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────4話*水面下の戦い
5・I need you
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****♡Side・塩田
「話とは?」
通常であるならば呼びかけに応答などしない塩田であったが、休み時間に苦情係の課長唯野に呼ばれ休憩室に居た。
部屋には静かな音量で”Denim Jacket”が流れている。お洒落な曲だ。
とてもじゃないが、これから少し重い話をされるような雰囲気ではなかった。塩田は壁に寄り掛かり、ソファーに腰かけてこちらを見上げる唯野を見下ろす。
「皇副社長のことだ」
先日の昼に耳打ちされたことを考えても、いつかは持ちかけられる話だということは容易に想像がついている。この話は自分一人ではどうにもできない。唯野とてそれは同じだったから、こうして塩田を呼んだに違いない。
「俺にどうしろと?」
「筋違いなのはわかっているが、彼を救いたい」
「その手伝いをしろと」
”助けてどうなる?”という気持ちと、”助けられるのか、俺たちに?”という気持ちが塩田の心をかき乱す。
冷静に判断できない自分がいた。それは何も皇に嫌悪を抱いているなどということではない。相手はあの社長なのだ。一介の平である自分にどうこうできるはずなど、ないのではないか?
しかも味方はたった四人の部署である苦情係のみ。簡単に捻りつぶされてしまうだろう。それでも希望がなかったわけではない。
「社内のほとんどの者は、どっち派なんて概念はないはずだ」
「俺も、課長から聞くまで派閥がある事なんて知らなかったし、そうなんだろうな」
塩田は以前、皇から性的な暴行に値することをされている。因果応報と言えばそれまでだが、そんな言葉で済ませてはいけない気がしていた。
塩田は先日、皇にそのことを謝罪されている。
『好きな相手にすることじゃない……よな』
自分が社長から、塩田がされたことなど比べ物にならないことをされ、自分の過ちに気づかされたのだろう。涙こそ流さなかったが、彼は今にも壊れてしまいそうなほど儚げな笑みを溢した。それは自嘲だ。
塩田は自分に何ができるのか思案する。恐らく一人では成し遂げられない案が浮かんだところで、休憩室のドアが遠慮がちに開けられた。
「塩田、話って……あ、課長」
何も知らない電車である。
今回のことには彼の協力が必要不可欠であった為、塩田が事前に呼んでおいたのだ。自分が無意識に協力する方向で考えていたのだと気づかされ、塩田はクスリと笑う。
「課長」
傍まで歩いてきた電車の手を掴むと塩田は唯野に向き直る。
「良いですよね」
「それは、もちろん」
なんのことか分からない電車が二人を交互に見つめたのだった。
「話とは?」
通常であるならば呼びかけに応答などしない塩田であったが、休み時間に苦情係の課長唯野に呼ばれ休憩室に居た。
部屋には静かな音量で”Denim Jacket”が流れている。お洒落な曲だ。
とてもじゃないが、これから少し重い話をされるような雰囲気ではなかった。塩田は壁に寄り掛かり、ソファーに腰かけてこちらを見上げる唯野を見下ろす。
「皇副社長のことだ」
先日の昼に耳打ちされたことを考えても、いつかは持ちかけられる話だということは容易に想像がついている。この話は自分一人ではどうにもできない。唯野とてそれは同じだったから、こうして塩田を呼んだに違いない。
「俺にどうしろと?」
「筋違いなのはわかっているが、彼を救いたい」
「その手伝いをしろと」
”助けてどうなる?”という気持ちと、”助けられるのか、俺たちに?”という気持ちが塩田の心をかき乱す。
冷静に判断できない自分がいた。それは何も皇に嫌悪を抱いているなどということではない。相手はあの社長なのだ。一介の平である自分にどうこうできるはずなど、ないのではないか?
しかも味方はたった四人の部署である苦情係のみ。簡単に捻りつぶされてしまうだろう。それでも希望がなかったわけではない。
「社内のほとんどの者は、どっち派なんて概念はないはずだ」
「俺も、課長から聞くまで派閥がある事なんて知らなかったし、そうなんだろうな」
塩田は以前、皇から性的な暴行に値することをされている。因果応報と言えばそれまでだが、そんな言葉で済ませてはいけない気がしていた。
塩田は先日、皇にそのことを謝罪されている。
『好きな相手にすることじゃない……よな』
自分が社長から、塩田がされたことなど比べ物にならないことをされ、自分の過ちに気づかされたのだろう。涙こそ流さなかったが、彼は今にも壊れてしまいそうなほど儚げな笑みを溢した。それは自嘲だ。
塩田は自分に何ができるのか思案する。恐らく一人では成し遂げられない案が浮かんだところで、休憩室のドアが遠慮がちに開けられた。
「塩田、話って……あ、課長」
何も知らない電車である。
今回のことには彼の協力が必要不可欠であった為、塩田が事前に呼んでおいたのだ。自分が無意識に協力する方向で考えていたのだと気づかされ、塩田はクスリと笑う。
「課長」
傍まで歩いてきた電車の手を掴むと塩田は唯野に向き直る。
「良いですよね」
「それは、もちろん」
なんのことか分からない電車が二人を交互に見つめたのだった。
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