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────2話*俺のものでしょ?
21・優しい君は誰のもの?
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****♡Side・電車
『話をしよう、塩田』
『何を……』
皇副社長が資料室を出ていくまでの十数秒という短い時間は、二人にとってとても重く感じた────。
パタンとドアが閉まるなり塩田は、
「別れ話か? だったら断る」
と強い口調で言い放ち、唇を噛みしめた。
「塩田」
「話は終わりだ」
と彼はそっぽを向き、ぎゅっと目を閉じる。
そんな彼を電車は、”なんて愛しいのだろう?”と感じていた。
「っ?」
電車は掴んでいた腕を強く引き、彼を強く胸に抱きしめる。大丈夫だよと言うようにその背を撫でながら、
「俺ね、塩田が大好きなんだよ」
と告げ、浅く息をした。
「ずっと一緒に居たいと思ってる」
告白を聞いた彼が、電車の背中に腕を回す。
──俺にとって塩田は、世界一可愛い恋人だと思う。言葉にしなくって、こうやって気持ちを伝えようとしてくれているのに。どうして望んでしまうんだろう。
「どうして、助けてって言わないの?」
彼は来るなと言った。
「どうして俺に頼ってくれないの?」
自分は恋人なのに、どうして彼が頼る相手は自分じゃないのだろう。
「どうして、俺は塩田のいないところへはいけないのに、塩田は俺のいないところへ行ってしまうの?」
黙って電車の胸に顔を埋めていた彼が、そこで顔をあげる。
「お願いだから、俺の目の届かないところへ行かないで」
****♡Side・塩田
──俺はまた……。
いくつもの問いかけに何一つ答えることはできなくて、顔をあげた自分の瞳映ったのは、ハラハラと涙を溢す彼の姿だった。
──笑顔が見たいと願っているのに、どうして泣かせてしまうんだろう。
いつだって、ニコニコしている彼を泣かせることばかりしてしまう自分。そんな自分は、彼と釣り合わないのではないかと不安になって、何も言えなくなる。仲直りがしたかっただけなのに、またこうして傷つける。そして段々と、別れたほうが彼のためなのではないかと思い始めてさえいるのだ。
『俺ね、塩田が大好きなんだよ』
彼の言葉を心の中で反芻する。自分と居ても幸せになんて、してあげることはできない。そう、思うのに……。
──嫌だ。
別れたくない。
この手を離すなんて絶対嫌だ。
俺は、どうしたらいい。
「本当は束縛なんてしたくない。でも、俺の言う事聞いて」
涙を溢しながら、じっとこちらを見つめる彼。切ない懇願。
「わかった」
やっと発した塩田の言葉に彼は、そっと微笑んだ。塩田は彼のカーディガンのポケットに手をツッコむとハンカチを引っ張り出し、彼の目元に充てる。
「紀夫」
「うん?」
「悪かった……ごめん」
「いいよ」
続けて彼は、”俺もごめんね”と。
なんのことだろうと思っていると、
「塩田はそんなに欲求不満だったんだね」
と言われる。
「は⁈」
「俺以外の人でも感じるなんて」
「あ、あんなの生理現象だろ!」
「ふうん」
塩田はまだ知らない、【電車紀夫】が優しくする相手は塩田限定なこと。
陰で彼が計算高い、鬼畜ドSと言われていることを。
『話をしよう、塩田』
『何を……』
皇副社長が資料室を出ていくまでの十数秒という短い時間は、二人にとってとても重く感じた────。
パタンとドアが閉まるなり塩田は、
「別れ話か? だったら断る」
と強い口調で言い放ち、唇を噛みしめた。
「塩田」
「話は終わりだ」
と彼はそっぽを向き、ぎゅっと目を閉じる。
そんな彼を電車は、”なんて愛しいのだろう?”と感じていた。
「っ?」
電車は掴んでいた腕を強く引き、彼を強く胸に抱きしめる。大丈夫だよと言うようにその背を撫でながら、
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と告げ、浅く息をした。
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告白を聞いた彼が、電車の背中に腕を回す。
──俺にとって塩田は、世界一可愛い恋人だと思う。言葉にしなくって、こうやって気持ちを伝えようとしてくれているのに。どうして望んでしまうんだろう。
「どうして、助けてって言わないの?」
彼は来るなと言った。
「どうして俺に頼ってくれないの?」
自分は恋人なのに、どうして彼が頼る相手は自分じゃないのだろう。
「どうして、俺は塩田のいないところへはいけないのに、塩田は俺のいないところへ行ってしまうの?」
黙って電車の胸に顔を埋めていた彼が、そこで顔をあげる。
「お願いだから、俺の目の届かないところへ行かないで」
****♡Side・塩田
──俺はまた……。
いくつもの問いかけに何一つ答えることはできなくて、顔をあげた自分の瞳映ったのは、ハラハラと涙を溢す彼の姿だった。
──笑顔が見たいと願っているのに、どうして泣かせてしまうんだろう。
いつだって、ニコニコしている彼を泣かせることばかりしてしまう自分。そんな自分は、彼と釣り合わないのではないかと不安になって、何も言えなくなる。仲直りがしたかっただけなのに、またこうして傷つける。そして段々と、別れたほうが彼のためなのではないかと思い始めてさえいるのだ。
『俺ね、塩田が大好きなんだよ』
彼の言葉を心の中で反芻する。自分と居ても幸せになんて、してあげることはできない。そう、思うのに……。
──嫌だ。
別れたくない。
この手を離すなんて絶対嫌だ。
俺は、どうしたらいい。
「本当は束縛なんてしたくない。でも、俺の言う事聞いて」
涙を溢しながら、じっとこちらを見つめる彼。切ない懇願。
「わかった」
やっと発した塩田の言葉に彼は、そっと微笑んだ。塩田は彼のカーディガンのポケットに手をツッコむとハンカチを引っ張り出し、彼の目元に充てる。
「紀夫」
「うん?」
「悪かった……ごめん」
「いいよ」
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なんのことだろうと思っていると、
「塩田はそんなに欲求不満だったんだね」
と言われる。
「は⁈」
「俺以外の人でも感じるなんて」
「あ、あんなの生理現象だろ!」
「ふうん」
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