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────6章『絆』
■11「力を合わせて作れ、学園の絆」
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****♡Side・大里
────大崎邸リビングにて。
大里は葵と大崎家二階のリビングにいた。
「久隆は大丈夫なのか?」
いつだって、大里の心を占めるのは久隆こと。本当は全然強くなんてないくせに、自分は気丈だと思い込んでいる久隆だから心配している。
「サクがついてるから大丈夫だよ」
葵はソファーの上で膝を抱え、大里の質問にそう返す。テーブルの上には、祭りの出店で彼が久隆にねだって買って貰ったものが並んでいた。
「久隆くんって、不思議な人だよね」
と、葵。
「ん?」
そわそわしていた大里は葵の言葉に安堵し、彼のところまで歩いていくと、隣にゆっくりと腰かけた。
「久隆くんはいつの間にか心の中に入り込んでいて。今じゃ、彼のいない毎日なんて考えられなくなってる」
久隆はこの数ヶ月で、葵にたくさんのものを与えた。目に見えるもの、見えないもの、たくさん。
「高校に入ったばかりの頃にね、俺」
と葵は入学当時のことを話し出す。
「うん」
「クラスの奴らに回されそうになったんだ」
「ッ」
「風紀の人達が助けてくれて未遂で済んだけどさ。クラスの外部生が風紀委員に通報してくれたらしいんだ」
当時のことを思いだし、葵は身震いする。大里は黒川から聞いていたことを思い出した。
「それでクラスにいるのが怖くなって、いつもサクと二人で生徒会室の近くでだべってた。ほら、同中の先輩が生徒会にいたから」
「ああ、鶴城先輩な」
大里は風紀委員会室に入り浸っていたので、鶴城のことは知っている。風紀委員会の委員長と仲の良い二年で、生徒会副会長。
「だから六月の終わり頃サクが、中庭で内部生に絡まれたことがきっかけで久隆くんと仲良く?かな、なったのを知って怖かった。ひとりぼっちになっちゃうかもしれないって」
「辛かったな」
大里は、葵の肩を抱き寄せた。友人がおらず、幼なじみで初恋の相手である久隆を二人に取られてしまうのではないか、と恐れた自分には彼の気持ちは痛いほど理解できる。
「俺の不安とは裏腹に、久隆くんは俺たちを守ってくれたんだ。だから、サクが久隆くんの初恋の相手で、ずっと想い続けていたことを知った時、俺..」
彼の瞳から耐えきれなくなった涙がこぼれ落ちた。
葵が”久隆は咲夜を好きなのだろうな”と感じたのは”久隆が咲夜を抱いた”というカミングアウトを受ける少し前。彼が幼い時から咲夜を想っていた事を知ったのは先ほどの花火大会時のことである。皆とはぐれてしまって、不安そうにしている葵に、気を紛らわせてあげようと久隆が話してくれたのだと、彼はそのことを知った経緯を大里に続けて話してくれた。
「どんなに辛い想いして、俺たちの恋を守ってくれようとしたんだろうって思った。俺ならできないよ、最愛の人を他の人とくっつける手伝いなんて」
「うん」
「今、自分が幸せなのは久隆くんのお陰なんだよ。だから今度は俺が、久隆くんの願いを叶える手伝いをする番だと思った」
ん?
片倉は何をしようというのだ?
