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2話 この男、初恋につき
3・言えなくなった全てを
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「痛っ……」
蓮は悠に近寄ると、無言でその肩を掴む。
少し後ろに引かれ、口に咥えていたお菓子がポキっと折れた。
「え? 蓮……?」
悠は驚いたように蓮を見上げる。
周りの者たちは事の成り行きを黙って見守っているように感じた。
次第に楽しい雰囲気を台無しにしたという自己嫌悪に苛まれて、蓮は無言で会場を出たのだった。
──なんでこんな気持ちになるんだろう?
どうして悠は平気なんだろう。
廊下に出ると、あちらこちらから楽し気な声が聞こえる。
まるで自分が独りぼっちにでもなったような気分になり、泣きたくなった。
”もう、帰りたい”と思っていると、先ほど蓮に話しかけてきた営業部の同期の男性がやってくる。
彼の名は三多という。
蓮が壁に寄りかかり項垂れていると、
「池内。ごめんな」
と謝られた。
「なにが?」
謝られる覚えなどない。
雰囲気を壊したのは自分。
心の狭い……自分なのだ。
蓮は深いため息をつくと、
「謝る必要なんかないでしょ?」
と微笑んで見せる。
三多は少し首を傾けると、
「池内、お前さ」
と眉を寄せて切り出す。
「うん?」
「我慢しすぎ。なんでそんな泣きそうな顔して笑うんだよ。そんなんだから、相模さんが」
三多が言い終わらないうちに、
「蓮! 帰ろう」
と悠が連の上着と荷物、自分の荷物を持って会場から飛び出して来た。
肩で息をしながら荷物と上着を蓮に押し付けると、彼女は三多を睨みつける。
「蓮に余計なこと言ってないでしょうね?」
三多は悠の権幕にぎょっとし、一歩下がり両手を前に翳す。
「変なこと言ったら、許さないんだから」
蓮には悠が何を怒っているのか分からなかった。
「幹事さんには帰るって言ってきたから。帰ろう? 蓮」
怒りの為か潤んだ瞳で悠がじっと蓮を見つめている。
蓮はなんと言っていいのか分からなかった。
「蓮」
無言のまま手を引かれ駐車場に着くと、彼女が立ち止まる。
「ごめんね」
悠が何故、謝るのか分からない。
三多といい、悠といい、何故謝るのか?
「ぼーっとしてたら、王様ゲームにいつの間にか参加させられてて」
「俺が怒る理由はない」
傍にいなかったのは、自分なのだから。
「じゃあ、なんで泣いてるの?!」
「泣いてなんか……」
ないと言おうとして、口を噤む。
「蓮は、自分が泣いてるかどうかも分からないんだよ?」
繋いでいた手が離れ、悠にぎゅっと抱き着かれた。
「ねえ? 嫌なことは嫌って言っていいの」
怖くて何も言えなくなってしまった自分のことを、誰よりも理解してくれているのは悠。
そして、蓮をそうしてしまったことを後悔しているのも悠なのだ。
「わたしは、蓮の気持ちが知りたい。言ってくれなきゃ、わたしも言えないんだよ?」
蓮がゆっくりと瞬きをすると、涙は落ちて悠を濡らした。
蓮は悠に近寄ると、無言でその肩を掴む。
少し後ろに引かれ、口に咥えていたお菓子がポキっと折れた。
「え? 蓮……?」
悠は驚いたように蓮を見上げる。
周りの者たちは事の成り行きを黙って見守っているように感じた。
次第に楽しい雰囲気を台無しにしたという自己嫌悪に苛まれて、蓮は無言で会場を出たのだった。
──なんでこんな気持ちになるんだろう?
どうして悠は平気なんだろう。
廊下に出ると、あちらこちらから楽し気な声が聞こえる。
まるで自分が独りぼっちにでもなったような気分になり、泣きたくなった。
”もう、帰りたい”と思っていると、先ほど蓮に話しかけてきた営業部の同期の男性がやってくる。
彼の名は三多という。
蓮が壁に寄りかかり項垂れていると、
「池内。ごめんな」
と謝られた。
「なにが?」
謝られる覚えなどない。
雰囲気を壊したのは自分。
心の狭い……自分なのだ。
蓮は深いため息をつくと、
「謝る必要なんかないでしょ?」
と微笑んで見せる。
三多は少し首を傾けると、
「池内、お前さ」
と眉を寄せて切り出す。
「うん?」
「我慢しすぎ。なんでそんな泣きそうな顔して笑うんだよ。そんなんだから、相模さんが」
三多が言い終わらないうちに、
「蓮! 帰ろう」
と悠が連の上着と荷物、自分の荷物を持って会場から飛び出して来た。
肩で息をしながら荷物と上着を蓮に押し付けると、彼女は三多を睨みつける。
「蓮に余計なこと言ってないでしょうね?」
三多は悠の権幕にぎょっとし、一歩下がり両手を前に翳す。
「変なこと言ったら、許さないんだから」
蓮には悠が何を怒っているのか分からなかった。
「幹事さんには帰るって言ってきたから。帰ろう? 蓮」
怒りの為か潤んだ瞳で悠がじっと蓮を見つめている。
蓮はなんと言っていいのか分からなかった。
「蓮」
無言のまま手を引かれ駐車場に着くと、彼女が立ち止まる。
「ごめんね」
悠が何故、謝るのか分からない。
三多といい、悠といい、何故謝るのか?
「ぼーっとしてたら、王様ゲームにいつの間にか参加させられてて」
「俺が怒る理由はない」
傍にいなかったのは、自分なのだから。
「じゃあ、なんで泣いてるの?!」
「泣いてなんか……」
ないと言おうとして、口を噤む。
「蓮は、自分が泣いてるかどうかも分からないんだよ?」
繋いでいた手が離れ、悠にぎゅっと抱き着かれた。
「ねえ? 嫌なことは嫌って言っていいの」
怖くて何も言えなくなってしまった自分のことを、誰よりも理解してくれているのは悠。
そして、蓮をそうしてしまったことを後悔しているのも悠なのだ。
「わたしは、蓮の気持ちが知りたい。言ってくれなきゃ、わたしも言えないんだよ?」
蓮がゆっくりと瞬きをすると、涙は落ちて悠を濡らした。
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