R18【異性恋愛】『猟奇的、美形彼氏は』

crazy’s7@体調不良不定期更新中

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2話 この男、初恋につき

3・言えなくなった全てを

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「痛っ……」
 蓮は悠に近寄ると、無言でその肩を掴む。
 少し後ろに引かれ、口に咥えていたお菓子がポキっと折れた。
「え? 蓮……?」
 悠は驚いたように蓮を見上げる。
 周りの者たちは事の成り行きを黙って見守っているように感じた。
 次第に楽しい雰囲気を台無しにしたという自己嫌悪に苛まれて、蓮は無言で会場を出たのだった。

──なんでこんな気持ちになるんだろう?
 どうして悠は平気なんだろう。

 廊下に出ると、あちらこちらから楽し気な声が聞こえる。
 まるで自分が独りぼっちにでもなったような気分になり、泣きたくなった。
 ”もう、帰りたい”と思っていると、先ほど蓮に話しかけてきた営業部の同期の男性がやってくる。
 彼の名は三多みたという。
 蓮が壁に寄りかかり項垂れていると、
「池内。ごめんな」
と謝られた。
「なにが?」

 謝られる覚えなどない。
 雰囲気を壊したのは自分。
 心の狭い……自分なのだ。

 蓮は深いため息をつくと、
「謝る必要なんかないでしょ?」
と微笑んで見せる。
 三多は少し首を傾けると、
「池内、お前さ」
と眉を寄せて切り出す。
「うん?」
「我慢しすぎ。なんでそんな泣きそうな顔して笑うんだよ。そんなんだから、相模さんが」
 三多が言い終わらないうちに、
「蓮! 帰ろう」
と悠が連の上着と荷物、自分の荷物を持って会場から飛び出して来た。

 肩で息をしながら荷物と上着を蓮に押し付けると、彼女は三多を睨みつける。
「蓮に余計なこと言ってないでしょうね?」
 三多は悠の権幕にぎょっとし、一歩下がり両手を前にかざす。
「変なこと言ったら、許さないんだから」
 蓮には悠が何を怒っているのか分からなかった。
「幹事さんには帰るって言ってきたから。帰ろう? 蓮」
 怒りの為か潤んだ瞳で悠がじっと蓮を見つめている。
 蓮はなんと言っていいのか分からなかった。

「蓮」
 無言のまま手を引かれ駐車場に着くと、彼女が立ち止まる。
「ごめんね」
 悠が何故、謝るのか分からない。
 三多といい、悠といい、何故謝るのか?
「ぼーっとしてたら、王様ゲームにいつの間にか参加させられてて」
「俺が怒る理由はない」
 傍にいなかったのは、自分なのだから。
「じゃあ、なんで泣いてるの?!」
「泣いてなんか……」
 ないと言おうとして、口をつぐむ。
「蓮は、自分が泣いてるかどうかも分からないんだよ?」
 繋いでいた手が離れ、悠にぎゅっと抱き着かれた。

「ねえ? 嫌なことは嫌って言っていいの」 
 怖くて何も言えなくなってしまった自分のことを、誰よりも理解してくれているのは悠。
 そして、蓮をそうしてしまったことを後悔しているのも悠なのだ。
「わたしは、蓮の気持ちが知りたい。言ってくれなきゃ、わたしも言えないんだよ?」
 蓮がゆっくりと瞬きをすると、涙は落ちて悠を濡らした。
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