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────2話*俺のものでしょ?
3・手を伸ばせば届く距離
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****♡Side・電車
「何を悩んでるのかわからないが、あんたはあんたらしくしてればいいんじゃないのか?」
電車は黙って二人の会話を聞いていた、資料室の入口で。
気づけば、二人は苦情係からいなくなっていて、
『課長、塩田は⁉』
と慌てる電車に、
『資料室だろ?』
と課長の唯野。
苦情内容をファイリングして資料室にしまうのは塩田の業務の一つ。何故、皇がついて行ったのかが気になる。また襲われたりするんじゃないかと、電車は不安になった。
「電車?」
資料室を出ようとした塩田が気づき、声をかけてくる。
「どうしたんだ? こんなところに立ち尽くして」
普段なら口数の少ない彼はとても心配そうに。
「二人で出て行ったから、心配になって……」
電車が素直に気持ちを告げると彼は驚いた顔をし、ふっと笑い、
「なんでそんな泣きそうな顔してるんだよ」
と、電車の頬に触れた。
「塩田」
電車はそんな彼を胸に引き寄せ、抱きしめる。
「え? 今なんて?」
思わず呟いてしまった言葉に彼が反応し、じっと電車を見つめたのだった。
****♡Side・塩田
まるで蚊の鳴くような小さな小さな声で、呟くように溢した電車の言葉に塩田は目を見開いた。
”浮気……しないで……”
塩田は心の中でため息をつく。それは塩田を疑っているのではなく、懇願だった。自分は彼を大切にしているつもりだが、不安にさせている。つまり、幸せには程遠いという事だ。塩田は自分自身にがっかりした。
「何でもない」
強がりなのだろうか。スッと目を伏せる彼に塩田は切なくなり、その襟元を引き寄せると、まだ室内に皇がいることも忘れ、口づける。
「んんッ……。はあッ……塩田?」
「不安にさせて、ごめんな」
戸惑う彼に、再び口づけようと顔を寄せたところで、
「ゴホン」
と背後から咳払い。
皇である。
「入口塞いで、イチャイチャか?」
皇は腕を組み、棚に寄り掛かってこちらを眺めていた。塩田は浅く息を吐くと、グイッと電車を引き寄せる。ドアの前を開けるためだ。
「どうぞ」
そして顎でドアを差し、外へ出るように促す。二人きりになりたかったからだ。皇はヤレヤレと肩を竦めると、二人の脇を通り部屋を出て行った。
「塩田……まっ……て」
「待たない」
ドアが閉まるなり、塩田は彼に口づける。観念したのか、大人しくなった彼が舌を絡め始めた。
「塩田……」
背中に回った彼の手が温もりをくれる。
「紀夫」
「っ!」
塩田は耳元で彼の名を呼び、耳たぶを甘嚙みした。彼は切なげに眉を寄せる。
「塩田は、なんでそうやって煽るんだよ……ここ会社なのに」
困る理由は二人の間あった。
そんな彼に塩田はいたずらっぽく笑うと、
「家まで我慢な」
と意地悪く告げるのだった。
「何を悩んでるのかわからないが、あんたはあんたらしくしてればいいんじゃないのか?」
電車は黙って二人の会話を聞いていた、資料室の入口で。
気づけば、二人は苦情係からいなくなっていて、
『課長、塩田は⁉』
と慌てる電車に、
『資料室だろ?』
と課長の唯野。
苦情内容をファイリングして資料室にしまうのは塩田の業務の一つ。何故、皇がついて行ったのかが気になる。また襲われたりするんじゃないかと、電車は不安になった。
「電車?」
資料室を出ようとした塩田が気づき、声をかけてくる。
「どうしたんだ? こんなところに立ち尽くして」
普段なら口数の少ない彼はとても心配そうに。
「二人で出て行ったから、心配になって……」
電車が素直に気持ちを告げると彼は驚いた顔をし、ふっと笑い、
「なんでそんな泣きそうな顔してるんだよ」
と、電車の頬に触れた。
「塩田」
電車はそんな彼を胸に引き寄せ、抱きしめる。
「え? 今なんて?」
思わず呟いてしまった言葉に彼が反応し、じっと電車を見つめたのだった。
****♡Side・塩田
まるで蚊の鳴くような小さな小さな声で、呟くように溢した電車の言葉に塩田は目を見開いた。
”浮気……しないで……”
塩田は心の中でため息をつく。それは塩田を疑っているのではなく、懇願だった。自分は彼を大切にしているつもりだが、不安にさせている。つまり、幸せには程遠いという事だ。塩田は自分自身にがっかりした。
「何でもない」
強がりなのだろうか。スッと目を伏せる彼に塩田は切なくなり、その襟元を引き寄せると、まだ室内に皇がいることも忘れ、口づける。
「んんッ……。はあッ……塩田?」
「不安にさせて、ごめんな」
戸惑う彼に、再び口づけようと顔を寄せたところで、
「ゴホン」
と背後から咳払い。
皇である。
「入口塞いで、イチャイチャか?」
皇は腕を組み、棚に寄り掛かってこちらを眺めていた。塩田は浅く息を吐くと、グイッと電車を引き寄せる。ドアの前を開けるためだ。
「どうぞ」
そして顎でドアを差し、外へ出るように促す。二人きりになりたかったからだ。皇はヤレヤレと肩を竦めると、二人の脇を通り部屋を出て行った。
「塩田……まっ……て」
「待たない」
ドアが閉まるなり、塩田は彼に口づける。観念したのか、大人しくなった彼が舌を絡め始めた。
「塩田……」
背中に回った彼の手が温もりをくれる。
「紀夫」
「っ!」
塩田は耳元で彼の名を呼び、耳たぶを甘嚙みした。彼は切なげに眉を寄せる。
「塩田は、なんでそうやって煽るんだよ……ここ会社なのに」
困る理由は二人の間あった。
そんな彼に塩田はいたずらっぽく笑うと、
「家まで我慢な」
と意地悪く告げるのだった。
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