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────2話*俺のものでしょ?
16・天使みたいに微笑まないで
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****♡Side・塩田
唇を離し電車の胸に顔を埋めると、彼の鼓動が聞こえてホッとする。鼓動は生きている証拠、そこに存在している証拠だ。赤子が母の胸に抱かれていたころから、安らぎを感じる音。
「どうしたの?」
彼は胸の中の塩田を優しく抱きしめ、髪を撫でている。まるで子供を慰めるように。そういうところからして、皇と彼は違うのだろうと感じた。
「塩田、さすがにこのカッコは不味いから」
(株)原始人の休憩室は、各フロアに数部屋設置されている。一人でのんびりしたい者、みんなでおしゃべりしたい者様々。各人がちゃんとリフレッシュして業務に戻れるように、色々と工夫されていた。部屋には外の雑音をかき消すように音楽が流れているが、その曲も各部屋違っている。
「っしょっと……来て」
起き上がった彼は、塩田を膝の上で抱きしめた。
「これがお膝抱っこ?」
と塩田が問うと、
「横抱きより、この方がいいみたいだから」
塩田は彼の膝をまたぎ、向かい合って彼の首に腕を回し、肩に顔を埋めている。彼は塩田の背中に腕を回し、時々優しく撫でてくれた。
部屋には、某海賊の映画のサントラが静かに流れている。
「なんか、こういうの聴いていると、旅に出たくなるね」
と、彼は笑う。
塩田は優しいその声を聞いていたくて、黙って目を閉じた。
「人って不思議だね。陸でしか生きられないのに海に憧れる。安定した生活が一番なのに冒険したくなる」
「お前も何処か行きたいのか?」
「俺は……」
彼のトーンが下がったことに不安を感じた塩田は身体を起こし、その瞳を見つめた。
「塩田のいないところには行けない」
優しくて儚げな微笑と共に、紡がれる言葉。
「だって、心配だから」
「何処へだって一緒に行ってやるよ」
”置いていくなよ”と続け再び抱きつけば、
「うん」
と、彼は塩田をぎゅっと抱きしめる。
──どうしてこんなに傍にいるのに遠く感じるのだろう?
どうしたらもっと近くに感じることができるのだろう?
「紀夫」
「うん?」
「板井から聞いたんだが、先日お前の元彼女が会社に来たって」
「え? そうなの?」
どうやら彼も初耳だったらしい。
「紀夫は彼女の両親に会ったこと……あるんだよな?」
「彼女のお母さんには、たまたま一緒に買い物に行ったとき、出くわしたことはあるんだけど」
塩田はなんだか嫌な予感がした。
「なあ、板井は前からお前の彼女のこと知ってるのか?」
「それは……入社したばかりの時にここまで送ってもらったことがあって、その時に玄関で板井に会ったから、紹介した覚えがある」
「彼女って苗字なんて言うんだ?」
塩田は、何かが繋がっていくような気がし、胸騒ぎがする。
「たしか呉崎」
それはこの辺ではあまり聞かない名前であり……。
──嘘だろ?
まさか、あの人の親戚もしくは娘?
塩田は彼女に会った時のことを思い出す。電車は一般人だと言っていたが、どう見ても育ちのよさそうなお嬢様と言った感じであった。
わざわざ会社に来て伝言も残さず帰ったとなると、残す必要がなかったということになる。そう、電車に会いに来たのはついでだったということに。
「塩田、顔色悪いけど大丈夫?」
「ああ」
塩田は入社したばかりの頃耳にした、噂のことを思い出していたのだった。
唇を離し電車の胸に顔を埋めると、彼の鼓動が聞こえてホッとする。鼓動は生きている証拠、そこに存在している証拠だ。赤子が母の胸に抱かれていたころから、安らぎを感じる音。
「どうしたの?」
彼は胸の中の塩田を優しく抱きしめ、髪を撫でている。まるで子供を慰めるように。そういうところからして、皇と彼は違うのだろうと感じた。
「塩田、さすがにこのカッコは不味いから」
(株)原始人の休憩室は、各フロアに数部屋設置されている。一人でのんびりしたい者、みんなでおしゃべりしたい者様々。各人がちゃんとリフレッシュして業務に戻れるように、色々と工夫されていた。部屋には外の雑音をかき消すように音楽が流れているが、その曲も各部屋違っている。
「っしょっと……来て」
起き上がった彼は、塩田を膝の上で抱きしめた。
「これがお膝抱っこ?」
と塩田が問うと、
「横抱きより、この方がいいみたいだから」
塩田は彼の膝をまたぎ、向かい合って彼の首に腕を回し、肩に顔を埋めている。彼は塩田の背中に腕を回し、時々優しく撫でてくれた。
部屋には、某海賊の映画のサントラが静かに流れている。
「なんか、こういうの聴いていると、旅に出たくなるね」
と、彼は笑う。
塩田は優しいその声を聞いていたくて、黙って目を閉じた。
「人って不思議だね。陸でしか生きられないのに海に憧れる。安定した生活が一番なのに冒険したくなる」
「お前も何処か行きたいのか?」
「俺は……」
彼のトーンが下がったことに不安を感じた塩田は身体を起こし、その瞳を見つめた。
「塩田のいないところには行けない」
優しくて儚げな微笑と共に、紡がれる言葉。
「だって、心配だから」
「何処へだって一緒に行ってやるよ」
”置いていくなよ”と続け再び抱きつけば、
「うん」
と、彼は塩田をぎゅっと抱きしめる。
──どうしてこんなに傍にいるのに遠く感じるのだろう?
どうしたらもっと近くに感じることができるのだろう?
「紀夫」
「うん?」
「板井から聞いたんだが、先日お前の元彼女が会社に来たって」
「え? そうなの?」
どうやら彼も初耳だったらしい。
「紀夫は彼女の両親に会ったこと……あるんだよな?」
「彼女のお母さんには、たまたま一緒に買い物に行ったとき、出くわしたことはあるんだけど」
塩田はなんだか嫌な予感がした。
「なあ、板井は前からお前の彼女のこと知ってるのか?」
「それは……入社したばかりの時にここまで送ってもらったことがあって、その時に玄関で板井に会ったから、紹介した覚えがある」
「彼女って苗字なんて言うんだ?」
塩田は、何かが繋がっていくような気がし、胸騒ぎがする。
「たしか呉崎」
それはこの辺ではあまり聞かない名前であり……。
──嘘だろ?
まさか、あの人の親戚もしくは娘?
塩田は彼女に会った時のことを思い出す。電車は一般人だと言っていたが、どう見ても育ちのよさそうなお嬢様と言った感じであった。
わざわざ会社に来て伝言も残さず帰ったとなると、残す必要がなかったということになる。そう、電車に会いに来たのはついでだったということに。
「塩田、顔色悪いけど大丈夫?」
「ああ」
塩田は入社したばかりの頃耳にした、噂のことを思い出していたのだった。
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