107 / 218
────4話*水面下の戦い
11・課長の見解と総括の想い
しおりを挟む
****♡Side・課長(唯野)
苦情係の課長唯野は黒岩と二人、会社近くのバーにいた。
「そんな気落ちすんなって」
黒岩に泣きつかれた為である。
面倒になったなと思いつつも彼に酒を勧めた。
「皇に、近寄るなって言われたんだぞ!」
「はいはい、落ち着けって」
くぅっと言って彼はカウンターに突っ伏す。
すると給仕の女性がおつまみをカウンターに置きながら、
「黒岩さん、どうかしたんですか?」
と唯野に向かって尋ねる。
店内にはしっとりとしたお洒落な曲が流れていた。
「うーん、ちょっとね」
説明のしようがなく唯野は言葉を濁す。
すると黒岩はビールを飲み干し、
「もう一杯」
とグラスを押しやった。
黒岩絡みで皇副社長が社長から酷いことをされたという話は、社長秘書の神流川から聞いて知っている。
皇が『これ以上黒岩に関われば面倒なことになりかねない』と判断したというのは想像に難くない。
自分とてこれ以上皇が社長に好き勝手されるのは気持ちのいいものではない。しかし自分の計画を黒岩に漏らすことは出来なかった。
「あんまり呑み過ぎるなよ」
唯野はナッツをつまみながら、うなだれる彼に視線を向ける。
「分かってる」
呑み過ぎれば理性をなくす。彼は妻子持ちだ。家で変なことを口走ろうものなら皇が彼を遠ざけた意味もなくなってしまうだろう。
「なんで好きじゃダメなんだ?」
「家庭があるからだろ」
自分のことを棚に上げ唯野はそう答えてやる。
「離婚して皇と付き合いたいって言ったんだ」
「ダメだろ、そんなの」
「何故」
皇は塩田が好きだ。
社長とは望まない関係になっており、その社長は先日妻と離婚した。皇を手に入れるために。その上、黒岩までもが自分に熱をあげているとなればどんなに重いことだろうか。
「なんで社長はよくて、俺はダメなんだよ」
彼の気持ちは分からないでもない。
同じ土俵にすら上がることの出来ない自分。家庭を捨て今まで自分を支えてくれた妻や子供を不幸にしてまで、勝ち目のない恋に走るのはどうかと思う。それは自分だけの問題ではないのだ。
だがそれを黒岩に説いたところで、『一度きりの人生を後悔したくない』と言われてしまったならば何も言い返せなくなる。
「社長は、家族に筋を通したんだろ」
他に言いようがなかった。
「俺だって……」
「辞めて置け」
彼が今まで有給も取らずに必死に頑張って来たのは、家族の為。皇への想いは本気かも知れないが、安易に決めて良い未来ではないはずだ。
せめて相手と両想いで密かに付き合っているというのなら、止めはしないが。なにせ皇には婚約破棄することの出来ない婚約者だっているのだ。
───どう転んだって、黒岩に軍配は上がらない。
苦情係の課長唯野は黒岩と二人、会社近くのバーにいた。
「そんな気落ちすんなって」
黒岩に泣きつかれた為である。
面倒になったなと思いつつも彼に酒を勧めた。
「皇に、近寄るなって言われたんだぞ!」
「はいはい、落ち着けって」
くぅっと言って彼はカウンターに突っ伏す。
すると給仕の女性がおつまみをカウンターに置きながら、
「黒岩さん、どうかしたんですか?」
と唯野に向かって尋ねる。
店内にはしっとりとしたお洒落な曲が流れていた。
「うーん、ちょっとね」
説明のしようがなく唯野は言葉を濁す。
すると黒岩はビールを飲み干し、
「もう一杯」
とグラスを押しやった。
黒岩絡みで皇副社長が社長から酷いことをされたという話は、社長秘書の神流川から聞いて知っている。
皇が『これ以上黒岩に関われば面倒なことになりかねない』と判断したというのは想像に難くない。
自分とてこれ以上皇が社長に好き勝手されるのは気持ちのいいものではない。しかし自分の計画を黒岩に漏らすことは出来なかった。
「あんまり呑み過ぎるなよ」
唯野はナッツをつまみながら、うなだれる彼に視線を向ける。
「分かってる」
呑み過ぎれば理性をなくす。彼は妻子持ちだ。家で変なことを口走ろうものなら皇が彼を遠ざけた意味もなくなってしまうだろう。
「なんで好きじゃダメなんだ?」
「家庭があるからだろ」
自分のことを棚に上げ唯野はそう答えてやる。
「離婚して皇と付き合いたいって言ったんだ」
「ダメだろ、そんなの」
「何故」
皇は塩田が好きだ。
社長とは望まない関係になっており、その社長は先日妻と離婚した。皇を手に入れるために。その上、黒岩までもが自分に熱をあげているとなればどんなに重いことだろうか。
「なんで社長はよくて、俺はダメなんだよ」
彼の気持ちは分からないでもない。
同じ土俵にすら上がることの出来ない自分。家庭を捨て今まで自分を支えてくれた妻や子供を不幸にしてまで、勝ち目のない恋に走るのはどうかと思う。それは自分だけの問題ではないのだ。
だがそれを黒岩に説いたところで、『一度きりの人生を後悔したくない』と言われてしまったならば何も言い返せなくなる。
「社長は、家族に筋を通したんだろ」
他に言いようがなかった。
「俺だって……」
「辞めて置け」
彼が今まで有給も取らずに必死に頑張って来たのは、家族の為。皇への想いは本気かも知れないが、安易に決めて良い未来ではないはずだ。
せめて相手と両想いで密かに付き合っているというのなら、止めはしないが。なにせ皇には婚約破棄することの出来ない婚約者だっているのだ。
───どう転んだって、黒岩に軍配は上がらない。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる