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3話 その男、彼女溺愛につき
5・可愛い彼
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あの時のことを思い出すと、今でもドキドキしてしまう。
誘ったのは自分。
風呂から上がった蓮は前髪をおろしていて、いつもとは雰囲気が違っていた。あの日初めて悠は、前髪をおろした彼の姿を見たのだ。
思った以上に幼く見えて……。
──可愛かったの!
悠は傍らに置いてあった大きいクッションを胸に抱えると悶絶した。
いつもきちっとした格好をし、人の何倍も仕事をする彼をカッコイイとは思っている。言動はちょっとオカシイが。
「悠?」
風呂から上がった蓮は、麦茶を片手に不思議そうにこちらに視線を向ける。
風呂上がりの彼はいつものように前髪おろしたまま。
「わたしも頂戴」
「入れるから、ちょっと待ってて」
とキッチンに引き返そうとした彼に、
「それでいいよ?」
と言えば、
「一口飲んじゃったし」
と言われる。
「うん、いい。ちょっと頂戴?」
「え? ああ……うん」
することはしているのに、いつまでも間接キスを躊躇う彼。
だが、彼からグラスを受け取ると飲まずにテーブルに置き、彼の袖を掴む。
「何、どうしたの?」
態勢を崩し、悠の座るソファーの背もたれに手をつく蓮。
そんな蓮の襟元を掴むと、
「ねえ、危ないって」
と、困った表情でこちらを見つめる彼に口づけた。
「突然どうしたの」
彼は赤い顔をして口元に手の甲をあてる。
「蓮が可愛いから」
”したくなっちゃった”と言えば、蓮はヤレヤレと言うようにため息をつくと悠の隣に腰かけた。
「髪は乾かしたの?」
と彼に問われ、
「うん」
頷いて彼の前髪に指先を伸ばす。
サラサラと指の間をすり抜ける髪。
「今日はごめんね」
「うん?」
謝罪の言葉を述べると彼は首を傾げる。
「ヤキモチ妬かせちゃって」
「あ……うん」
目を泳がせるのは、ヤキモチを妬くことが良いことだと思っていない証拠。
「でも、嬉しかったの」
動揺しているのか、麦茶のグラスに手を伸ばす彼。
しかし悠はその手を掴み、阻んだ。
「悪いことじゃないの」
「でも、雰囲気壊したし」
──社長にはおかしげな下ネタばかり言っているのに、そういうの気にするんだ。
”言葉にしてくれないから、行動が嬉しいのにな”と思いながら、蓮の指に自分の指を絡める悠。
「恋人になってから、まだ八か月くらいなんだねえ」
「そうだね」
──蓮が元カノと別れて来月で一年くらいなのか。
バレンタインどうしようかな。
やっとリラックスしたのか、彼が悠の背中に腕を回す。
引き寄せられて、その胸に顔を埋めれば良い匂いがする。
──良い匂いに感じる相手って遺伝子レベルで相性が良いっていうよね。
蓮の匂い、好き。
彼は何を考えているのだろう?
口数が少ない時は、緊張していることが多い。
そんな彼が悠の髪にちゅっと口づける。
「ねえ」
「んー?」
「そろそろ、あっちに行こうよ」
素面の時に蓮からお誘いをしてくれることは滅多にない。最初は勇気が必要だったけれど、それも慣れた。二人の間に多くの言葉は必要ないから。
誘ったのは自分。
風呂から上がった蓮は前髪をおろしていて、いつもとは雰囲気が違っていた。あの日初めて悠は、前髪をおろした彼の姿を見たのだ。
思った以上に幼く見えて……。
──可愛かったの!
悠は傍らに置いてあった大きいクッションを胸に抱えると悶絶した。
いつもきちっとした格好をし、人の何倍も仕事をする彼をカッコイイとは思っている。言動はちょっとオカシイが。
「悠?」
風呂から上がった蓮は、麦茶を片手に不思議そうにこちらに視線を向ける。
風呂上がりの彼はいつものように前髪おろしたまま。
「わたしも頂戴」
「入れるから、ちょっと待ってて」
とキッチンに引き返そうとした彼に、
「それでいいよ?」
と言えば、
「一口飲んじゃったし」
と言われる。
「うん、いい。ちょっと頂戴?」
「え? ああ……うん」
することはしているのに、いつまでも間接キスを躊躇う彼。
だが、彼からグラスを受け取ると飲まずにテーブルに置き、彼の袖を掴む。
「何、どうしたの?」
態勢を崩し、悠の座るソファーの背もたれに手をつく蓮。
そんな蓮の襟元を掴むと、
「ねえ、危ないって」
と、困った表情でこちらを見つめる彼に口づけた。
「突然どうしたの」
彼は赤い顔をして口元に手の甲をあてる。
「蓮が可愛いから」
”したくなっちゃった”と言えば、蓮はヤレヤレと言うようにため息をつくと悠の隣に腰かけた。
「髪は乾かしたの?」
と彼に問われ、
「うん」
頷いて彼の前髪に指先を伸ばす。
サラサラと指の間をすり抜ける髪。
「今日はごめんね」
「うん?」
謝罪の言葉を述べると彼は首を傾げる。
「ヤキモチ妬かせちゃって」
「あ……うん」
目を泳がせるのは、ヤキモチを妬くことが良いことだと思っていない証拠。
「でも、嬉しかったの」
動揺しているのか、麦茶のグラスに手を伸ばす彼。
しかし悠はその手を掴み、阻んだ。
「悪いことじゃないの」
「でも、雰囲気壊したし」
──社長にはおかしげな下ネタばかり言っているのに、そういうの気にするんだ。
”言葉にしてくれないから、行動が嬉しいのにな”と思いながら、蓮の指に自分の指を絡める悠。
「恋人になってから、まだ八か月くらいなんだねえ」
「そうだね」
──蓮が元カノと別れて来月で一年くらいなのか。
バレンタインどうしようかな。
やっとリラックスしたのか、彼が悠の背中に腕を回す。
引き寄せられて、その胸に顔を埋めれば良い匂いがする。
──良い匂いに感じる相手って遺伝子レベルで相性が良いっていうよね。
蓮の匂い、好き。
彼は何を考えているのだろう?
口数が少ない時は、緊張していることが多い。
そんな彼が悠の髪にちゅっと口づける。
「ねえ」
「んー?」
「そろそろ、あっちに行こうよ」
素面の時に蓮からお誘いをしてくれることは滅多にない。最初は勇気が必要だったけれど、それも慣れた。二人の間に多くの言葉は必要ないから。
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