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────3章【久隆と大里】

□5「君に溺れて失う理性」

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****♡Side・久隆

なんて愛しいんだろう、久隆は率直にそう感じた。食事の前にあんなに愛し合ったのに、自分を求める彼が可愛くて。駄目だと思うのに、欲しい。辛いのは彼だ、その身体に負担をかけてしまうのは不本意なのに。
「んッ?!」
「最後まではしないから」
と、彼を強く抱き寄せ、唇を奪うとわき腹を撫で上げた。

どうしてだろう?
まるで呪われてでもいるように、君が欲しくてたまらなくなるんだ。
揺るがない理性が誇りだったのに。
咲夜の前では無意味だな…。

「何で笑って?」
と、不思議そうな彼。久隆がクスッと笑うと、彼はそれに反応した。なんでもないよと、髪に口付け更にぎゅっと抱き寄せる。この温もりを決して失わないように。
「いや」
「なあに?俺には内緒?」
と、ぷくっと顔を膨らませるのが可愛らしい。
「咲夜の前では理性が飛ぶなと思って」
髪を撫でながらそういって微笑むと、彼は凄く嬉しそうな顔をした。その意外な反応に久隆は目を見開く。
「嬉しい」
「何故?」
と、ぎゅっと抱きつく彼の背中を擦りながら問えば、
「だって、理性の塊のような久隆が俺には欲情してくれるんでしょ?」
と返ってくる。

へんなこと言うんだな。
何時だって咲夜のことで頭がいっぱいで。
大里を怒らせてしまうくらいなのに。

「俺は、初めて出逢ったときから、咲夜に夢中だよ?」
「!」
「大事にしたいから、我慢してるだけだよ」

俺の愛しい子。
君以外を欲しいと思ったことなんて、無い。
再会を夢見て、たた…。

そこで久隆は、再会したときの絶望感を思い出し、思考を止《と》めた。いつも傍にいてくれた兄は忙しくなり、和…(姫川 都筑)と共に任務を与えられたのは中学の時。あの頃はまだ都筑のことを良く知らなくて、どれだけ心細かったことか。頼みの綱の大里は、遊び人で有名になっていて、心理的には孤立無援状態。そんな中で自分は『想い続けた初恋』を手放さなければならない事態に陥った。今、こうしていられるのは葵のお陰なのだ。

「我慢しなくていいのに」
と、ほんのり頬を染める咲夜の香りが少し強くなる。久隆の理性を狂わせる良い香り。人の匂いは食べているもので決まるとはいうけれど。だから同じ食生活をしていると、夫婦は互いに対し性欲が薄れる原因の一つにもなるらしい。しかし、彼の香りは久隆にとっては変わらないものだった。こんなに一緒に居るのに。確かに大崎邸は一般家庭とは違うかもしれない。朝昼晩と個人個人が好きな物を食すことができるから。

久隆はそんな風に考えているが、これが大崎一族と姫川一族に伝承されている”運命の恋人”の証拠なのだ。互いの香りを好み、惹かれ合い安心できる存在。身体の相性が恐ろしく良いとも言われている。

「咲夜が壊れちゃうだろ」
と久隆が言うと、
「そんなにしたいの?!」
と、彼。

なんで嬉しそうなんだ。
へんな子だな。

かつては鉄壁の理性などと呼ばれていた咲夜なのにと、自分に欲情されて喜ぶ彼の姿を見ていると、久隆は複雑な気分になってくるのだった。
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