144 / 147
────5章【葵と大里】
□3「彼らにとっての脅威」
しおりを挟む
****♡Side・大里
「話って?」
大里は葵に呼ばれ、図書館近くの喫茶店にいた。ここで待ち合わせをするのは何度目だろうか。確か事件の前にもここに来たことがあった。たった数か月前のことなのに自分は、遠い過去に感じている。葵は窓際の席で、オレンジジュースを飲みながら、大里を待っていた。
「来るなり、それ?随分とご挨拶じゃない?」
葵の言う事は最もだが、気まずくていたたまれないのだ。
「ねえ、座ったら?」
「ああ」
どうして自分は、葵が怖いのだろうか。久隆とのことを咎められるのは分かっている。良くないことをしてしまったことも、分かっていた。
「何があったの?」
葵はため息をつくと、メニューを大里の方に押しやって。
「結婚しようって言った」
観念して全てを打ち明けようとした大里は、メニューに視線を落としながら、極めて冷静にそう告げる。一瞬の間があった後、
「はあ?!」
と葵が素っ頓狂な声を上げた。店内はざわついている為、目立つことはなかったが、
「頭どうかした?」
と素で問われる。
「大崎先輩…久隆の兄、が霧島の叔父である都筑と婚約した」
「あ、うん」
恐らく、葵も聞いていたのだろう。
「二人が婚姻してしまえば、霧島は親戚になる。初めの計画で必要とされていた、久隆と霧島の婚姻が絶対必要というわけではなくなる」
大里の話を聞いていた葵は、ふっと窓の外に目をやった。それは、自分も咲夜と婚姻することが出来るという道を示唆している。複雑な心境なのだろう。
「久隆は、このまま計画通りに霧島と婚姻するのは、片倉に対してフェアじゃないと思ったようだ」
そこで大里は一旦話を切った。店員が注文を取りに来たためだ。大里はコーヒーを注文すると、再び葵に視線を向ける。
「それってさ。俺も二人を揺るがす存在になっちゃってるってことだよね」
”どうして、すぐに言ってくれなかったのだろう”と、彼は呟くように言った。
「言えるわけ、ないだろ」
と、大里。
───フェアではないが、せっかくのチャンスも失いたくなかった。だから久隆はあんなに苦しそうだった。
「久隆にとっては、霧島も片倉も大切な存在なんだから。二人をくっつけてしまったら、自分は不要になると思っていたんだと思う」
自分だけじゃない。葵も傷つけることになるから、話をしたくなかったのだ。葵にとっても、久隆と咲夜は大事な存在。もし、二人を失ってしまったなら?
「久隆くん、バカだよ。そんなことあるわけないのに。ずっとずっと三人で一緒に居ようって約束したのに」
俯いた葵の瞳から涙が零れ落ち、テーブルを濡らす。大里はカーディガンのポケットからハンカチを取り出すと、彼に差し出した。彼は、震える手で、それを受け取る。
「だから俺は、そんな思いするくらいなら、俺と結婚しようって」
「大里」
「うん?」
「俺たちは、三人で一つなんだ。久隆くんが手を差し伸べてくれた時から、ずっと」
ハラハラ零れ落ちる涙。
「誰が欠けてもダメなの。お願いだから、俺たちのバランス崩さないで」
久隆はあの日、今にも沈みそうな泥船に乗って、救いのない大海原に投げ出された二人に手を差し伸べた。その相手の一人が運命の相手と知りながら、諦める選択をして、救うことに決めたのだ。心がボロボロになりながらも、必死で。それから三人は小さな小さな船にのり、幸せを模索し始めた。いつしか互いが固い絆で結ばれ、互いが居ればそれだけで幸せだと知ったのだ。
───俺は、その小さい船を簡単にひっくり返せる存在…。
自分が彼らにとって、どれほど脅威なのか。今さらながら気づかされた大里は、酷くショックを受けたのだった。
「話って?」
大里は葵に呼ばれ、図書館近くの喫茶店にいた。ここで待ち合わせをするのは何度目だろうか。確か事件の前にもここに来たことがあった。たった数か月前のことなのに自分は、遠い過去に感じている。葵は窓際の席で、オレンジジュースを飲みながら、大里を待っていた。
「来るなり、それ?随分とご挨拶じゃない?」
葵の言う事は最もだが、気まずくていたたまれないのだ。
「ねえ、座ったら?」
「ああ」
どうして自分は、葵が怖いのだろうか。久隆とのことを咎められるのは分かっている。良くないことをしてしまったことも、分かっていた。
「何があったの?」
葵はため息をつくと、メニューを大里の方に押しやって。
「結婚しようって言った」
観念して全てを打ち明けようとした大里は、メニューに視線を落としながら、極めて冷静にそう告げる。一瞬の間があった後、
「はあ?!」
と葵が素っ頓狂な声を上げた。店内はざわついている為、目立つことはなかったが、
「頭どうかした?」
と素で問われる。
「大崎先輩…久隆の兄、が霧島の叔父である都筑と婚約した」
「あ、うん」
恐らく、葵も聞いていたのだろう。
「二人が婚姻してしまえば、霧島は親戚になる。初めの計画で必要とされていた、久隆と霧島の婚姻が絶対必要というわけではなくなる」
大里の話を聞いていた葵は、ふっと窓の外に目をやった。それは、自分も咲夜と婚姻することが出来るという道を示唆している。複雑な心境なのだろう。
「久隆は、このまま計画通りに霧島と婚姻するのは、片倉に対してフェアじゃないと思ったようだ」
そこで大里は一旦話を切った。店員が注文を取りに来たためだ。大里はコーヒーを注文すると、再び葵に視線を向ける。
「それってさ。俺も二人を揺るがす存在になっちゃってるってことだよね」
”どうして、すぐに言ってくれなかったのだろう”と、彼は呟くように言った。
「言えるわけ、ないだろ」
と、大里。
───フェアではないが、せっかくのチャンスも失いたくなかった。だから久隆はあんなに苦しそうだった。
「久隆にとっては、霧島も片倉も大切な存在なんだから。二人をくっつけてしまったら、自分は不要になると思っていたんだと思う」
自分だけじゃない。葵も傷つけることになるから、話をしたくなかったのだ。葵にとっても、久隆と咲夜は大事な存在。もし、二人を失ってしまったなら?
「久隆くん、バカだよ。そんなことあるわけないのに。ずっとずっと三人で一緒に居ようって約束したのに」
俯いた葵の瞳から涙が零れ落ち、テーブルを濡らす。大里はカーディガンのポケットからハンカチを取り出すと、彼に差し出した。彼は、震える手で、それを受け取る。
「だから俺は、そんな思いするくらいなら、俺と結婚しようって」
「大里」
「うん?」
「俺たちは、三人で一つなんだ。久隆くんが手を差し伸べてくれた時から、ずっと」
ハラハラ零れ落ちる涙。
「誰が欠けてもダメなの。お願いだから、俺たちのバランス崩さないで」
久隆はあの日、今にも沈みそうな泥船に乗って、救いのない大海原に投げ出された二人に手を差し伸べた。その相手の一人が運命の相手と知りながら、諦める選択をして、救うことに決めたのだ。心がボロボロになりながらも、必死で。それから三人は小さな小さな船にのり、幸せを模索し始めた。いつしか互いが固い絆で結ばれ、互いが居ればそれだけで幸せだと知ったのだ。
───俺は、その小さい船を簡単にひっくり返せる存在…。
自分が彼らにとって、どれほど脅威なのか。今さらながら気づかされた大里は、酷くショックを受けたのだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる