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────4章『手を取り合え、宝船と戦艦!』
■10「壊れゆくもの」
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****♡Side・葵
────片倉邸にて。
「お父さん!」
葵は家につくなり、奥の間にいるはずの父を探す。片倉邸は旅館のような作りで、中庭には日本庭園がある。
「お父さん、俺を金で売ったの!?」
葵が父とまともに顔を合わすのは、あの中学二年の忌まわしい事件以来だった。思い出したくもない、性的虐待。父は葵に女を宛がい、無理矢理性交渉をさせようとした。必死の抵抗と母のおかげで未遂で済んだものの、当時すでに咲夜に対し恋心を抱いており、初めての相手は“好きな人”と決めていた葵にとってそれは、ショッキングな事件。父は、葵が母親似で女顔で見た目も華奢な彼は女性と性交渉に至る前に、男性から無理やり性交させられる恐れがあると要らぬ懸念を抱いたのかも知れない。もしくは男として自信がつけば、男らしくなるのかもしれないと思ったのだろうか。それ以来葵は父を畏怖していたが、今回のことで父が葵に童貞を捨てさせるどころか、慰みものとして大里に売る気なのかとショックを受けた。
父は腕を組んだまま目を閉じ、何も言わずじっとしている。
「俺は、大里と結婚なんてしないから!」
父に言葉を投げつけ踵を返すと、葵の帰宅を知り父の部屋に駆け付けた母に出くわす。
「お母さんッ」
「葵」
「ねえ、嫌だよ?お母さんは俺の味方だよね?」
「大丈夫よ、大丈夫だから」
母は、あの事件の時も守ってくれたのだ。
「大崎邸に戻りなさい、まだマスコミが少ないうちに。裏門から来たのでしょう?そっと帰るのよ?」
「うん」
母に優しく抱き締められ、その温もりは名残惜しいが葵はそっと離れた。佐倉には少し離れた場所で待って貰っている。急がなければと思った。
**
葵が裏門から敷地の外へ出ると、
「片倉!」
と、後方よりよく知った声に名前を呼ばれた。
大里?!
「なんで、こんな..」
「話を聞いて欲しい」
大里は葵のところまで走ってくると膝に手をつき、肩で息をしている。葵は感情を押さえられず、話を聞く余裕などなかった。口をついて出るのは疑問ばかり。
「大里は、久隆くんを好きなんだと思ってた」
大里は久隆が好きだから、彼以外とどうこうなるだなんてあり得ないと思っていた。まして、自分と婚約だなんて。
「好きだよ」
「俺たちに近づいたほんとの理由ってなんなの?」
咲夜は大里の仕業とは限らないと言ったけれど、大里は急に自分たちに近づいてきた。彼の仕業なら、なんとなく納得がいくのだ。葵の問いに大里が青ざめるのがわかり、葵は、やはり何かあるのではないかと感じた。
「俺たちをめちゃくちゃにするのが目的だったの?!久隆くんと三人で一所懸命頑張ってきたのにッ」
久隆が葵と咲夜に近づいた理由は、二人が幸せになること目的とした計画を実行するため。彼の健気なまでの努力や、自分自身を犠牲にしてまでも計画を成し遂げようとする姿に心を打たれ、彼の計画に協力してきた。しかし、ここへ来て“久隆の計画”に邪魔が入ったことになる。
「違う!」
「俺がサクのこと好きなの知ってるくせに!」
葵は大里に不信感を抱いていたものの、彼が危ないところを助けてくれたり、一緒に遊びに行ったりして仲良くなっていくうちに、彼を友達だと思うようになっていた。なのにそれは“大里の計画”だったと言うのか?
「片倉、違うんだ」
大里の絞り出すような否定の言葉、葵は耳を貸すことができない。
「友達だと思っていたのに!」
彼を信じていただけに、葵は裏切られた気持ちでいっぱいになった。
「頼むから、話を..」
大里が葵を説得しようと話をしようとした時、彼らに向けてフラッシュが光る。どうやらマスコミの者が駆けつけて来たらしい。
「片倉ッ」
「俺たちから幸せを奪わないでよ」
「片倉!逃げろ!」
「大里のバカッ」
「苦情ならあとで聞くっ。早く行くんだ!」
葵は早く行くようにと、大里に背中を押される。この状況でまだ信じろというのだろうか。走り出した葵、大里は別の方向に消えて行った。
****
葵が車を停めて待っているはずの佐倉のところへ戻ると、和と咲夜も一緒に居た。
「坊は?」
と佐倉に問われ、葵は首をかしげる。その返事に意外そうな顔をした後、
「俺、探してくるわ。おチビは和のほうに乗っていけ」
と佐倉は言うと、運転してきた車に乗り込む。佐倉が葵たちから離れていくと、
「どうでしたか?」
と、和。咲夜は大事そうにスマホを抱えていた。
「よくわからない。えっと、大里に会ったよ」
「え?」
「久隆様にはお会いにならなかったのですよね?」
「うん」
和の言い方からは久隆がこっちに向かっていると思われる。とりあえず三人は車に乗り込むことに。行き先は大崎邸である。車が走り出すと、
「葵。久隆から伝言」
と咲夜にスマホを渡されながら伝言を聞いた。そこで咲夜がスマホを大事そうに持っていたのは久隆のものだったからか、と葵は気づく。
「黒川くんって誰なの?」
と、不思議そうに問う咲夜。
「あ、サクはわからないか。この間助けた大里のセフレの子」
葵は言われた通り、久隆のスマホに残されたメモを見ようとし、愕然とした。
自動ロック、掛かってる!
八桁の暗証番号を入れろって言われても…。
「どうしたの?」
葵が画面を見つめ青ざめていると、隣の咲夜が覗き込んできた。
「ロックが..」
和なら知っているだろうかと葵は思案する。久隆は極力連絡をしない人だ。自分にスマホを渡すということは、見られて困るようなものはあまりないと考えるべきだろうか。そこで、よく久隆のスマホが彼の書斎のデスクに起きっぱなしになっていることを思い出す。
「和、ロックがかかっているんだけど何か知らない?」
「そう言えば、スマホを購入した時に」
「うん」
「カレンダーを見ていましたね。自宅の」
カレンダー?
自分の誕生日ならわざわざ見ないはず。
サクのかな?
試しに入れてみたがダメだった。
「いつ買ったの?」
「確か、お二人に会う前でしたよ」
久隆の母の命日だろうか。確かに大切だとは思うけれど、久隆の大切なもの..。葵は、咲夜の方を見た。
そもそも誕生日だったら覚えているよね。
久隆くんのことだし。
久隆がどうしても覚えていたいことは何だろうと考え、ふと咲夜に向かって、
「ねえ、サクが久隆くんに初めて出会ったのっていつなの?」
と問うが、答えは意外なところから返ってきた。
「九月三日です」
と、和。
「なんで和が知って??」
「咲夜さんの父の葬儀に参列しましたので」
葵不思議に思いながらも、咲夜の名前と組み合わせて入れてみるが違うようで。
何か忘れているような...。
「ねえ、サクのこと久隆くんって名前以外で呼んでない?」
「ひめ?」
そうだ!
そう言えば、佐倉もサクのこと“おひめ”と呼ぶ。
きっとそれだ。
うまく組み合わせると..。
「ビンゴ!」
パスワードが正解し画面が変わり、そこで待ち受けに驚く。
「これって」
それはみんなでカラオケに行った時の写真であった。
「意外だなぁ」
と呟きながら、言われた通りにメモアプリを開く。そこには”葵ちゃんへ”から始まる最近の大里の動向と、それに対する自分なりの見解が述べてあり、
「うへえ!」
久隆の几帳面さに葵は管を巻いた。
パーティーでの出来事や図書館での一件については初耳である。メモの中で気になったのは、久隆が大里に”霧島についていてやれ”と言われたことである。大里は今回のことを”一人で解決しようとした”のではないか、と言うのが久隆の考察だ。
大里は、裏切ったわけじゃないのかな?
