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────4章【咲夜と葵】
□9「自分たちの進む道」
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****♡Side・久隆
「ねえ、久隆くんはさ」
「うん?」
葵がDIY で何かを作ってくれるというので、何を作ってもらおうか思案していた久隆は、葵に話しかけられ彼に視線を戻す。
「自分の決められた道を、重たいって思ったことはないの?」
久隆は葵とは違い、産まれながらに将来は社長に、というわけではない。元々は兄が社長に就任するはずであったし、一族の者もそのつもりであった。久隆が三つの時に、妻を亡くした父。その葬儀で元恋人に再会した。子供たちが成人したら再婚する約束をしていたが、その恋人は約束からたった二年で、交通事故により他界した。当時、久隆は五つ、兄である圭一は八つである。
あれが人生の分岐点だった。
一度目の。
父の元恋人は、姫川の人間。二人は代々、大崎家と姫川家に言い伝えられている”運命の恋人”という関係だったのだ。酒に溺れ、壊れていく父を兄はどんな想いで見ていたのだろうか。まだまだ幼い弟の面倒を見ながら。今は少しマシにはなったが、泥酔し書斎に転がる父を見て何度死んでしまったかと、思ったことか。
『おにいちゃん!おにいちゃん…』
わんわん泣きじゃくる久隆を抱き上げ、自分だって辛いのに一所懸命、
『久隆、大丈夫だよ』
と言っては久隆を安心させようとした兄。父がそんな状態なことに心を痛め、兄は自ら社長の座を辞退した。いつ父に何かあっても対応できるように、自分が副社長となり父を支え、次期社長の座を弟である久隆に譲り、支えていこうとしたのだ。久隆はそんな兄を誰より尊敬し、慕っている。だから自分は、兄の意向に異を唱えなかった。
「俺はさ、兄さんがいるから。どんなに重たくても、一緒に支えてくれる人がいるから、負けられないんだ」
「久隆くんはやっぱりすごいや」
「そんなことないよ。それにほら、今は兄さんだけじゃない。葵ちゃんや咲夜が一緒にいてくれるもの」
久隆の言葉に、葵がぎゅっと抱きつく。ずっと一緒に居るよというように。
「久隆くん」
「うん?」
「俺もいずれは、大崎グループで働きたい」
「え、お父さんの会社どうするの?継ぐんでしょ?」
葵は一人っ子だ。
「そんなの会社の人が継げばいいよ。ダメなら合併して」
どうやら冗談で言っているわけではなさそうだ。よく考えれば、自分たち三人には共通点多い。三人とも父とは何らかの確執だったり、問題を抱えていた。自分たちが立てた計画を滞りなく遂行するためには、そろそろこの問題に解決しなければならない。
気は重いけどな。
「話し合いの場でも作るか」
「ん?みかん?」
「そんなこと、一言も言ってないよ」
「え?」
「ねえ、久隆くんはさ」
「うん?」
葵がDIY で何かを作ってくれるというので、何を作ってもらおうか思案していた久隆は、葵に話しかけられ彼に視線を戻す。
「自分の決められた道を、重たいって思ったことはないの?」
久隆は葵とは違い、産まれながらに将来は社長に、というわけではない。元々は兄が社長に就任するはずであったし、一族の者もそのつもりであった。久隆が三つの時に、妻を亡くした父。その葬儀で元恋人に再会した。子供たちが成人したら再婚する約束をしていたが、その恋人は約束からたった二年で、交通事故により他界した。当時、久隆は五つ、兄である圭一は八つである。
あれが人生の分岐点だった。
一度目の。
父の元恋人は、姫川の人間。二人は代々、大崎家と姫川家に言い伝えられている”運命の恋人”という関係だったのだ。酒に溺れ、壊れていく父を兄はどんな想いで見ていたのだろうか。まだまだ幼い弟の面倒を見ながら。今は少しマシにはなったが、泥酔し書斎に転がる父を見て何度死んでしまったかと、思ったことか。
『おにいちゃん!おにいちゃん…』
わんわん泣きじゃくる久隆を抱き上げ、自分だって辛いのに一所懸命、
『久隆、大丈夫だよ』
と言っては久隆を安心させようとした兄。父がそんな状態なことに心を痛め、兄は自ら社長の座を辞退した。いつ父に何かあっても対応できるように、自分が副社長となり父を支え、次期社長の座を弟である久隆に譲り、支えていこうとしたのだ。久隆はそんな兄を誰より尊敬し、慕っている。だから自分は、兄の意向に異を唱えなかった。
「俺はさ、兄さんがいるから。どんなに重たくても、一緒に支えてくれる人がいるから、負けられないんだ」
「久隆くんはやっぱりすごいや」
「そんなことないよ。それにほら、今は兄さんだけじゃない。葵ちゃんや咲夜が一緒にいてくれるもの」
久隆の言葉に、葵がぎゅっと抱きつく。ずっと一緒に居るよというように。
「久隆くん」
「うん?」
「俺もいずれは、大崎グループで働きたい」
「え、お父さんの会社どうするの?継ぐんでしょ?」
葵は一人っ子だ。
「そんなの会社の人が継げばいいよ。ダメなら合併して」
どうやら冗談で言っているわけではなさそうだ。よく考えれば、自分たち三人には共通点多い。三人とも父とは何らかの確執だったり、問題を抱えていた。自分たちが立てた計画を滞りなく遂行するためには、そろそろこの問題に解決しなければならない。
気は重いけどな。
「話し合いの場でも作るか」
「ん?みかん?」
「そんなこと、一言も言ってないよ」
「え?」
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