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────5章【葵と大里】

□5「大人になれない自分」

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****♡Side・咲夜

「それで、行くことになったの?」
と、久隆。葵は今。三人掛けのソファーの真ん中に座り、久隆と咲夜に挟まれ、ご機嫌だ。外出先から帰って来た葵は、まるでイジメにでもあったように、目を赤くして咲夜と久隆に抱きついた。
「だって、ズルいでしょ!大里ばっか」
葵の言葉に困った顔をする、久隆。それもそのはず、今はなるべく大里に合わないようにしているのだから。
「ねえ、いいでしょ?」
まるで両親に甘えるように、久隆に許可を取ろうとする葵。
「俺は、咲夜が良ければいいけど」
と言うのが、久隆の返答。すると今度は、咲夜のほうを見る葵。
「ねえ、いいでしょサク?圭一お兄ちゃんも来るんだって」

まるで子犬のように見つめてくる葵はズルいと思う。そんな風にされたら、断れない。それに久隆は兄と最近一緒に居られないことに寂しさを感じている。久隆に寂しい想いをさせるのは、不本意。
「うん、いいよ」
大里と二人きりと言うわけでもないし、大里グループ所有の別荘にも興味があった。何せ大里の家は宮殿だ。一体どんな別荘なのか想像もつかない。親バカという話は聞いてはいるが。大層娘たちに甘い父らしい。

「で、どんなところなの?」
と、問う咲夜。
「スキー場と温泉が近いんだって」
何故かそこで、葵はチラッと久隆の方に視線を向ける。どうやら、久隆がスキーやスノボーをやろうと言い出さないか、気になるらしい。久隆は運動神経が悪いというわけではないが、センスがない為下手である。
「俺、温泉行きたいな」
久隆が言うので、葵はホッとしたが冗談じゃない。
「ダメッ」
「え?」

───大里に久隆の裸、見せるなんて。

「人前で裸になるからダメ」
と咲夜が言うと、久隆は、
「あ。個室とか探そうか」
と話の方向を変えた。
「いいね」
と葵。二人でタブレットを覗き込む。二人は大人だな、と咲夜は思う。自分は久隆のこととなると、すぐ感情的になってしまう。一見甘えているようで、いつも冷静に自分たちを見ている葵が羨ましかった。
「どうしたの?サク」
心配そうに咲夜の顔を覗き込む、葵。
「どうも、してないよ」
精一杯の強がり。

───久隆を独り占めしたい。でも、縛り付けたいわけじゃない。

大人げない自分がイヤだ。二人に心配させてしまう自分も。対等で居たいのに。
「ここなんかどう?」
と、久隆。葵と咲夜に向かって画面を見せてくる。
「いいね、露天風呂だって」
と、葵が笑う。

───どうして自分は、笑えないんだろう。

強引に二人を、自分に合わせてしまったことが、咲夜の心に深く突き刺さってしまっていたのだった。
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