「大里にも協力して欲しい。ううん、これは俺たち四人で力を合わせれば叶うかも知れないんだ」
葵は大里たちにとって、甘え上手なムードメーカー的な存在である。しかしそれ以上に、頭の回転が良い切れ者であると大里は感じていた。確かに葵はカッとなる直情型ではあるが、四人の中で一番、状況に合わせ臨機応変に動ける子なのだと思っている。以前、久隆たちの中で“王様”を葵だと位置づけた大里の見立ては強ち間違っていなかった。
「何をやらかす気なんだ?片倉」
と大里は彼に問う。
「学園のゲームを終わらせるんだよ」
「⁉」
それは大里が望んでいながら出来なかったことである。
「俺たちの関係は、内部生二人と外部生二人で構成されてる。これを利用するんだ」
「だが、どうやって?」
葵がどんな計画を立てているのか、大里には予測できない。
「この間言ってたよね?外部生の鶴城先輩が何故、生徒会副会長になれたのか」
それは、内外生問わずゲームの稼働しない平和な学園を望んでいる生徒が大半だからだ。元は、外部生が内部生をイジメたことに起因しており、外部生がイジメを止めることが平和の架け橋だったからゲームは存在している。
「鶴城先輩はきっと、来年は会長に立候補する」
「そうだろうな。今の風紀委員長は三年生だし卒業してしまうし、な」
「思い出して。学園が変わり始めたのは、久隆くんと大里を含む俺たちが“黒川くんに対する暴行事件”を風紀と生徒会を巻き込んで解決しようとしたからなんだよ?」
あの時、内部生と外部生は手を取りあった。ゲームを作った人間とゲームの頂点が、抑止側と手を組んで。もっと簡単に言えば”敵対している筈”の彼らは、実は同じ目的の為に奔走する仲間なんだと学園の者たちに知らしめたのだ。
「心を一つにできるチャンスなんだよ」
葵はソファーから降り、大里の前に立つ。
「内部生と外部生が敵対する時代は終わりにするんだ」
大里は、葵の瞳がキラキラするのを見ていた。
「俺たちが、鶴城先輩の後援会を作って応援演説をするんだよ!」
「!」
「100%イジメが無くなるわけじゃないとは思う。だけど、イジメをみんなで止めることができる結束力なら作れると思うんだ!」
彼は歩きながら熱く語り始める。
「これは、俺たちだから出来ることなんだよ!やらなきゃいけないんだ。久隆くんの為に」
「そうだな、やろう!」
第二、第三の久隆を作ったらいけない。
俺たちは学園の仲間なんだ。
大里と葵の考えは合致していた。
────大崎邸リビングにて。
大里は葵と大崎家二階のリビングにいた。
「久隆は大丈夫なのか?」
いつだって、大里の心を占めるのは久隆こと。本当は全然強くなんてないくせに、自分は気丈だと思い込んでいる久隆だから心配している。
「サクがついてるから大丈夫だよ」
葵はソファーの上で膝を抱え、大里の質問にそう返す。テーブルの上には、祭りの出店で彼が久隆にねだって買って貰ったものが並んでいた。
「久隆くんって、不思議な人だよね」
と、葵。
「ん?」
そわそわしていた大里は葵の言葉に安堵し、彼のところまで歩いていくと、隣にゆっくりと腰かけた。
「久隆くんはいつの間にか心の中に入り込んでいて。今じゃ、彼のいない毎日なんて考えられなくなってる」
久隆はこの数ヶ月で、葵にたくさんのものを与えた。目に見えるもの、見えないもの、たくさん。
「高校に入ったばかりの頃にね、俺」
と葵は入学当時のことを話し出す。
「うん」
「クラスの奴らに回されそうになったんだ」
「ッ」
「風紀の人達が助けてくれて未遂で済んだけどさ。クラスの外部生が風紀委員に通報してくれたらしいんだ」
当時のことを思いだし、葵は身震いする。大里は黒川から聞いていたことを思い出した。
「それでクラスにいるのが怖くなって、いつもサクと二人で生徒会室の近くでだべってた。ほら、同中の先輩が生徒会にいたから」
「ああ、鶴城先輩な」
大里は風紀委員会室に入り浸っていたので、鶴城のことは知っている。風紀委員会の委員長と仲の良い二年で、生徒会副会長。