俺たちをバラバラにしたかったわけじゃないのかな。
葵はわからなくなってしまっていた。
****
────大崎邸にて。
葵たちは大崎邸に着くと、少し遅い夕飯を口にした。正直、食が進まなかったが“腹が減っては戦はできない”と和に丸め込まれ、無理矢理胃に詰め込む。どうしてもニュースが観たかった三人は、リビングで夕食を取ることとなる。家人でさえめったにリビングで食事しないので、従業員の給仕担当は驚いていた。久隆は大里に会えたのだろうか。佐倉、久隆どちらからもまだ連絡はない。ニュースは、“大里と片倉”の婚約の話で持ちきりだ。それにしても、情報が早い。たった数時間前の出来事である。大里が婚約の話をうちに持っていったとして、そんなに早くマスコミが嗅ぎ付けるものだろうか?葵は更に思案する。
あの時の大里に、そんな素振りはなかった。マスコミに張られていた可能性が薄いと考える理由は、大里も自分も今、実家には住んでいないことがあげられる。自分は大崎邸に、大里はマンションに一人暮らしだ。実家のほうにマスコミが居たことを考えると、自分も大里も鼻からノーマークだったはず。つまり、突然のこと。葵は唸った。
“話を聞いて欲しい”大里がそう言っていたことを思い出す。カッとなって疑問ばかりぶつけてしまったが、理由を話そうとしてくれていたに違いない。葵は冷静になると、少し反省した。そこで久隆のメモを思い出す。今、久隆のスマホは咲夜の手元にある。久隆の撮った少ない写真を眺めているようで、とても寂しそうに見えた。
久隆がいない今、自分がしっかりしなきゃいけない。久隆が突然咲夜とデートに行くといい始めた時、単純に羨ましいと思った。よく考えると、久隆は咲夜を少しでも元気づけようとしたのではないだろうか?先日のパーティーでの一件で、咲夜は酷く傷ついてしまっている。大里はそれを知っていて、久隆に側にいてやれと進言した。そこに同時に発生した別の問題を、大里は単独で解決しようとしている、大方そうなのだろう。
それにしても大里の計画の全体像が、いまいち見えてこない。先手を打つだけならどうして話してくれなかったのか、逆に疑問だ。こういう時は動かないことが利口なのはわかっている。ところで、仮に久隆が大里を見つけたとして、ここに戻って来られるのだろうか。”大里 聖と大崎 久隆”と言えば、幼馴染みでいずれ婚約するだろうと言われている仲であることを、以前週刊誌で見たことがある。そんな二人が現状、一緒にいてはまずいのではないのか。初期段階だったから自分は大崎邸に安全に帰ることができた。母もそれを考えて早く行けと言ったはず。久隆はそこまで考えていただろうか。先ほど、ニュースでは二人の仲についても話題になっていた。葵は考えれば考えるほど嫌な予感しかしないのだ。
“久隆の戦線離脱”
そればかりが葵の脳裏を過るのである。船頭無くして自分たちはどこへ向かえばいいというのか。久隆ばかりではない、大里すら離脱の可能性がある。今の状況なら、身を隠すのが自然だからだ。
そう言えば..。
咲夜を眺めながら、葵は忘れていることがあることに気づく。それは黒川の存在だ。
久隆くんはちゃんと道を残して置いてくれていた!
