『電車は承諾したのか?』
『具体的なことを話したら、それなら良いと』
──つまり塩田が突っ込む方なら良いよという事か。
電車は可愛い顔をしているくせに誰よりも男らしく、その上バリタチだ。それに対し塩田はネコと言うわけでもなく、単なる受け身だったようで。
──塩田をネコにしたというなら、罪な奴だな電車は。
『塩田は良いのか?』
再度彼に確認をすると、
『課長が俺に預けたのは、”皇が俺を好きだから”と言う単純な理由じゃないだろ』
と言われる。
『俺は紀夫以外はイヤだと思ったし、それに気づいた。でも皇は立場上、拒否することが出来ない。男でありながら女のように扱われるのは、好きな相手じゃなければ、単に辛いだけだ』
普段は無口で我知らずという雰囲気を醸し出している彼が、いつもうっとおしそうにあしらっている相手に対しそんな風に思い遣るのが意外だった。
『何、変な顔して』
と、彼。
『いや、塩田は副社長のこと嫌いなのかと思ってた』
『嫌いではない。気持ちに応えられないだけだ』
それは変に気を持たせたくないという意味合いに思えたが、もう一つの可能性も指示していた。もし電車が勇気を出していなかったなら、皇と恋人になっていたかもしれないという事だ。
正直、以前の皇と最近の彼では全然違う。
以前の彼は単に自分が一番でないと済まないと言うだけで、周りからどう思われようが我が道をひた歩くスタイルだった。
しかし塩田を好きだと自覚してからは、明らかに変わった。塩田を観察し、反応を窺う。そんな事、今までしなかったのに。その様子は健気で可愛いとさえ思えた。
その上、彼がネコだなんて知った日には社内の男どもが黙っていないだろう。
───顔は可愛いからなあ、皇は。
あれで二十六とか……ほんとかよ。
塩田の二個上、電車の一個上と聞いたことがある。二人は同期で同学年だが、電車の方が誕生日が早いらしい。
「黒岩、そろそろ帰るか」
と項垂れる彼に声をかけると、
「タクシー代、経費でいける?」
と頭痛のする返答。
「しょうがないな。嫁に頼むから、ちょっと待ってろ」
と唯野は仕方なく妻に電話をかけるのだった。
隣の黒岩はすっかり項垂れてしまっていた。
自分とて、もし皇が彼のことを好きだと言うのであれば止めたりなどしないのだ。しかし現実は違う。皇が好きなのは塩田だ。それはどう転んでも変わらない。唯野はチラリと腕時計に目をやる。
──そろそろ出来上がった頃だろうか?
指示をしたのは自分だが胸が痛い。あの塩田が何故引き受けたのかは分かっている。
『引き返せないけど、良いのか?』
と問えば、
『やれと言ったのはそっちなのに変なこと言うんだな』
と塩田は無表情のままそう言った。
『電車は承諾したのか?』
『具体的なことを話したら、それなら良いと』
──つまり塩田が突っ込む方なら良いよという事か。
電車は可愛い顔をしているくせに誰よりも男らしく、その上バリタチだ。それに対し塩田はネコと言うわけでもなく、単なる受け身だったようで。
──塩田をネコにしたというなら、罪な奴だな電車は。
『塩田は良いのか?』
再度彼に確認をすると、
『課長が俺に預けたのは、”皇が俺を好きだから”と言う単純な理由じゃないだろ』
と言われる。
『俺は紀夫以外はイヤだと思ったし、それに気づいた。でも皇は立場上、拒否することが出来ない。男でありながら女のように扱われるのは、好きな相手じゃなければ、単に辛いだけだ』
普段は無口で我知らずという雰囲気を醸し出している彼が、いつもうっとおしそうにあしらっている相手に対しそんな風に思い遣るのが意外だった。
『何、変な顔して』
と、彼。
『いや、塩田は副社長のこと嫌いなのかと思ってた』
『嫌いではない。気持ちに応えられないだけだ』
それは変に気を持たせたくないという意味合いに思えたが、もう一つの可能性も指示していた。もし電車が勇気を出していなかったなら、皇と恋人になっていたかもしれないという事だ。
正直、以前の皇と最近の彼では全然違う。
以前の彼は単に自分が一番でないと済まないと言うだけで、周りからどう思われようが我が道をひた歩くスタイルだった。
しかし塩田を好きだと自覚してからは、明らかに変わった。塩田を観察し、反応を窺う。そんな事、今までしなかったのに。その様子は健気で可愛いとさえ思えた。
その上、彼がネコだなんて知った日には社内の男どもが黙っていないだろう。
───顔は可愛いからなあ、皇は。
あれで二十六とか……ほんとかよ。
塩田の二個上、電車の一個上と聞いたことがある。二人は同期で同学年だが、電車の方が誕生日が早いらしい。
「黒岩、そろそろ帰るか」
と項垂れる彼に声をかけると、
「タクシー代、経費でいける?」
と頭痛のする返答。
「しょうがないな。嫁に頼むから、ちょっと待ってろ」
と唯野は仕方なく妻に電話をかけるのだった。
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