上 下
82 / 147
────6章『絆』

■6「話題は生徒会」

しおりを挟む
 ****♡Side・大里

「トムヤムクン美味しいねッ」
 大里は、葵が楽しそうに咲夜の隣で食事をする様子を、彼の正面の席から眺めていた。自分の隣に座る久隆の左手薬指には二個目のリング。“霧島の愛する片倉ごと愛する”とは、そういうことなんだなとため息をつく。大里はいまだ、久隆が心底、咲夜に惹かれている理由についてわからないままだった。自分には敵わない決定的なものが理由なら、久隆に対する無謀な恋にもいい加減、終着点が見えてくるのではないかと考えている。

 “難しく考えるから難しい”

 自分も久隆もよく口にする言葉。つまりそう言うことなのかもしれない。久隆は単純に“守ってあげたくなる子”を大事にしたくなるということ。久隆の葵に対する態度を見ていると、それ以外考えられない。諦めきれない理由はそれだけではない。自分と久隆の距離感だ。何を思ったのか、彼はその距離感を変えようとする。ハグ、背もたれ代わり、添い寝。そんなものは幼少の頃から、二人の間では当たり前に行われて来たことなのに。

 それらは、大里には安らぎを与え、彼にとっては安心と信頼の象徴だった。
 自分にとっては、時に理性との戦いにもなるが、久隆に触れても良いということが大里には最後の砦。もしそれを取り上げられたら..。自分は恐らく久隆を性的に傷つけるだろうし、彼もそれをどこかで分かっているから、ずっと続けて来たに違いないと思っていた。

 だが、悪い面もある。

 期待してしまう。諦めきれないのだ。友人として側に居られたらどんなに良いだろうか。他の人を好きになれたなら。

「大里」
「ん?」
 名前を呼ばれそちらに目を向けると、考え事をしている大里を久隆が心配そうに見ていた。

 くそッ。
 可愛い。
 これでタチなんだもんなぁ。

「大里は、来年生徒会入るのか?」
 と、久隆。
「んー。俺が生徒会なんか入ったらまた、暗黒時代とか言われるんじゃね?」
 大里は、頬杖をついてクスッと笑う。
「言うほど酷くなかったと思うけど?」
 と彼に言われ、
「久隆は、無関心だからな」
 といつも通りの憎まれ口を叩けば、
「はいはい、すみませんね」
 とため息をついて彼はそっぽを向く。

 え?
 えええええ?!
 あ、フォローしてくれてたのか。
 バカだな、俺ッ。

「ごめん!」
 と詫びをし、大里は慌てて久隆の手首を掴む。
 しかし彼は、
「別に」
 と視線を反らしたままだ。

 俺のダメなとこって、きっとこういうところなんだろう。
 頭痛がする。

 大里が諦めてスッと手の力を抜くと、
「!」
「なんだよ。そんな泣きそうな顔するなよ」
 と、久隆の指先が頬に触れる。

 な、な、何?!
 いつもはそんなことしないじゃないかよ!

 大里が悶絶している中、久隆は向かい側の二人に話を振っている。
「ねえ、葵ちゃんたちは生徒会役員に立候補するの?」
「え?外部生で生徒会って稀って言ってなかった?」
 久隆の問いにそう言って首を傾げる葵。
「うん。だって、立候補する人がいないから」
「ええ?!」

 外部生は内部生からイジメを受けることが多い。そんな学園を変えようと外部生からの立候補者がたくさんいて、でも内部生からの支持を得られずに落選するのではないのかと思っていたと、葵は口にした。
「違う、違う」
 と、久隆が苦笑する。
「大里がふんぞり返ってるから、びびって立候補者が出ないだけ」
「俺のせいかよッ」
 大里がすかさず久隆に突っ込みを入れる。
「だから、鶴城副会長はすごい人だよ」
 葵たちと同じ中学出身の現生徒会の副会長は鶴城と言う。

「猛者だな」
「へええええ」
 葵と咲夜は顔を見合わせた。
「でも、よく入選できたね」
 と、葵。
「そりゃ、内外生関係なくイジメを無くしたい気持ちは一緒だからじゃないかな」
 と、久隆。

 イジメがあるからゲームは無くならない。イジメは連帯責任、そう思わせる学園の王様ゲーム。いつ自分が巻き込まれるか分からないのなら、いっそ原因がなくなるのが安心への道だ。
「そうか..。これだ!」
 何かを閃いたように葵は呟き、明るい顔をしたのだった。

 ****

「眠い?」
 葵と咲夜がホームセンターの奥に入ってゆくのを見送ってから久隆と大里は、入り口のベンチに腰かけた。
「ちょっと」
「寄りかかっていていいぞ」
 と言えば、いつものように久隆が大里に寄りかかり腕と脚を組むと目を閉じる。彼の体温と身体に掛かってくる重さが愛しくて、大里は歌を口ずさむ。


 僕はあきらめない、負けないよ
 I refuse to give up, I refuse to give in
 君が僕のすべてなんだから
 You’re my everything


 歌の一節が自分と被る、one love。彼と自分の距離なんて、これ以上変わりっこないのに。
「大里」
「うん?」
 歌を黙って聴いていた久隆が、大里の名を呼び、
「ごめんな」
 と、何故か謝罪する。
「何が?」
 彼の好きなアーティストの曲だから、和訳くらい知っていてもおかしくはないが、何を言われるのだろうかと大里はドキドキした。

「俺はずるい」
「?」
「狡いんだよ..」
 苦々しいというように、繰り返す久隆に大里にはますます意味がわからない。“なんのこっちゃ”と思っていると、彼はおもむろに振り返り、大里の腕を掴み見上げた。

 何が、そんな辛いんだ?

 彼の表情を見て大里は思う。眉を寄せ、瞳を揺らす久隆は言うべきか迷っている。
「俺、大里の気持ちには答えられないくせに..」
「そんなの知ってる」
「大里の一番が自分じゃなきゃ嫌なんだ」
「え?」
「図書館で大里が黒川くんとイチャイチャしてるの見たとき、ちょっとイラっとしたんだ。大里に」

 え?
 何?
 めっちゃ可愛いんだけど?

「だから、ごめん」
「別に構わない。嬉しいし」
 彼は複雑な表情をして手を離すと体勢を戻した。
「大里はやっぱりドⅯだな」
 二人の気持ちは似ていてまったく異なることに、互いに気づかない。大里の久隆に対する気持ちが恋愛感情であるのに対し、久隆の気持ちは、母親を取られた時のようなヤキモチなのだ。知らぬは仏とはこの事か。しかし、そのことに気づいた者が別にいた。それは、葵である。

 後からこの二人のやり取りを嬉しそうに報告してくる大里に、葵は顔をひきつらせた。
『ねえ?それって...』
『ん?』
 あまりにも大里が嬉しそうだったので、
『一生教えない』
 と、葵は口をつぐんだのだった。
『えっ?え?!何?何?!』
『知らない方が身のためだよ』
 やれやれと肩を竦める葵。
『ちょ!片倉さーん?!』
 大里は混乱したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

処理中です...