大里の名前で連絡がくるということは、彼のスマホを持っているのは黒川だ。つまり、黒川は大里の立てた計画の全容を知っているに他ならない。久隆の計画が妨げられた以上、大里の計画を遂行しなければ船は沈んでしまうだろう。とにかく自分たちは上陸しなければいけない。新しい地図を持っているのは黒川だ。
「あッ」
咲夜が持っていた久隆のスマホが鳴る。この時葵は、新しいミッションにほんの少し、不安を感じていた。久隆と大里が二人でいなくなったら、咲夜はどうなってしまうのだろうか、まさか発狂したりしない...よねと。
────片倉邸にて。
「お父さん!」
葵は家につくなり、奥の間にいるはずの父を探す。片倉邸は旅館のような作りで、中庭には日本庭園がある。
「お父さん、俺を金で売ったの!?」
葵が父とまともに顔を合わすのは、あの中学二年の忌まわしい事件以来だった。思い出したくもない、性的虐待。父は葵に女を宛がい、無理矢理性交渉をさせようとした。必死の抵抗と母のおかげで未遂で済んだものの、当時すでに咲夜に対し恋心を抱いており、初めての相手は“好きな人”と決めていた葵にとってそれは、ショッキングな事件。父は、葵が母親似で女顔で見た目も華奢な彼は女性と性交渉に至る前に、男性から無理やり性交させられる恐れがあると要らぬ懸念を抱いたのかも知れない。もしくは男として自信がつけば、男らしくなるのかもしれないと思ったのだろうか。それ以来葵は父を畏怖していたが、今回のことで父が葵に童貞を捨てさせるどころか、慰みものとして大里に売る気なのかとショックを受けた。
父は腕を組んだまま目を閉じ、何も言わずじっとしている。
「俺は、大里と結婚なんてしないから!」
父に言葉を投げつけ踵を返すと、葵の帰宅を知り父の部屋に駆け付けた母に出くわす。
「お母さんッ」
「葵」
「ねえ、嫌だよ?お母さんは俺の味方だよね?」
「大丈夫よ、大丈夫だから」
母は、あの事件の時も守ってくれたのだ。
「大崎邸に戻りなさい、まだマスコミが少ないうちに。裏門から来たのでしょう?そっと帰るのよ?」
「うん」
母に優しく抱き締められ、その温もりは名残惜しいが葵はそっと離れた。佐倉には少し離れた場所で待って貰っている。急がなければと思った。
**
葵が裏門から敷地の外へ出ると、
「片倉!」
と、後方よりよく知った声に名前を呼ばれた。
大里?!
「なんで、こんな..」
「話を聞いて欲しい」
大里は葵のところまで走ってくると膝に手をつき、肩で息をしている。葵は感情を押さえられず、話を聞く余裕などなかった。口をついて出るのは疑問ばかり。
「大里は、久隆くんを好きなんだと思ってた」
大里は久隆が好きだから、彼以外とどうこうなるだなんてあり得ないと思っていた。まして、自分と婚約だなんて。
「好きだよ」
「俺たちに近づいたほんとの理由ってなんなの?」
咲夜は大里の仕業とは限らないと言ったけれど、大里は急に自分たちに近づいてきた。彼の仕業なら、なんとなく納得がいくのだ。葵の問いに大里が青ざめるのがわかり、葵は、やはり何かあるのではないかと感じた。
「俺たちをめちゃくちゃにするのが目的だったの?!久隆くんと三人で一所懸命頑張ってきたのにッ」
久隆が葵と咲夜に近づいた理由は、二人が幸せになること目的とした計画を実行するため。彼の健気なまでの努力や、自分自身を犠牲にしてまでも計画を成し遂げようとする姿に心を打たれ、彼の計画に協力してきた。しかし、ここへ来て“久隆の計画”に邪魔が入ったことになる。
「違う!」
「俺がサクのこと好きなの知ってるくせに!」
葵は大里に不信感を抱いていたものの、彼が危ないところを助けてくれたり、一緒に遊びに行ったりして仲良くなっていくうちに、彼を友達だと思うようになっていた。なのにそれは“大里の計画”だったと言うのか?
