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────5章『救え、彼らを』
■2「久隆と合流し」【微R】
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****♡Side・大里
大里は項垂れていた。
あれは、当然の反応なんだ。自分は、初めて出来た“友達”と言うものに浮かれていた。先日の事件で助け合いや協力が大切だと、彼らの行動から学んだはずなのに。自分の勝手な判断で、片倉を傷つけてしまった。
片倉に嫌われたらどうしよう?
もう、許してはもらえなかったらどうしたらいい?
それは、大里にとって初めての感情だった。久隆以外の誰かに愛想を尽かされることがこんなに怖いだなんて。
「大里、大丈夫か?」
「大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃ..」
隣で腕を組み、足を組んで目を閉じていた久隆が心配そうに大里の顔を覗き込んだ。
**
─────時は遡る。
大里は片倉邸の近くで、久隆の専属の運転手である佐倉に遭遇した。その佐倉が『久隆を見なかったか』と聞いてくるので”久隆が自分を探している”のだと気づく。久隆は和から“現金を持っていくように”と言われていたと佐倉は言う。この時間帯で卸せるのはコンビニだろうと踏み、マンションに帰ろうとしていた大里は、マンション近くのコンビニまで佐倉に送って貰うと、あとは自分に任せるように言って彼を帰した。足のつき辛い現金を持たせる意味を考えていると、案の定目星をつけていたコンビニに彼はいた。
「ぬあッ」
コンビニで久隆を見つけた大里は彼を拉致する。
「ビックリした」
人に見られるとまずい状況であるため、彼を物陰に連れ込むと、
「脅かすなよ。それより、色々聞きたいことがある」
と、彼に言われ大里の自宅であるマンションに向かったのだが、すでにマスコミが待ち構えていた。
「ほれ」
と、久隆にコンビニで購入したというマスクとキャップを渡される。
「戻るのは無理っぽいな。夕飯食べた?」
「いや」
冷静な彼に問われ、大里は首を横に振った。
「湿気た顔はやめろ。大里のやったことは悪意なのか?」
「断じて違う」
否定する大里に対し彼はため息をつくと、駅に向かって歩き出す。
「じゃあ、胸張ってろよ」
「...」
大里は彼の後を追った。
いつも思う。
久隆は見た目と中身のギャップが凄いと。
格好いいよなぁ、久隆は。
「何時だろ?」
彼は装飾品を好まない。デートなどでは、チョーカーくらいならつけてくれるが普段は腕時計すらしないヤツなのだ。
「二十一時過ぎかな」
大里は腕時計で時間を確認する。
「高そうな時計」
それを見て、彼が肩を竦めた。駅前の商店街は飲み屋が賑わっていて充分な明かりがある。
「三十分かかる」
「ん?」
「夕飯、現地でいいか?」
そういうと、久隆は駅に入って行く。
どこへ行くつもりなのだろうと考えていると、久隆が券売機で二枚の切符を買い、
「ほれ」
と、一枚大里へ差し出す。
「!」
大里は渡された切符ではなく、彼の左手薬指を見て驚く。
「なに?」
それに対し、不思議そうに大里を見つめる彼。
「指輪...?」
「ああ、咲夜とペアリング」
久隆は言葉こそ少ないものの凄く嬉しそうな顔をした。
あの久隆が指輪?!
変われば変わるものだな。
「あと三分でくる、急ごう」
彼と連れだって二人は駅のホームを目指す。
**
そして、今。二人は並んで電車に乗っている。
「何が不安?」
「片倉に嫌われたかも」
大里の呟くような吐露に久隆は目を閉じた。
「俺は、大里がしたことが悪意でないと知って安心した」
「...」
「葵ちゃんと、何を話したのか知らないけれど。話せば解ってもらえるんじゃないのか?」
“俺たちから幸せを奪わないでよ!”
あれは、憎しみだった。
解って..貰えるのだろうか?
「ったく。俺の計画に大穴空けやがって」
「っ!」
大里が恐る恐る彼の方を見ると笑っている。
「どんな計画だったのか、根掘り葉掘り聞いてやるから覚悟しとけよ」
「お、おう」
窓の外を駆け抜ける無数の光。
俺たちは何処へ向かうのだろう?
片倉は許してくれるのだろうか?
「咲夜、大丈夫かな」
突然、久隆が心配そうな声を出した。
「ん?」
「下手すると、二、三日帰れないぞ?」
久隆がどこを見ているのか、大里はその視線の先を追うと、彼は網棚に置かれた週刊誌を見つめている。
「週刊誌で思い出したんだけど、俺たちって...」
「あッ!」
大里は彼の言いたいことを察して思わず声を上げたのだった。
****
「え?!」
「なに」
駅からタクシーに乗り着いた先は、久隆の祖父の家。大崎グループ会長の家である。
「来るの初めてだっけ?」
「おう」
まさか行き先がこことは。
久隆の祖父にはパーティーで何度かあったことはあるが。
「こんばんはー」
久隆は引き戸を引いて中に入っていくと、
「久隆さん、お帰りなさい」
と、お手伝いさんが出てくる。
「お祖父ちゃん居る?大里、上がって」
「お邪魔します」
「まだお帰りになっておりません」
彼について長い廊下を着いて行く。広い日本家屋だ。
「お祖母ちゃん」
「あら、いらっしゃい」
久隆の祖母は優しそうな人で、
「お邪魔してます」
と挨拶をすると、
「大里くん、お久しぶりね」
とにっこり微笑んだ。
「ご無沙汰してます」
久隆は駅で買ったお菓子を渡しながら事情を説明している。大里は手持ちぶさたで外を眺めていた。
「大里、部屋いこう」
「おう」
再び久隆に着いて行くと、
「お祖父ちゃんたち慰安旅行で一週間くらいいないんだってさ」
と説明をしてくれる。着いた先は昔、久隆の父が使用していた部屋らしく、十二畳くらいありテレビや冷蔵庫など簡単な家電があった。
「一緒に寝るの?」
思わず大里は問う。
「なにか問題?布団は持ってきてくれるって」
久隆はソファーに腰掛け、テレビをつけながら、
「夕飯、今来るから」
と。大里は、旅館かよ!と、突っ込みを入れたくなる。障子を開けると月が綺麗だった。
「で、どういう計画だったの?」
「うん」
サンに腰掛けると大里は自分の立てた計画を説明する。片倉家に縁談を持ち込もうとしているターゲットから黒川を通し、実行日が今週末だという情報を聞き出した。大里は先手を打つため、片倉社長のところへ向かい事情説明をしたのだが実際は、片倉社長は以前自分の息子にしてしまったことを悔いていて、大里から持ちかけられた案は渡りに船だったようで、
『葵を守って欲しい』
と大里に彼は頭を下げた。大里は、黒川にマスコミへたれ込みをするように指示をする。ここで、一番重要なのは結納金がいくらかということ。“十億にはなる”これを世間に知らしめ、適度に噂が拡がったところで片倉家の方から婚約解消させる。このことにより、それ以上出せなければ片倉 葵を手に入れることは不可能だと思わせることが目的である。簡単には出せない額でなければ意味がない。
「なるほど」
と、久隆が顎に手をやったところで夕飯が届く。メインは刺身盛りであった。
「大里、食べようよ」
「ああ」
大里と彼はテーブルの前に移動し、
「美味しそう。頂きます」
と手を合わせると、彼もそれに習う。
「つまり、その計画を成功させるためには婚約解消までスキャンダルがあったら困るわけだ」
と、久隆。
「そうなるな」
と大里は返事をしたが、
「て、ことはそれまで待機ってことだね」
と言われ、むせる。
え?!
