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────2話*俺のものでしょ?
5・副社長の想いと願い
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****♡Side・副社長(皇)
「どうぞ」
皇が回転イスに腰かけ、塩田のデスクに横向きで片肘をつき額に手をあてうなだれていると、課長の唯野がコーヒーカップをそっと置いてくれた。
「ありがとう」
礼を述べれば、驚いた顔をする彼。
──俺だって礼ぐらい言うぞ?
普段なら、心の中でも”俺様”な皇だったが、今はそんな元気はない。唯野は自分よりだいぶ年上だ。落ち着いた雰囲気をまとっているのが、時々羨ましくもある。皇はため息を一つつくと、コーヒーカップに手を伸ばす。
苦情係の課長唯野は年齢の割には出世が遅い。
彼の同期である【黒岩】は、営業部時代には成績トップ。エリートコースまっしぐらの男だった。今は総括部長である。
社長からは『唯野君が営業部に居た時は、現総括の黒岩君とトップ争いをするくらい成績が良かった』と聞いていた。
唯野が出世できなかったのは、社長の思惑が深く絡んでいる。とすると学生時代から目をつけていた塩田をうちの社に引き込むためだろうか。
だとしても遅すぎではあるが。
──汚いことをしてくれる。
唯野さんがこのことを知ったら、どんな顔をするんだろう?
塩田を恨むだろうか?
それは好都合だなと思ってしまい、再びため息。自分は塩田にとらわれ過ぎている。塩田に出会う前は会社のことしか考えていなかった。自分がこんなに若くして副社長になれたのは、熱意があったからだ。
──会社の為なら自分だって犠牲にできた。
自分の人生さえ道具にした。
その同志が今の婚約者だ。
別に地位が欲しかったわけじゃない。この会社にそれだけの魅力があったからだ。異例の出世で副社長となった。皆が注目してくれることでより一層仕事に励めたが、塩田との出会いは自分に変化をきたす。仕事以外夢中になれるものを持たなかった自分は今、彼に夢中になっている。
──塩田の気持ちを自分に向けたい。
初めは塩田だけが自分に興味を持たないことが気に入らないだけだった。だが、彼が興味を持たないのは万民に対してなのを知り、自分だけの特別が欲しくなった。それはどんなに気持ちがいいものなのだろうか、と考えるだけで興奮した。
──そうか……。
皆が自分に注目してくれるのは”異例の速さで副社長に就任した”からであって、俺を見ているわけじゃない。物珍しいだけ。俺はそのことをどこかでわかっていたのかも知れない。
彼は誰にも興味を持たない。つまり、自分だけに興味を持ってくれる存在に成り得た特別な人。しかし彼にとって特別な相手は自分ではない。そして彼が他の人を”特別扱い”するところを、目の当たりにしてしまった。
──俺は【電車紀夫】が羨ましい。
俺は自分だけを見てくれる人ではなく、自分しか見ない人が欲しかったんだ。俺以外に興味を持たない人が。
でも……。
誰でもいいわけじゃない。
塩田じゃなきゃダメなんだ。
俺は塩田の心が欲しい。
皇は冷めたコーヒーを一口含むと再びため息をついたのだった。
「どうぞ」
皇が回転イスに腰かけ、塩田のデスクに横向きで片肘をつき額に手をあてうなだれていると、課長の唯野がコーヒーカップをそっと置いてくれた。
「ありがとう」
礼を述べれば、驚いた顔をする彼。
──俺だって礼ぐらい言うぞ?
普段なら、心の中でも”俺様”な皇だったが、今はそんな元気はない。唯野は自分よりだいぶ年上だ。落ち着いた雰囲気をまとっているのが、時々羨ましくもある。皇はため息を一つつくと、コーヒーカップに手を伸ばす。
苦情係の課長唯野は年齢の割には出世が遅い。
彼の同期である【黒岩】は、営業部時代には成績トップ。エリートコースまっしぐらの男だった。今は総括部長である。
社長からは『唯野君が営業部に居た時は、現総括の黒岩君とトップ争いをするくらい成績が良かった』と聞いていた。
唯野が出世できなかったのは、社長の思惑が深く絡んでいる。とすると学生時代から目をつけていた塩田をうちの社に引き込むためだろうか。
だとしても遅すぎではあるが。
──汚いことをしてくれる。
唯野さんがこのことを知ったら、どんな顔をするんだろう?
塩田を恨むだろうか?
それは好都合だなと思ってしまい、再びため息。自分は塩田にとらわれ過ぎている。塩田に出会う前は会社のことしか考えていなかった。自分がこんなに若くして副社長になれたのは、熱意があったからだ。
──会社の為なら自分だって犠牲にできた。
自分の人生さえ道具にした。
その同志が今の婚約者だ。
別に地位が欲しかったわけじゃない。この会社にそれだけの魅力があったからだ。異例の出世で副社長となった。皆が注目してくれることでより一層仕事に励めたが、塩田との出会いは自分に変化をきたす。仕事以外夢中になれるものを持たなかった自分は今、彼に夢中になっている。
──塩田の気持ちを自分に向けたい。
初めは塩田だけが自分に興味を持たないことが気に入らないだけだった。だが、彼が興味を持たないのは万民に対してなのを知り、自分だけの特別が欲しくなった。それはどんなに気持ちがいいものなのだろうか、と考えるだけで興奮した。
──そうか……。
皆が自分に注目してくれるのは”異例の速さで副社長に就任した”からであって、俺を見ているわけじゃない。物珍しいだけ。俺はそのことをどこかでわかっていたのかも知れない。
彼は誰にも興味を持たない。つまり、自分だけに興味を持ってくれる存在に成り得た特別な人。しかし彼にとって特別な相手は自分ではない。そして彼が他の人を”特別扱い”するところを、目の当たりにしてしまった。
──俺は【電車紀夫】が羨ましい。
俺は自分だけを見てくれる人ではなく、自分しか見ない人が欲しかったんだ。俺以外に興味を持たない人が。
でも……。
誰でもいいわけじゃない。
塩田じゃなきゃダメなんだ。
俺は塩田の心が欲しい。
皇は冷めたコーヒーを一口含むと再びため息をついたのだった。
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