「片倉、違うんだ」
大里の絞り出すような否定の言葉、葵は耳を貸すことができない。
「友達だと思っていたのに!」
彼を信じていただけに、葵は裏切られた気持ちでいっぱいになった。
「頼むから、話を..」
大里が葵を説得しようと話をしようとした時、彼らに向けてフラッシュが光る。どうやらマスコミの者が駆けつけて来たらしい。
「片倉ッ」
「俺たちから幸せを奪わないでよ」
「片倉!逃げろ!」
「大里のバカッ」
「苦情ならあとで聞くっ。早く行くんだ!」
葵は早く行くようにと、大里に背中を押される。この状況でまだ信じろというのだろうか。走り出した葵、大里は別の方向に消えて行った。
****
葵が車を停めて待っているはずの佐倉のところへ戻ると、和と咲夜も一緒に居た。
「坊は?」
と佐倉に問われ、葵は首をかしげる。その返事に意外そうな顔をした後、
「俺、探してくるわ。おチビは和のほうに乗っていけ」
と佐倉は言うと、運転してきた車に乗り込む。佐倉が葵たちから離れていくと、
「どうでしたか?」
と、和。咲夜は大事そうにスマホを抱えていた。
「よくわからない。えっと、大里に会ったよ」
「え?」
「久隆様にはお会いにならなかったのですよね?」
「うん」
和の言い方からは久隆がこっちに向かっていると思われる。とりあえず三人は車に乗り込むことに。行き先は大崎邸である。車が走り出すと、
「葵。久隆から伝言」
と咲夜にスマホを渡されながら伝言を聞いた。そこで咲夜がスマホを大事そうに持っていたのは久隆のものだったからか、と葵は気づく。
「黒川くんって誰なの?」
と、不思議そうに問う咲夜。
「あ、サクはわからないか。この間助けた大里のセフレの子」
葵は言われた通り、久隆のスマホに残されたメモを見ようとし、愕然とした。
自動ロック、掛かってる!
八桁の暗証番号を入れろって言われても…。
「どうしたの?」
葵が画面を見つめ青ざめていると、隣の咲夜が覗き込んできた。
「ロックが..」
和なら知っているだろうかと葵は思案する。久隆は極力連絡をしない人だ。自分にスマホを渡すということは、見られて困るようなものはあまりないと考えるべきだろうか。そこで、よく久隆のスマホが彼の書斎のデスクに起きっぱなしになっていることを思い出す。
「和、ロックがかかっているんだけど何か知らない?」
「そう言えば、スマホを購入した時に」
「うん」
「カレンダーを見ていましたね。自宅の」
カレンダー?
自分の誕生日ならわざわざ見ないはず。
サクのかな?
試しに入れてみたがダメだった。
「いつ買ったの?」
「確か、お二人に会う前でしたよ」
久隆の母の命日だろうか。確かに大切だとは思うけれど、久隆の大切なもの..。葵は、咲夜の方を見た。
そもそも誕生日だったら覚えているよね。
久隆くんのことだし。
久隆がどうしても覚えていたいことは何だろうと考え、ふと咲夜に向かって、
「ねえ、サクが久隆くんに初めて出会ったのっていつなの?」
と問うが、答えは意外なところから返ってきた。
「九月三日です」
と、和。
「なんで和が知って??」
「咲夜さんの父の葬儀に参列しましたので」
葵不思議に思いながらも、咲夜の名前と組み合わせて入れてみるが違うようで。
何か忘れているような...。
「ねえ、サクのこと久隆くんって名前以外で呼んでない?」
「ひめ?」
そうだ!
そう言えば、佐倉もサクのこと“おひめ”と呼ぶ。
きっとそれだ。
うまく組み合わせると..。
「ビンゴ!」
パスワードが正解し画面が変わり、そこで待ち受けに驚く。
「これって」
それはみんなでカラオケに行った時の写真であった。
「意外だなぁ」
と呟きながら、言われた通りにメモアプリを開く。そこには”葵ちゃんへ”から始まる最近の大里の動向と、それに対する自分なりの見解が述べてあり、
「うへえ!」
久隆の几帳面さに葵は管を巻いた。
パーティーでの出来事や図書館での一件については初耳である。メモの中で気になったのは、久隆が大里に”霧島についていてやれ”と言われたことである。大里は今回のことを”一人で解決しようとした”のではないか、と言うのが久隆の考察だ。
大里は、裏切ったわけじゃないのかな?