ちょっと、待った。
待機はいいけど、しばらく二人でここに居るってこと?!
「襲わないでな?」
そんな大里を見つめ、久隆がニヤニヤしながら言う。
「そんなことしないし!」
「何、慌てんだよ」
マジか。
大丈夫か、俺!
****
はあ。
なんでそんなに、警戒心ないんだ?
風呂に入って戻ると、久隆はスヤスヤと布団で眠っていた。傍らに腰掛け、その髪を鋤くと、シャンプーのいい匂いが鼻先を掠める。大里は一時期、毎晩久隆をレイプする夢を視ていたことがあり、その悪夢から救ってくれたのが彩都だった。見はじめたきっかけは、中学二年の時の学校行事…中等部と高等部生徒会での交流会である旅行。こんな風に久隆と寝ていて、あの日から悪夢は始まった。
また魘されるのか。
大里はため息をつくと布団に入った。
**
「いやッ..大里ッ」
大里は無言で久隆の服を剥いだ。
「やめろよッ」
嫌がって身を捩る彼を押さえつけ手首を拘束する。
「やめて!頼むから」
大里はうるさいと言うようにその唇を塞ぎ、肌に手を這わす。
「んッ..んんッ」
弾力のある肌にツンと立ち上がる胸の果実。摘み取るように摘まみ、転がせば久隆が羞恥に真っ赤な顔をした。
俺の腕の中で、イキ狂え。
欲しがって、腰を揺らせ。
「やあ..んんッ」
「ほら、感じてきた」
「いやだ!」
「まず、下から調教してやるよ」
「やめ..」
大里は久隆の下着を剥ぎ取ると、腰を抱えた。
「イヤだあああああ!」
**
「チッ」
大里は夜中に目を覚ます、久々に視た悪夢。
「最悪だ」
隣に眠る久隆を見て、ホッと胸を撫で下ろした。
大丈夫、夢だ。
何もしてない。
久隆を傷つけてはいない。
大里は掛け布団を避けると廊下へ出る。ガラスの向こう側に見える月が綺麗だった。久隆を早く帰してやりたい、と大里は切実にそう願っていた。このままでは、夢が現実になってしまいそうで怖い。
「大里」
「ッ?」
名前を呼ばれ振り返ると、寝ぼけ眼で襖に張りついている久隆が、フラフラしながら立っている。
「眠れないの?」
と、彼が可愛すぎて困る。
「ちょっと」
と、大里は眉を寄せ返事をした。
「添い寝してやろうか?」
そんなことを口にする彼は、ふにゃふにゃで。
「おい」
何やってんだ?
しょうがないヤツだな。
「久隆」
ずるずると襖を伝い座り込む彼を、大里は抱き上げ、
「寝てろよ」
と言えば、
「寂しい」
と彼が溢す。
「...」
久隆は気丈に振る舞っているだけで、咲夜や葵と居られないことを寂しく思っている。それが本音なのだと、大里は感じた。
「側にいてよ」
と、彼に胸に額をつけられ、大里はドキリとする。しかし彼に、変な意味はなく、その無邪気さは罪だと思った。
「わかったよ」
大里は観念し布団まで久隆を運んで行く、と添い寝をしてやる。
「いつも、あいつらと寝てるのか?」
「ううん。1日置き」
「間の日どうしてんだよ」
大里は横向きになると、肘をつき頭を乗せたカッコで子供を寝かしつけるようにポンポンと彼の体に優しく手を打つ。
「葵ちゃんがウサギの抱きぬいぐるみを作ってくれた」
「片倉は、器用なんだか不器用なんだかわからないな」
「そうだね」
クスクスと笑う彼。
「声、聴きたいな」
「先に、帰っていいんだぞ?」
寂しそうな彼に、大里は目を細めそう言うと、
「大里が困るでしょ」
と返ってくる。久隆は変に優しくて困る。こういうところが、いつまでも彼への恋心を引きづってる理由の一つなのだと、大里はため息をついた。
大里は項垂れていた。
あれは、当然の反応なんだ。自分は、初めて出来た“友達”と言うものに浮かれていた。先日の事件で助け合いや協力が大切だと、彼らの行動から学んだはずなのに。自分の勝手な判断で、片倉を傷つけてしまった。
片倉に嫌われたらどうしよう?
