上 下
86 / 218
────3話*俺のものだから

13・ここではない何処かへ

しおりを挟む
****♡Side・副社長(皇)

「家まで送って行くよ」
「いえ、一度社に寄って行きます。車で来てますので」
 皇は社長の申し出を断ると、彼に顎を掴まれた。
「朝、迎えに行くのに」
 優しい瞳で見つめられ、腰を引かれる。そして、耳元で一言。
「え? 今……なんて?」

────”僕と、恋愛をしよう。皇くん”

「しょうがないね、社まで送っていく」
「社長?」
「さあ、戻ろう」
 手首を掴まれ、ホテルの部屋を後にする。車の中で彼はずっと、他愛のない話をしていた。さっきのことには一言も触れずに。
 皇は聞き間違いかもしれないと思い始めていたが、社の玄関につくと、
「考えておいて」
と言われ、彼が本気で言ってるのだということを知った。

──何故、今さら?

 皇は社長のことが分からなくなっている。そもそも恋愛をするとはどういうことなのか。彼には妻子がいて、自分には別れられない婚約者がいて、心を占める存在もいるのに。

 皇は社に入るとタイムカードを切り、駐車場がある側の出口に向かう。なんと返事をしたものかと悩みつつ、車に乗り込んだところでスマホに着信が。
「なんだ?」
 表示を見て眉を顰めつつ、耳に充てる。
『なんだとはご挨拶だな』
 不機嫌な相手は総括部長の黒岩だ。
「俺様に何の用だ」
『随分遅いんじゃないのか? 会食とやらは。お前の昼飯は何時間かかるんだよ』
「どうやら七時間のようだな」
 皇は腕時計に目をやって。
「ところでどこにいるんだ? まだ、社内か?」
『ああ』

──まさか、俺を心配して今まで社に?

 どうせなら塩田に心配されたかったな、などと思いながら、
「まだ仕事? 帰れるなら降りて来いよ」


****♡Side・総括(黒岩)

『少し、ドライブに付き合え』
 そう言われ彼の車に乗り込んだものの、彼はただじっと前を見つめていた。すっかり日は落ちて、煌めく街のネオン、車はゆっくりと走行していく。どうやら帰りのラッシュにはまってしまったようだ。

──何かあったのだろうか?

 黒岩は何も聞けないまま、ただ彼を見つめていた。車内にはお洒落な曲が流れていてまるでデートのような気分になる。だが、一つ気になることが。
 彼から香るのはいつもの香水ではなく、シャンプーの香り。昼まではそんな香りはしなかった。
「皇」
「ん?」
「良い匂いする」
「なんだ、腹が減ったのか?」
 カマをかけとようとして失敗し、更に、
「飯でも食ってくか?」
と問われる。
 黒岩はなんと返そうか迷い黙っていた。
 すると、彼は赤信号でブレーキを踏み、
「おい、返事くらいしろよ」
とこちらに顔を向ける。
「お前、いつもと違う匂いがする」
「……」
 彼は黒岩の言葉にため息をついた。
 信号が変わりアクセルを踏むと、
「そんなこと言って、どうしたいの」
ともっともなことを口にする。

──だよな。聞きたいことがあれば、ストレートに言わなきゃ伝わらない。
まるで、浮気を疑うような言い方したって仕方ない。

「なあ、皇」
「ん?」
「俺が離婚したら付き合ってくれる?」
「はあ?!」
 どうやら直球すぎたようだ。

 しかしこの時の自分は、この後の選択次第で泥沼の三角関係になるなんて、思ってもいなかったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

ドSな義兄ちゃんは、ドMな僕を調教する

天災
BL
 ドSな義兄ちゃんは僕を調教する。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

消防士の義兄との秘密

熊次郎
BL
翔は5歳年上の義兄の大輔と急接近する。憧れの気持ちが欲望に塗れていく。たくらみが膨れ上がる。

処理中です...