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────4話*水面下の戦い
1・社長室に呼ばれて
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****♡Side・塩田
「俺、社長室に呼ばれるの初めてなんだけど」
と、電車。
塩田は彼と共に社長室に向かっていた。
不安そうな彼の手をぎゅっと握ってやる。
──いよいよ、審判の時か。
最上階の社長室のある階は他のフロアーとは全く違っていた。社長第一秘書神流川がエレベーターの前で待機してくれている。
何故か、そこに副社長の皇もいた。
「塩田」
しかも、なんだか気まずそうだ。何かあったのだろうか。
「皇も一緒なのか?」
電車と社長の娘のことで呼ばれたはずなので、そこに皇がどう関わってくるのかと首を傾げる。
すると、
「いや、俺は別件」
と彼は社長室の前に並ぶ三人掛けのソファーに腰をおろし、腕と足を組んだ。
同時に呼ぶということは、自分たちへの決定に彼も関りがあるのだろうと塩田は思う。
──社長は皇に執着している。
皇は俺のことが好きだと言う。どうこうなることはあり得ないが。
とすれば、社長は皇を自分に向けるために手を打つだろう。来週頭にも離婚が成立するという話も耳にしている。
塩田は思った。
もしかしたら、社長が娘に諦めさせるために、自分もセットで呼んだのではないかと。
神流川は心配そうに皇のほうを窺っている。塩田には、彼のほうがよっぽど皇とお似合いに見えた。黒髪眼鏡に長身の硬そうな男だが、優秀で物腰が柔らかい。
「塩田さん、電車さんどうぞ中へ」
その彼に導かれ、社長室に乗り込んだのだった。
**
「え? な、なんで」
先客に驚いたのは電車。無理もない。元彼女がうちの社長の娘だと知らなかったのだから。
「彼女は、僕の娘でね」
と、呉崎社長。
塩田はチラリと社長に視線をやったっきり目を閉じる。
どんな決定であろうとも自分の腹は決まっている。別れろと言われれば退職願いを突きつけるだけ。自分に必要なのは【電車紀夫】だけだ。
「えっ! マジ⁈」
驚いて彼女と社長を見比べていた電車だったが、やっと自分の立場がわかったらしい。”もしかしたら塩田と別れさせられるかもしれない”と感じたようだ。塩田と繋いだ手が震えている。
やっと塩田の不可解な言動の意味を理解したようにも思えた。
塩田は”大丈夫だ”と言うように彼の手を強く握り返す。
「手短に話そう。君たち、業務中だしね」
と社長。
何故か彼の声は軽やかだった。
電車の元彼女のほうは自分の思い通りになると思っているのか、不敵な笑みを浮かべている。社長の決定に平社員の自分たちが逆らえないとでも思っているのだろうか?
もしここで社長が自分の娘との交際を強制したならば、パワハラだということがわかっていないようだ。
──馬鹿な女にコイツはやらねえよ。
塩田はフッと笑ったのだった。
「俺、社長室に呼ばれるの初めてなんだけど」
と、電車。
塩田は彼と共に社長室に向かっていた。
不安そうな彼の手をぎゅっと握ってやる。
──いよいよ、審判の時か。
最上階の社長室のある階は他のフロアーとは全く違っていた。社長第一秘書神流川がエレベーターの前で待機してくれている。
何故か、そこに副社長の皇もいた。
「塩田」
しかも、なんだか気まずそうだ。何かあったのだろうか。
「皇も一緒なのか?」
電車と社長の娘のことで呼ばれたはずなので、そこに皇がどう関わってくるのかと首を傾げる。
すると、
「いや、俺は別件」
と彼は社長室の前に並ぶ三人掛けのソファーに腰をおろし、腕と足を組んだ。
同時に呼ぶということは、自分たちへの決定に彼も関りがあるのだろうと塩田は思う。
──社長は皇に執着している。
皇は俺のことが好きだと言う。どうこうなることはあり得ないが。
とすれば、社長は皇を自分に向けるために手を打つだろう。来週頭にも離婚が成立するという話も耳にしている。
塩田は思った。
もしかしたら、社長が娘に諦めさせるために、自分もセットで呼んだのではないかと。
神流川は心配そうに皇のほうを窺っている。塩田には、彼のほうがよっぽど皇とお似合いに見えた。黒髪眼鏡に長身の硬そうな男だが、優秀で物腰が柔らかい。
「塩田さん、電車さんどうぞ中へ」
その彼に導かれ、社長室に乗り込んだのだった。
**
「え? な、なんで」
先客に驚いたのは電車。無理もない。元彼女がうちの社長の娘だと知らなかったのだから。
「彼女は、僕の娘でね」
と、呉崎社長。
塩田はチラリと社長に視線をやったっきり目を閉じる。
どんな決定であろうとも自分の腹は決まっている。別れろと言われれば退職願いを突きつけるだけ。自分に必要なのは【電車紀夫】だけだ。
「えっ! マジ⁈」
驚いて彼女と社長を見比べていた電車だったが、やっと自分の立場がわかったらしい。”もしかしたら塩田と別れさせられるかもしれない”と感じたようだ。塩田と繋いだ手が震えている。
やっと塩田の不可解な言動の意味を理解したようにも思えた。
塩田は”大丈夫だ”と言うように彼の手を強く握り返す。
「手短に話そう。君たち、業務中だしね」
と社長。
何故か彼の声は軽やかだった。
電車の元彼女のほうは自分の思い通りになると思っているのか、不敵な笑みを浮かべている。社長の決定に平社員の自分たちが逆らえないとでも思っているのだろうか?
もしここで社長が自分の娘との交際を強制したならば、パワハラだということがわかっていないようだ。
──馬鹿な女にコイツはやらねえよ。
塩田はフッと笑ったのだった。
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