R18【同性恋愛】リーマン物語『俺のものになってよ』

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────3話*俺のものだから

8・我関せず、いつもの苦情係

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****♡Side・塩田

 塩田たちが外出先から苦情係へ戻ると、珍しい人がカウンターに腰かけ不機嫌そうにしていた。課長唯野はカウンターに視線を投げると眉を顰める。
「副社長もそうだが、カウンターは座るところじゃないぞ。椅子に座れよ」
とパシッと相手の頭をひっぱたき、
「痛いな。一応上司だろ」
と文句を言われるが、
「俺の部署の上は副社長だよ」
と唯野。

 板井は、役職が上の総括を平気でひっぱたく唯野に対し埴輪顔をしたが。唯野と黒岩は同期な上、仲が良いことを知っているので塩田と電車でんまは見て見ぬふりをした。
 とは言え、誰に対してもニコニコしている唯野は黒岩にのみ塩対応。長い付き合いだからという一言で済まされない何かがあるように感じてしまう。
 だが塩田にとってはどうでもいいことだった。

「何してんだよ、人の部署で。暇なら焼肉についてくれば良かっただろ」
「暇なわけないだろ。それより、遅い!」
と黒岩。
「ちゃんと始業前に帰って来ただろ? 用があるなら電話してくればいいだろうが」
 唯野が反論するのも珍しいことだ。
「違う、社長たちだよ」
 唯野はイライラしている黒岩から視線を塩田に移すと、肩を竦める。
 そして、
「フランス料理でも食べてるんだろうよ」
と嫌味を残し、苦情係の奥の給湯室へ行ってしまった。
「なんだよ、意味わからん」
と黒岩は更に不機嫌になるが、
「食べるのに時間がかかるって意味じゃないですか?」
と板井がそっと助け船を出す。
 やはりできた男だ。

 塩田は、総括のことは板井が何とかするだろうと思い、鼻歌を歌いながらPCモニターに向かう電車のほうを見ると、
「ご機嫌だな」
と、声をかける。
 彼はモニターから、片肘の上に顎を乗せ頬杖をついている塩田に視線を向けた。
「美味かったのか? 肉」
と塩田が問えば、
「うん」
と微笑む、彼。

──なんだよ、クソ可愛いな。

「なに? そんな顔して」
 何故か彼は塩田の表情に驚いている。
「どんな顔だよ」
 塩田は自分がどんな顔をしていたのか分からず、彼に問うが。
「さあね」
とはぐらかされてしまう。
 不服そうに彼を見つめていると、
「今日は早く帰ろうね、塩田」
と言われ、
「あ? ああ……」
 なんだか気のない返事になってしまったのは、彼の笑顔に見惚れていたからである。


****♡Side・電車でんま

──どうしてそんな目で俺を見るの?
 キスしたくなっちゃうでしょ。

 電車は軽く唇を噛み、上目遣いでこちらをじっと見つめている塩田に手を伸ばすと、その髪に触れた。彼は物欲しそうな眼をし、電車の手を握りこむ。あまりベタベタしていると唯野からヤジが飛んできそうだ。
「?」
 しかし唯野は黒岩と何やら揉めているところだった。
「あれ、どうしたの」
と電車は彼に問うが、
「社長たちの帰りが遅いって、総括が文句言ってる」
と状況を説明してくれたのは板井である。
 塩田は、自分以外に電車の気が向くのが気に入らないらしく、ただムッとしていた。なんだか、可愛い。
「なんで不機嫌なの、塩田」
「別に」
 彼はついっと前を向くと、腕を組む。電車は彼の自分の気持ちに素直なところが分かりやすくて、とても好きだ。
「そんな顔してると……」
「なんだよ」
 チラとこちらを見る、彼。どうやら喧嘩はしたくないらしい。
 電車はフッと笑うと彼の耳元で、
「キスしちゃうよ?」
といたずらっぽく言う。
 すると彼は驚きに目を見開く。

──塩田、可愛いなー。

 電車は彼を眺めニコニコしていたのだが。
 この後、
「いちゃいちゃすんな!」
と、板井からティッシュ箱が飛んでくるのだった。
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