もう、許してはもらえなかったらどうしたらいい?
それは、大里にとって初めての感情だった。久隆以外の誰かに愛想を尽かされることがこんなに怖いだなんて。
「大里、大丈夫か?」
「大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃ..」
隣で腕を組み、足を組んで目を閉じていた久隆が心配そうに大里の顔を覗き込んだ。
**
─────時は遡る。
大里は片倉邸の近くで、久隆の専属の運転手である佐倉に遭遇した。その佐倉が『久隆を見なかったか』と聞いてくるので”久隆が自分を探している”のだと気づく。久隆は和から“現金を持っていくように”と言われていたと佐倉は言う。この時間帯で卸せるのはコンビニだろうと踏み、マンションに帰ろうとしていた大里は、マンション近くのコンビニまで佐倉に送って貰うと、あとは自分に任せるように言って彼を帰した。足のつき辛い現金を持たせる意味を考えていると、案の定目星をつけていたコンビニに彼はいた。
「ぬあッ」
コンビニで久隆を見つけた大里は彼を拉致する。
「ビックリした」
人に見られるとまずい状況であるため、彼を物陰に連れ込むと、
「脅かすなよ。それより、色々聞きたいことがある」
と、彼に言われ大里の自宅であるマンションに向かったのだが、すでにマスコミが待ち構えていた。
「ほれ」
と、久隆にコンビニで購入したというマスクとキャップを渡される。
「戻るのは無理っぽいな。夕飯食べた?」
「いや」
冷静な彼に問われ、大里は首を横に振った。
「湿気た顔はやめろ。大里のやったことは悪意なのか?」
「断じて違う」
否定する大里に対し彼はため息をつくと、駅に向かって歩き出す。
「じゃあ、胸張ってろよ」
「...」
大里は彼の後を追った。
いつも思う。
久隆は見た目と中身のギャップが凄いと。
格好いいよなぁ、久隆は。
「何時だろ?」
彼は装飾品を好まない。デートなどでは、チョーカーくらいならつけてくれるが普段は腕時計すらしないヤツなのだ。
「二十一時過ぎかな」
大里は腕時計で時間を確認する。
「高そうな時計」
それを見て、彼が肩を竦めた。駅前の商店街は飲み屋が賑わっていて充分な明かりがある。
「三十分かかる」
「ん?」
「夕飯、現地でいいか?」
そういうと、久隆は駅に入って行く。
どこへ行くつもりなのだろうと考えていると、久隆が券売機で二枚の切符を買い、
「ほれ」
と、一枚大里へ差し出す。
「!」
大里は渡された切符ではなく、彼の左手薬指を見て驚く。
「なに?」
それに対し、不思議そうに大里を見つめる彼。
「指輪...?」
「ああ、咲夜とペアリング」
久隆は言葉こそ少ないものの凄く嬉しそうな顔をした。
あの久隆が指輪?!
変われば変わるものだな。
「あと三分でくる、急ごう」
彼と連れだって二人は駅のホームを目指す。
**
そして、今。二人は並んで電車に乗っている。
「何が不安?」
「片倉に嫌われたかも」
大里の呟くような吐露に久隆は目を閉じた。
「俺は、大里がしたことが悪意でないと知って安心した」
「...」
「葵ちゃんと、何を話したのか知らないけれど。話せば解ってもらえるんじゃないのか?」
“俺たちから幸せを奪わないでよ!”
あれは、憎しみだった。
解って..貰えるのだろうか?
