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────4話*水面下の戦い
11・課長の見解と総括の想い
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****♡Side・課長(唯野)
苦情係の課長唯野は黒岩と二人、会社近くのバーにいた。
「そんな気落ちすんなって」
黒岩に泣きつかれた為である。
面倒になったなと思いつつも彼に酒を勧めた。
「皇に、近寄るなって言われたんだぞ!」
「はいはい、落ち着けって」
くぅっと言って彼はカウンターに突っ伏す。
すると給仕の女性がおつまみをカウンターに置きながら、
「黒岩さん、どうかしたんですか?」
と唯野に向かって尋ねる。
店内にはしっとりとしたお洒落な曲が流れていた。
「うーん、ちょっとね」
説明のしようがなく唯野は言葉を濁す。
すると黒岩はビールを飲み干し、
「もう一杯」
とグラスを押しやった。
黒岩絡みで皇副社長が社長から酷いことをされたという話は、社長秘書の神流川から聞いて知っている。
皇が『これ以上黒岩に関われば面倒なことになりかねない』と判断したというのは想像に難くない。
自分とてこれ以上皇が社長に好き勝手されるのは気持ちのいいものではない。しかし自分の計画を黒岩に漏らすことは出来なかった。
「あんまり呑み過ぎるなよ」
唯野はナッツをつまみながら、うなだれる彼に視線を向ける。
「分かってる」
呑み過ぎれば理性をなくす。彼は妻子持ちだ。家で変なことを口走ろうものなら皇が彼を遠ざけた意味もなくなってしまうだろう。
「なんで好きじゃダメなんだ?」
「家庭があるからだろ」
自分のことを棚に上げ唯野はそう答えてやる。
「離婚して皇と付き合いたいって言ったんだ」
「ダメだろ、そんなの」
「何故」
皇は塩田が好きだ。
社長とは望まない関係になっており、その社長は先日妻と離婚した。皇を手に入れるために。その上、黒岩までもが自分に熱をあげているとなればどんなに重いことだろうか。
「なんで社長はよくて、俺はダメなんだよ」
彼の気持ちは分からないでもない。
同じ土俵にすら上がることの出来ない自分。家庭を捨て今まで自分を支えてくれた妻や子供を不幸にしてまで、勝ち目のない恋に走るのはどうかと思う。それは自分だけの問題ではないのだ。
だがそれを黒岩に説いたところで、『一度きりの人生を後悔したくない』と言われてしまったならば何も言い返せなくなる。
「社長は、家族に筋を通したんだろ」
他に言いようがなかった。
「俺だって……」
「辞めて置け」
彼が今まで有給も取らずに必死に頑張って来たのは、家族の為。皇への想いは本気かも知れないが、安易に決めて良い未来ではないはずだ。
せめて相手と両想いで密かに付き合っているというのなら、止めはしないが。なにせ皇には婚約破棄することの出来ない婚約者だっているのだ。
───どう転んだって、黒岩に軍配は上がらない。
苦情係の課長唯野は黒岩と二人、会社近くのバーにいた。
「そんな気落ちすんなって」
黒岩に泣きつかれた為である。
面倒になったなと思いつつも彼に酒を勧めた。
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「はいはい、落ち着けって」
くぅっと言って彼はカウンターに突っ伏す。
すると給仕の女性がおつまみをカウンターに置きながら、
「黒岩さん、どうかしたんですか?」
と唯野に向かって尋ねる。
店内にはしっとりとしたお洒落な曲が流れていた。
「うーん、ちょっとね」
説明のしようがなく唯野は言葉を濁す。
すると黒岩はビールを飲み干し、
「もう一杯」
とグラスを押しやった。
黒岩絡みで皇副社長が社長から酷いことをされたという話は、社長秘書の神流川から聞いて知っている。
皇が『これ以上黒岩に関われば面倒なことになりかねない』と判断したというのは想像に難くない。
自分とてこれ以上皇が社長に好き勝手されるのは気持ちのいいものではない。しかし自分の計画を黒岩に漏らすことは出来なかった。
「あんまり呑み過ぎるなよ」
唯野はナッツをつまみながら、うなだれる彼に視線を向ける。
「分かってる」
呑み過ぎれば理性をなくす。彼は妻子持ちだ。家で変なことを口走ろうものなら皇が彼を遠ざけた意味もなくなってしまうだろう。
「なんで好きじゃダメなんだ?」
「家庭があるからだろ」
自分のことを棚に上げ唯野はそう答えてやる。
「離婚して皇と付き合いたいって言ったんだ」
「ダメだろ、そんなの」
「何故」
皇は塩田が好きだ。
社長とは望まない関係になっており、その社長は先日妻と離婚した。皇を手に入れるために。その上、黒岩までもが自分に熱をあげているとなればどんなに重いことだろうか。
「なんで社長はよくて、俺はダメなんだよ」
彼の気持ちは分からないでもない。
同じ土俵にすら上がることの出来ない自分。家庭を捨て今まで自分を支えてくれた妻や子供を不幸にしてまで、勝ち目のない恋に走るのはどうかと思う。それは自分だけの問題ではないのだ。
だがそれを黒岩に説いたところで、『一度きりの人生を後悔したくない』と言われてしまったならば何も言い返せなくなる。
「社長は、家族に筋を通したんだろ」
他に言いようがなかった。
「俺だって……」
「辞めて置け」
彼が今まで有給も取らずに必死に頑張って来たのは、家族の為。皇への想いは本気かも知れないが、安易に決めて良い未来ではないはずだ。
せめて相手と両想いで密かに付き合っているというのなら、止めはしないが。なにせ皇には婚約破棄することの出来ない婚約者だっているのだ。
───どう転んだって、黒岩に軍配は上がらない。
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