「だから六月の終わり頃サクが、中庭で内部生に絡まれたことがきっかけで久隆くんと仲良く?かな、なったのを知って怖かった。ひとりぼっちになっちゃうかもしれないって」
「辛かったな」
大里は、葵の肩を抱き寄せた。友人がおらず、幼なじみで初恋の相手である久隆を二人に取られてしまうのではないか、と恐れた自分には彼の気持ちは痛いほど理解できる。
「俺の不安とは裏腹に、久隆くんは俺たちを守ってくれたんだ。だから、サクが久隆くんの初恋の相手で、ずっと想い続けていたことを知った時、俺..」
彼の瞳から耐えきれなくなった涙がこぼれ落ちた。
葵が”久隆は咲夜を好きなのだろうな”と感じたのは”久隆が咲夜を抱いた”というカミングアウトを受ける少し前。彼が幼い時から咲夜を想っていた事を知ったのは先ほどの花火大会時のことである。皆とはぐれてしまって、不安そうにしている葵に、気を紛らわせてあげようと久隆が話してくれたのだと、彼はそのことを知った経緯を大里に続けて話してくれた。
「どんなに辛い想いして、俺たちの恋を守ってくれようとしたんだろうって思った。俺ならできないよ、最愛の人を他の人とくっつける手伝いなんて」
「うん」
「今、自分が幸せなのは久隆くんのお陰なんだよ。だから今度は俺が、久隆くんの願いを叶える手伝いをする番だと思った」
ん?
片倉は何をしようというのだ?
「大里にも協力して欲しい。ううん、これは俺たち四人で力を合わせれば叶うかも知れないんだ」
葵は大里たちにとって、甘え上手なムードメーカー的な存在である。しかしそれ以上に、頭の回転が良い切れ者であると大里は感じていた。確かに葵はカッとなる直情型ではあるが、四人の中で一番、状況に合わせ臨機応変に動ける子なのだと思っている。以前、久隆たちの中で“王様”を葵だと位置づけた大里の見立ては強ち間違っていなかった。
「何をやらかす気なんだ?片倉」
と大里は彼に問う。
「学園のゲームを終わらせるんだよ」
「⁉」
それは大里が望んでいながら出来なかったことである。
「俺たちの関係は、内部生二人と外部生二人で構成されてる。これを利用するんだ」
「だが、どうやって?」
葵がどんな計画を立てているのか、大里には予測できない。
「この間言ってたよね?外部生の鶴城先輩が何故、生徒会副会長になれたのか」
それは、内外生問わずゲームの稼働しない平和な学園を望んでいる生徒が大半だからだ。元は、外部生が内部生をイジメたことに起因しており、外部生がイジメを止めることが平和の架け橋だったからゲームは存在している。
「鶴城先輩はきっと、来年は会長に立候補する」
「そうだろうな。今の風紀委員長は三年生だし卒業してしまうし、な」
「思い出して。学園が変わり始めたのは、久隆くんと大里を含む俺たちが“黒川くんに対する暴行事件”を風紀と生徒会を巻き込んで解決しようとしたからなんだよ?」
あの時、内部生と外部生は手を取りあった。ゲームを作った人間とゲームの頂点が、抑止側と手を組んで。もっと簡単に言えば”敵対している筈”の彼らは、実は同じ目的の為に奔走する仲間なんだと学園の者たちに知らしめたのだ。
「心を一つにできるチャンスなんだよ」
葵はソファーから降り、大里の前に立つ。
「内部生と外部生が敵対する時代は終わりにするんだ」
大里は、葵の瞳がキラキラするのを見ていた。
「俺たちが、鶴城先輩の後援会を作って応援演説をするんだよ!」
「!」
「100%イジメが無くなるわけじゃないとは思う。だけど、イジメをみんなで止めることができる結束力なら作れると思うんだ!」
彼は歩きながら熱く語り始める。
「これは、俺たちだから出来ることなんだよ!やらなきゃいけないんだ。久隆くんの為に」
「そうだな、やろう!」
第二、第三の久隆を作ったらいけない。
俺たちは学園の仲間なんだ。
大里と葵の考えは合致していた。
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