「ったく。俺の計画に大穴空けやがって」
「っ!」
大里が恐る恐る彼の方を見ると笑っている。
「どんな計画だったのか、根掘り葉掘り聞いてやるから覚悟しとけよ」
「お、おう」
窓の外を駆け抜ける無数の光。
俺たちは何処へ向かうのだろう?
片倉は許してくれるのだろうか?
「咲夜、大丈夫かな」
突然、久隆が心配そうな声を出した。
「ん?」
「下手すると、二、三日帰れないぞ?」
久隆がどこを見ているのか、大里はその視線の先を追うと、彼は網棚に置かれた週刊誌を見つめている。
「週刊誌で思い出したんだけど、俺たちって...」
「あッ!」
大里は彼の言いたいことを察して思わず声を上げたのだった。
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「え?!」
「なに」
駅からタクシーに乗り着いた先は、久隆の祖父の家。大崎グループ会長の家である。
「来るの初めてだっけ?」
「おう」
まさか行き先がこことは。
久隆の祖父にはパーティーで何度かあったことはあるが。
「こんばんはー」
久隆は引き戸を引いて中に入っていくと、
「久隆さん、お帰りなさい」
と、お手伝いさんが出てくる。
「お祖父ちゃん居る?大里、上がって」
「お邪魔します」
「まだお帰りになっておりません」
彼について長い廊下を着いて行く。広い日本家屋だ。
「お祖母ちゃん」
「あら、いらっしゃい」
久隆の祖母は優しそうな人で、
「お邪魔してます」
と挨拶をすると、
「大里くん、お久しぶりね」
とにっこり微笑んだ。
「ご無沙汰してます」
久隆は駅で買ったお菓子を渡しながら事情を説明している。大里は手持ちぶさたで外を眺めていた。
「大里、部屋いこう」
「おう」
再び久隆に着いて行くと、
「お祖父ちゃんたち慰安旅行で一週間くらいいないんだってさ」
と説明をしてくれる。着いた先は昔、久隆の父が使用していた部屋らしく、十二畳くらいありテレビや冷蔵庫など簡単な家電があった。
「一緒に寝るの?」
思わず大里は問う。
「なにか問題?布団は持ってきてくれるって」
久隆はソファーに腰掛け、テレビをつけながら、
「夕飯、今来るから」
と。大里は、旅館かよ!と、突っ込みを入れたくなる。障子を開けると月が綺麗だった。
「で、どういう計画だったの?」
「うん」
サンに腰掛けると大里は自分の立てた計画を説明する。片倉家に縁談を持ち込もうとしているターゲットから黒川を通し、実行日が今週末だという情報を聞き出した。大里は先手を打つため、片倉社長のところへ向かい事情説明をしたのだが実際は、片倉社長は以前自分の息子にしてしまったことを悔いていて、大里から持ちかけられた案は渡りに船だったようで、
『葵を守って欲しい』
と大里に彼は頭を下げた。大里は、黒川にマスコミへたれ込みをするように指示をする。ここで、一番重要なのは結納金がいくらかということ。“十億にはなる”これを世間に知らしめ、適度に噂が拡がったところで片倉家の方から婚約解消させる。このことにより、それ以上出せなければ片倉 葵を手に入れることは不可能だと思わせることが目的である。簡単には出せない額でなければ意味がない。
「なるほど」
と、久隆が顎に手をやったところで夕飯が届く。メインは刺身盛りであった。
「大里、食べようよ」
「ああ」
大里と彼はテーブルの前に移動し、
「美味しそう。頂きます」
と手を合わせると、彼もそれに習う。
「つまり、その計画を成功させるためには婚約解消までスキャンダルがあったら困るわけだ」
と、久隆。
「そうなるな」
と大里は返事をしたが、
「て、ことはそれまで待機ってことだね」
と言われ、むせる。
え?!
ちょっと、待った。
待機はいいけど、しばらく二人でここに居るってこと?!