俺たちをバラバラにしたかったわけじゃないのかな。
葵はわからなくなってしまっていた。
****
────大崎邸にて。
葵たちは大崎邸に着くと、少し遅い夕飯を口にした。正直、食が進まなかったが“腹が減っては戦はできない”と和に丸め込まれ、無理矢理胃に詰め込む。どうしてもニュースが観たかった三人は、リビングで夕食を取ることとなる。家人でさえめったにリビングで食事しないので、従業員の給仕担当は驚いていた。久隆は大里に会えたのだろうか。佐倉、久隆どちらからもまだ連絡はない。ニュースは、“大里と片倉”の婚約の話で持ちきりだ。それにしても、情報が早い。たった数時間前の出来事である。大里が婚約の話をうちに持っていったとして、そんなに早くマスコミが嗅ぎ付けるものだろうか?葵は更に思案する。
あの時の大里に、そんな素振りはなかった。マスコミに張られていた可能性が薄いと考える理由は、大里も自分も今、実家には住んでいないことがあげられる。自分は大崎邸に、大里はマンションに一人暮らしだ。実家のほうにマスコミが居たことを考えると、自分も大里も鼻からノーマークだったはず。つまり、突然のこと。葵は唸った。
“話を聞いて欲しい”大里がそう言っていたことを思い出す。カッとなって疑問ばかりぶつけてしまったが、理由を話そうとしてくれていたに違いない。葵は冷静になると、少し反省した。そこで久隆のメモを思い出す。今、久隆のスマホは咲夜の手元にある。久隆の撮った少ない写真を眺めているようで、とても寂しそうに見えた。
久隆がいない今、自分がしっかりしなきゃいけない。久隆が突然咲夜とデートに行くといい始めた時、単純に羨ましいと思った。よく考えると、久隆は咲夜を少しでも元気づけようとしたのではないだろうか?先日のパーティーでの一件で、咲夜は酷く傷ついてしまっている。大里はそれを知っていて、久隆に側にいてやれと進言した。そこに同時に発生した別の問題を、大里は単独で解決しようとしている、大方そうなのだろう。
それにしても大里の計画の全体像が、いまいち見えてこない。先手を打つだけならどうして話してくれなかったのか、逆に疑問だ。こういう時は動かないことが利口なのはわかっている。ところで、仮に久隆が大里を見つけたとして、ここに戻って来られるのだろうか。”大里 聖と大崎 久隆”と言えば、幼馴染みでいずれ婚約するだろうと言われている仲であることを、以前週刊誌で見たことがある。そんな二人が現状、一緒にいてはまずいのではないのか。初期段階だったから自分は大崎邸に安全に帰ることができた。母もそれを考えて早く行けと言ったはず。久隆はそこまで考えていただろうか。先ほど、ニュースでは二人の仲についても話題になっていた。葵は考えれば考えるほど嫌な予感しかしないのだ。
“久隆の戦線離脱”
そればかりが葵の脳裏を過るのである。船頭無くして自分たちはどこへ向かえばいいというのか。久隆ばかりではない、大里すら離脱の可能性がある。今の状況なら、身を隠すのが自然だからだ。
そう言えば..。
咲夜を眺めながら、葵は忘れていることがあることに気づく。それは黒川の存在だ。
久隆くんはちゃんと道を残して置いてくれていた!
大里の名前で連絡がくるということは、彼のスマホを持っているのは黒川だ。つまり、黒川は大里の立てた計画の全容を知っているに他ならない。久隆の計画が妨げられた以上、大里の計画を遂行しなければ船は沈んでしまうだろう。とにかく自分たちは上陸しなければいけない。新しい地図を持っているのは黒川だ。
「あッ」
咲夜が持っていた久隆のスマホが鳴る。この時葵は、新しいミッションにほんの少し、不安を感じていた。久隆と大里が二人でいなくなったら、咲夜はどうなってしまうのだろうか、まさか発狂したりしない...よねと。
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