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────3話*俺のものだから
11・君に恋した日
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****♡Side・電車
──何、この愛想の悪そうな人。
賑やか、和やかが好きな電車にとっては監獄に等しい環境で、塩田への第一印象はそれだった。苦情の処理の仕方は斬新かつ、塩。ひやひやすることも多かったが、彼は何故かクレーマーに気に入られていた。
「どうした?」
慣れない部署、慣れない業務。連日の残業。過酷を極めていたあの頃、正直限界だった。寝不足が重なり、ミスを連発。そんな時、彼が話しかけて来たのだった。
電車はてっきり、塩田は人と関わるのが嫌いなのだと思っていた。しかし彼は対応が塩なだけで、とても優しいのだと知る。
「ミスが多くて終わらない」
と涙目で訴えれば、
「ちょっと休憩して、頭切り替えて来いよ」
と彼。
「でも、これ以上遅くなったら帰れないし」
電車の家は会社から数駅であったが、最終の時刻が早かったのだ。
「そしたら、うち泊めてやるから。俺も手伝うし」
「え……?」
「そんな顔しなくても、うち徒歩五分だから大丈夫だよ」
**
思えば、あの頃から自分は塩田に甘えっぱなしだ。頼られる男になりたいとは思っているが、ついてしまったイメージはなかなか払拭できそうにはない。
それよりも……。
「ねえ、塩田」
「ん?」
「そろそろ一緒に暮らしたいな」
いつまでも、彼の家に入り浸っているわけにもいかない。正式に一緒に暮らしたいなと思っている。ダメならダメで説得するしかない。
「いいよ」
「え?」
あまりにも軽い返答に、電車のほうが驚く。
「うちに越してくればいいだろ? どうせ、管理人とも顔見知りなんだし」
すんなりいくよ、と彼は言う。
「それに賃貸じゃないしな」
「は?」
さらりとすごいことを言われ、電車は混乱した。二十代前半でマンションを購入するのは珍しいことではないが、塩田がそういうタイプに見えなかったから驚いたのである。
「ほら、俺。恋とかしたことないし。しないと思ってたから」
「うん?」
「一生独り身かもしれないしな」
先を見越して購入したということだろうか。
「塩田」
「ん?」
電車は彼の髪をサラリと撫で、
「いつか俺と結婚してくれる?」
と問う。
世は同性婚可能な時代。障害があるとするならば、彼の気持ちだけだ。
「浮気しなけりゃな」
さっきのことを思い出したのだろうか、少し不機嫌な彼。
「あれは、そんなんじゃないって」
「じゃあ、何話してたんだよ」
彼が話の内容に興味を持つこと自体が初めてのことで、電車の顔が嬉しさでにやけた。
「ニヤニヤしやがって、ムカつく」
「そんな怒らないでよ。塩田と付き合うことになったって報告してただけだよ」
「は?」
今度は彼のほうが驚く。
「ちゃんと俺のものだって宣伝しとかないと、塩田狙ってる人多いしさ」
この場合の狙っているは、もろに身体をである。彼はそのことを知らない。
「俺、モテないケド? お前と違って」
しょっちゅう襲われるが、確かにモテているわけではない。電車はそのことには触れずに、
「帰ろっか」
とその手を掴み、曖昧に微笑んだのだった。
──何、この愛想の悪そうな人。
賑やか、和やかが好きな電車にとっては監獄に等しい環境で、塩田への第一印象はそれだった。苦情の処理の仕方は斬新かつ、塩。ひやひやすることも多かったが、彼は何故かクレーマーに気に入られていた。
「どうした?」
慣れない部署、慣れない業務。連日の残業。過酷を極めていたあの頃、正直限界だった。寝不足が重なり、ミスを連発。そんな時、彼が話しかけて来たのだった。
電車はてっきり、塩田は人と関わるのが嫌いなのだと思っていた。しかし彼は対応が塩なだけで、とても優しいのだと知る。
「ミスが多くて終わらない」
と涙目で訴えれば、
「ちょっと休憩して、頭切り替えて来いよ」
と彼。
「でも、これ以上遅くなったら帰れないし」
電車の家は会社から数駅であったが、最終の時刻が早かったのだ。
「そしたら、うち泊めてやるから。俺も手伝うし」
「え……?」
「そんな顔しなくても、うち徒歩五分だから大丈夫だよ」
**
思えば、あの頃から自分は塩田に甘えっぱなしだ。頼られる男になりたいとは思っているが、ついてしまったイメージはなかなか払拭できそうにはない。
それよりも……。
「ねえ、塩田」
「ん?」
「そろそろ一緒に暮らしたいな」
いつまでも、彼の家に入り浸っているわけにもいかない。正式に一緒に暮らしたいなと思っている。ダメならダメで説得するしかない。
「いいよ」
「え?」
あまりにも軽い返答に、電車のほうが驚く。
「うちに越してくればいいだろ? どうせ、管理人とも顔見知りなんだし」
すんなりいくよ、と彼は言う。
「それに賃貸じゃないしな」
「は?」
さらりとすごいことを言われ、電車は混乱した。二十代前半でマンションを購入するのは珍しいことではないが、塩田がそういうタイプに見えなかったから驚いたのである。
「ほら、俺。恋とかしたことないし。しないと思ってたから」
「うん?」
「一生独り身かもしれないしな」
先を見越して購入したということだろうか。
「塩田」
「ん?」
電車は彼の髪をサラリと撫で、
「いつか俺と結婚してくれる?」
と問う。
世は同性婚可能な時代。障害があるとするならば、彼の気持ちだけだ。
「浮気しなけりゃな」
さっきのことを思い出したのだろうか、少し不機嫌な彼。
「あれは、そんなんじゃないって」
「じゃあ、何話してたんだよ」
彼が話の内容に興味を持つこと自体が初めてのことで、電車の顔が嬉しさでにやけた。
「ニヤニヤしやがって、ムカつく」
「そんな怒らないでよ。塩田と付き合うことになったって報告してただけだよ」
「は?」
今度は彼のほうが驚く。
「ちゃんと俺のものだって宣伝しとかないと、塩田狙ってる人多いしさ」
この場合の狙っているは、もろに身体をである。彼はそのことを知らない。
「俺、モテないケド? お前と違って」
しょっちゅう襲われるが、確かにモテているわけではない。電車はそのことには触れずに、
「帰ろっか」
とその手を掴み、曖昧に微笑んだのだった。
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