「襲わないでな?」
そんな大里を見つめ、久隆がニヤニヤしながら言う。
「そんなことしないし!」
「何、慌てんだよ」
マジか。
大丈夫か、俺!
****
はあ。
なんでそんなに、警戒心ないんだ?
風呂に入って戻ると、久隆はスヤスヤと布団で眠っていた。傍らに腰掛け、その髪を鋤くと、シャンプーのいい匂いが鼻先を掠める。大里は一時期、毎晩久隆をレイプする夢を視ていたことがあり、その悪夢から救ってくれたのが彩都だった。見はじめたきっかけは、中学二年の時の学校行事…中等部と高等部生徒会での交流会である旅行。こんな風に久隆と寝ていて、あの日から悪夢は始まった。
また魘されるのか。
大里はため息をつくと布団に入った。
**
「いやッ..大里ッ」
大里は無言で久隆の服を剥いだ。
「やめろよッ」
嫌がって身を捩る彼を押さえつけ手首を拘束する。
「やめて!頼むから」
大里はうるさいと言うようにその唇を塞ぎ、肌に手を這わす。
「んッ..んんッ」
弾力のある肌にツンと立ち上がる胸の果実。摘み取るように摘まみ、転がせば久隆が羞恥に真っ赤な顔をした。
俺の腕の中で、イキ狂え。
欲しがって、腰を揺らせ。
「やあ..んんッ」
「ほら、感じてきた」
「いやだ!」
「まず、下から調教してやるよ」
「やめ..」
大里は久隆の下着を剥ぎ取ると、腰を抱えた。
「イヤだあああああ!」
**
「チッ」
大里は夜中に目を覚ます、久々に視た悪夢。
「最悪だ」
隣に眠る久隆を見て、ホッと胸を撫で下ろした。
大丈夫、夢だ。
何もしてない。
久隆を傷つけてはいない。
大里は掛け布団を避けると廊下へ出る。ガラスの向こう側に見える月が綺麗だった。久隆を早く帰してやりたい、と大里は切実にそう願っていた。このままでは、夢が現実になってしまいそうで怖い。
「大里」
「ッ?」
名前を呼ばれ振り返ると、寝ぼけ眼で襖に張りついている久隆が、フラフラしながら立っている。
「眠れないの?」
と、彼が可愛すぎて困る。
「ちょっと」
と、大里は眉を寄せ返事をした。
「添い寝してやろうか?」
そんなことを口にする彼は、ふにゃふにゃで。
「おい」
何やってんだ?
しょうがないヤツだな。
「久隆」
ずるずると襖を伝い座り込む彼を、大里は抱き上げ、
「寝てろよ」
と言えば、
「寂しい」
と彼が溢す。
「...」
久隆は気丈に振る舞っているだけで、咲夜や葵と居られないことを寂しく思っている。それが本音なのだと、大里は感じた。
「側にいてよ」
と、彼に胸に額をつけられ、大里はドキリとする。しかし彼に、変な意味はなく、その無邪気さは罪だと思った。
「わかったよ」
大里は観念し布団まで久隆を運んで行く、と添い寝をしてやる。
「いつも、あいつらと寝てるのか?」
「ううん。1日置き」
「間の日どうしてんだよ」
大里は横向きになると、肘をつき頭を乗せたカッコで子供を寝かしつけるようにポンポンと彼の体に優しく手を打つ。
「葵ちゃんがウサギの抱きぬいぐるみを作ってくれた」
「片倉は、器用なんだか不器用なんだかわからないな」
「そうだね」
クスクスと笑う彼。
「声、聴きたいな」
「先に、帰っていいんだぞ?」
寂しそうな彼に、大里は目を細めそう言うと、
「大里が困るでしょ」
と返ってくる。久隆は変に優しくて困る。こういうところが、いつまでも彼への恋心を引きづってる理由の一つなのだと、大里はため息をついた。
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