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────2話*俺のものでしょ?

17・酔った君は可愛くて

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****♡Side・塩田

────居酒屋”南国バナナ”にて。

「なんで不機嫌なんだよ」
 塩田と電車は“居酒屋・南国バナナ”のトイレの前にいた。
 帰りに呑みに行こうと言ったのは彼。自分はそれに従っただけなのに。電車はとても不機嫌……というより拗ねているようだ。
「二人で来たかったのに……」
 唇を噛みしめ俯く電車に、塩田はため息をつくとハグをする。会社では良い雰囲気だっただけに、ため息が漏れた。

「塩田ぁ……なんであいつら一緒なの……」
「しょうがないだろ、勝手についてくるんだから」
 ぎゅっと抱きしめ返す電車の背中を、よしよししてやる。塩田たちの卓には唯野、板井、マンションの管理人がいた。
「宅呑みにするか?」
「うん」
「じゃあ、コンビニ寄って帰ろう?」
 電車でんまは、二人の時間をとても大切にする。きっと今日も、そのつもりだったに違いない。
 以前だったら機嫌とりなんて絶対しない塩田だったが、彼の気持ちは大切にしたかった。

 **

「用が出来たので、先に帰る」
 塩田が唯野にそう告げると、あっさりと片手をあげた。これから黒岩たちがくるらしい。皇がついて来なかったことは意外だった。

「寒い」
 外に出ると電車が首を竦める。星の綺麗な夜だ。吐く息が白い。
「お前、なんでそんな薄着なんだよ」
 塩田は厚手のフード付きコートにマフラーをしていたが、彼はシングルのコートの襟を立てているだけで、手袋もマフラーもしていない。いくら塩田の家が徒歩五分とはいえ、寒々しい。
 塩田は彼の首に自分のマフラーをかけてやると、彼の手を掴み自分のコートのポケットに突っ込んだ。
「だって、いっぱい着たら太く見えるだろ? 塩田みたいに華奢なら良いけど、着太りしたくない」
「風邪引くだろ」
「塩田と釣り合わなくなるから、嫌だ」

 あまりにも可愛いことを言うので、塩田は小さく“バカだな”と溢す。電車はポケットの中で、繋ぐ手に力を込める。
「塩田モテるからさ」
「お前ほどじゃないよ」
 先日のクリスマスに色んな人からプレゼントを渡されている彼を、塩田は複雑な気持ちでみていた。
 そのことを指摘すれば、
「妬いてくれた?」
 そんな言葉が返ってくる。
 塩田は短く、
「ああ」
と返事をした。
 否定されると思っていたのか、彼が驚いた顔をする。
「ごめん」
「なぜ、あやまる」
「妬かせたから」
 
 電車の謝罪に、塩田は変な顔をした。
「妬かせたかったんだろ?」
「そんなんじゃないよ」
 寄り添って歩く、冬の夜。澄んだ空気に、優しい声。彼はいつだって優しい。全身で好意を伝えてくる。
「つまみ、イカ食べたい。あの辛いやつ」
 コンビニに向かいながら話題を変えようとしたが、
「俺、塩田が食べたい」
と彼が塩田の耳元で囁く。
 思わず彼を見上げるとキスされ、
「お前、ここ外だぞ」
と抗議をしてみたものの、澄んだ瞳に見つめられそれ以上責めることはできなかった。


****♡side・電車でんま

「うまッ」
「塩田、ネギ好きだよな」
 カウンターでイカを摘まむ塩田に、電車が微笑む。タコとキュウリのキムチ和えに、柔らかいイカ焼きをマヨネーズと一味とネギで和えた小鉢が、目の前に置かれている。
 シンプルであっさりしたものを好む塩田には、ご馳走だ。鯛のカルパッチョと小茄子の浅漬けをカウンターに並べながら、電車は次の料理に目を向ける。
「いい嫁になるぞ」
 ご機嫌な塩田に、電車は目を細めた。

「夫ね、塩田」
「ん?」
 言い直した電車に、塩田はきょとんとする。大根サラダにお手製の梅ドレッシングをかけ、小皿を並べると塩田の隣に腰かけた。
「美味しい?」
「もちろん」
「魚介類好きだね」
 エビとブロッコリーのサラダを頬張る彼に、電車は嬉しくなる。塩田は肉より魚介類が好きなようで。
「ぷりぷりして旨い」
 凝ったものには目を向けないが、彩りが鮮やかなものは喜んでくれる。

「お前も食えよ」
「うん、あーんして」
 冗談で言った言葉に、塩田が驚いた顔をした。電車は冗談だよと言おうとしたら、目の前にスプーンが差し出される。箸じゃ危ないと思った塩田が、持ちかえたようで。今度は電車の驚く番であった。
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