上 下
49 / 147
────3章『本格始動、宝船』

■7「Sunday morning」

しおりを挟む
 ****♡Side・葵

「ケーキ」
「うん、ケーキだね」
 葵は、大里に渡されたケーキを受けとると、小さな透明の窓から中を覗き込んだ。
「四つ入ってる」
 可愛らしくお洒落なケーキが四つ、これを久隆が選んだのかなと思っていると、
「霧島が拗ねてるからって、二人にお土産だってよ?」
 と、大里が。エントランスの階段下の三人がけのソファーは、アンティークなデザインでとても座り心地がいい。大里は葵の隣に腰かけると、
「ピアノ、すごいな。四百万とかって」
 と、ピアノのほうを見ながら感想を述べた。
「ねー。久隆くんが、エントランスに置くならグランドピアノが良いって、ねだったみたいだよ」
 葵は頬杖をついて大里の方に視線を向ける。彼は話題にのぼった久隆のことを考えているのか、ぼんやりとピアノのほうを向いたまま。久隆が彼に何と言って家に誘ったのか気になったが、ケーキの箱を持って葵は立ち上がると、
「ケーキ、部屋の冷蔵庫に入れてくるけど、大里は夕飯までリビング行く?二階の」
 と大里に問うが、
「いや、ピアノ聴きたいから待ってる」
 と言われてしまい、
「わかった、ちょっと置いてくる」
 葵は一人、三階に向かって歩いていく。背中に大里の視線を感じながら。

 **

「なんか弾いてよ」
 葵がケーキを冷蔵庫に入れ、エントランスに戻るなり大里からリクエスト。
「大里が歌うなら」
「なに弾いてくれる?」
「Sunday morning」
「良いねえ」
 二人は顔を見合わせ、ニコッと微笑むとピアノに近づいていった。


 大里は伊達にカラオケ三昧していたわけではないな、と思うくらい歌が上手い。サビに差し掛かる頃には、手が空いている従業員が集まってきていた。やっぱり人が多いのはいいな、と葵は思う。大里がみんなに賛美の声をかけられている中、ウサギのぬいぐるみを持った久隆が階下に降りて来た。
「久隆くん、サク機嫌治った?」
 葵は久隆に近づいていくと、そう声をかける。
「うん、でもウサギが」
 と彼が腕の中に抱いているそれは、葵が作ったウサギのぬいぐるみ。
「汚れちゃって」
 と、困った顔をする久隆に、
「何、獣姦にでも目覚めたの?」
 と葵は冗談を言う。二人が上で何をしていたのかは想像に難くない。すると、
「そんなわけないでしょッ」
 久隆にウサギでポコッと突っ込みを入れられた。久隆は、
「洗って貰おうと..」
 呟くように言うとエントランスに集まっていた従業員のほうに近づいて行ってしまう。

 **

 離れてゆく久隆を見つめていると、今度は大里が近づいてきた。
「久隆が泊まっていけって言うんだが」
「え?」
 いつ二人が会話をしたのだろうと、葵が不思議に思っていると、
「ほら、映画レンタルしてきたからオールする気みたいだ」
 と大里が。
「マジ?明日撮影大丈夫なのかな?」
 と葵は明日のことが、少し不安になる。そんな葵の言葉に興味を持ったのか大里は、
「毎週あるのか?」
 とモデルの撮影の予定を確認してきた。
「ううん、今度は秋物先撮り。久隆くんとこの専用のカタログだからそんなに仕事自体はないみたい」
「へえ」
「デート楽しかった?」
 葵は、今日のことに話を向けた。
「うん。楽しかったよ」
 少し照れた顔をし、大里はとても嬉しそうだ。
「嬉しそーう!いいなぁ、いいなぁ」
 葵が大里の袖を引っ張れば、彼は“何してんだ?”と笑う。

 この人モテるよね。
 なんか、余裕が違うというか。
 噂となんか違う。
 落ち着いていて穏やかだ。

 葵は、なんとなくそう感じた。
「なあ、ちょっと疑問なんだが」
 大里からの質問。
「うん?」
「久隆と片倉って、ライバルじゃないのか?霧島を巡って」
「うーん。そうなるのかな」
「なんでそんなに仲良しなんだ?」

 ああ、そうなるよね。
 大里からしたら俺たちは不思議な関係だ。
 三角関係なのに、みんなで一緒に住んでるし。
 学校でも一緒、バイトも一緒。

「目的が一緒だからかな?」
 と、葵が言うと、
「そういうもの?」
 と大里は不思議そうだ。
「ほら、それにさ。久隆くんって口下手なだけでめっちゃ優しいじゃん?ノリもいいし」
 そう言うと、大里は凄くびっくりした表情をした。
「なんか、片倉ってちゃんと久隆のこと見てるんだな。誤解されやすいヤツだから..自分のことのように嬉しい」
「大里は、久隆くんが大好きなんだね」
「え」
 そこへ用事を終えた久隆が戻って来る。

「夕飯だってよ、咲夜呼んでくる」
 と久隆に言われ、
「はぁい」
 と、葵。
「今日は、兄貴たち居ないから従業員食堂でみんなと一緒に食べよ。賑やかな方が楽しいでしょ?」
「うんッ」
「どうした?大里。聞いてた?」
 固まっていた大里に、久隆は声をかける。
「ああ、うん」
「じゃあ、また後で」
 久隆は片手を上げると三階へ向かい、葵は大里と共に一階の奥へ向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

処理中です...