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6話 この男、慎重につき

1・股間モミモミ映画?!

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『ガン見してとは言わないけれど、それだとあまり意味がないと思うの』
 悠は両手で顔を覆う蓮に、苦笑い。

 蓮は両腕を湯船のふちに置き、天井を見上げていた。
 時折、天井から落ちるしずく。
 男は一緒に風呂に入ることにロマンを感じるのかもしれないが、冷静に考えて身体を洗うところを眺められるのは恥ずかしいものである。

 確かに濡髪にうなじは、そそるものがあるが。

「今度また映画に行きたいなあ」
 不意打ちに顔を覆う蓮。
 身体を洗い終えた悠が湯船に足を踏み入れる。
 見慣れてないわけではないが、こんなところで元気になってしまっては困ってしまう。鼻血を吹きだしてスプラッターも遠慮したいところ。
「何が視たいの?」
 湯船に悠が収まったことをチラリと確認して手を避ける蓮。
 乳白色の湯のお陰で、肩からしたは見えない。

「面白そうなコメディを見つけてね、『麻薬密売犯は二度隠す』って映画なんだけれど」
 その瞬間、蓮は吹いた。
 とうとう見つけてしまったのか、あの禁断の映画を。
「もみもみするやつね」
と蓮。
「うん? 知っているの?」
「知っているというか、知らないというか」
 それでは知ってるのか知らないのか訳が分からない。
「次は三多くんたちも誘って大スクリーンでね」
「それは……やめた方が……」

 喜ぶ悠の隣で三人股間を抑える姿を想像し、蓮は唸る。
 その光景は見たくはない。
「え? どうして? 面白いものはおすそわけしないと」
 そんなの三多も蒼姫も求めてないと思うぞ! と思いながら、なんと返そうか思い悩む。 
 前回はお尻が風邪を引いたに違いない。また股間に打撃を与えるのはどうかと思う。むしろ何か恨みでもあるのだろうか?

──三多と蒼姫の股間に?

「俺は二人でデートしたいな」
 これが穏便かつ、妥当な言い訳だろう。
 悠が納得してくれるかどうかは別として。
「そういってくれるのは凄く嬉しいけれど、三多くんも蒼姫くんも前回の映画、カーナビで観たわけでしょ?」
「いや、一作は映画館で……」
 股間を殴られるコメディを勧められ、そうとは知らずに観に行った二人に同情してしまう。
 それもこれも悠のカラオケにつきあわなかったのが発端だとは言いづらい。
「でもほら、四人で観に行った方が楽しいと思うの」
 悠は時々強引である。

──股間をモミモミされる映画館を四人……で?!
 それはちょっとどうかしていると思うのだが?

 だが説得に失敗した蓮は、ここで折れるしかなかった。
 三多と蒼姫に心の中で『ごめん』と謝りつつ、
「そうだね」
と顔に笑顔を張り付けるしかなかった。
「楽しみだね! いつにしようか」
 悠が楽しいなら良いかと思うことにしたのだが、これが三多と蒼姫への地味な仕返しだと蓮が気づくのはもっと先のことである。
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