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────1章『方舟のゆくえ』
■9「たとえ過ちでも」【R】
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****♡Side・久隆
「和、車出して」
「はい」
言わなくても言いたいことはわかる。
「相手さんの尾行が下手で助かったよ」
久隆は苦笑いをして、ミラー越しに和を見ると、何か言いたげだ。
「聖さんは、久隆様のこと」
「知ってる」
わかってる。
アイツが俺を好きなこと。
それを認めたくないこと。
気づかれたくないこと。
全部分かってた。
「だけど、何も言わないんだ。知らないふりするしかないだろ」
久隆の言葉に、和はため息をつく。
何も言わなければ、なにもしてやれない。
「覚悟を決めて行ったんだけどな」
久隆はドアに肘をかけ、顎に手をやる。
「私は嫌です」
「は?」
珍しく、和が感情的な声音で言った。
「貴方が、誰かに乱暴されるなんて耐えられません 」
「いや、さすがにそれはないだろ」
久隆は慌てる。
無理矢理はさすがに嫌だなぁ。
でも、毎日毎日誰かを連れ込んでるアイツのことだ。
「拗らせっぱなしなんですから、わからないじゃないですか」
余りある性欲の発散かと思っていたものが、自分への代用品だったとしたら恐ろしい。ヤり殺される。
根本的に久隆は大里を誤解しているが、まったく気づいていない。
「気をつけるからさー」
「はぁ..」
「なにそんな怒るの」
「怒ってません!」
なんだよ、咲夜のことはヤっちゃえってけしかけるくせに。
俺がヤられるのは嫌っての?
それじゃまるで..。
いや、ないないない。
ないから。
恐らくホントにない。久隆の否定は正しい。そもそも和が好意を持っている相手は..。
「和ってさ」
「はい」
「恋人とかいるの?」
見たところ、和は二十代後半くらいであった。兄である咲夜の父とは、結構離れていたことになる。やっぱり年が離れていると可愛いものなのだろうか?
「居ませんよ。いたらこんなに、仕事ばかりしていないでしょう?」
「すみませんねー。こき使って」
棒読みでそう言うと、和が苦笑いをする。それが数ヶ月後、身近なところで発展するなどと和も久隆も思ってもいなかった。
「着きましたよ」
いつの間にか、車は自宅に着いている。
まあ、家から大里のマンションまでは車で数分だしな。
「さて、咲夜はいい子にしてるかな」
「まるで、親ですね」
和が吹き出す。
「頼んだお土産買っといてくれた?」
「ええ」
「みんなに食べるように言って渡しといて。咲夜の分だけ持ってく」
「かしこまりました」
久隆は、大里グループ系列の一つの有名店の洋菓子を受けとると、屋敷の中に入っていく。
「久隆」
帰ると先に連絡をしておいた為、咲夜が玄関付近のソファーにちょこんと座って待っていてくれて。
うわ、忠犬ハチ公みたい。
「ただいま」
寂しいのか、咲夜はむぎゅッと抱き締めてくれた。
「お土産だよ、上で食べよう?」
「うん」
可憐に微笑む彼に久隆は胸を鷲掴みにされる。
くそ可愛いじゃないかよ!オイ。
「なんか音楽かけようか?ノリがいいヤツがいいよね」
ステレオに繋いだPCを立ち上げながら、そう話しかけると咲夜は後ろから抱きついてきた。
「どうしたの?」
「ありがとう」
「ん?」
「久隆が優しいから」
元気ない子相手に冷たくなんて出来っこないよ。
ましてや、葵ちゃんが戦線離脱状態のこの状況で。
「ハグって気持ちいいもんなんだね」
久隆がそう言うと、咲夜は切なそうな顔をする。
「葵ちゃんが恋しい?」
「うん」
「いい子、月曜日には学校で会えるよ」
「慰めてよ」
「え?」
久隆は首筋に口づけられて固まった。
「ダメ?なんでもしてくれるんでしょ?」
「いや、俺。そういうことしたことないし」
「ああいうの観てたクセに」
咲夜の形の良い綺麗な指先がシャツの上から胸を撫でる。
「中庭で俺にイタズラしたくせに」
「...」
「ねえ、”くー”は俺のこと好きなんでしょ?」
「ズルいぞ、その呼び方でそんなこと言うのは」
「痛くしないから。久隆の初めて頂戴?慰めてよ」
「ダメだよ」
「何故?」
咲夜はお構いなしに久隆のシャツのボタンを器用に外していく。
「そんなの、裏切りじゃないか」
「綺麗事言わないでよ!」
「ッ?!」
ゆっくりと反転させられ、久隆は唇を奪われた。
「んッ..咲夜、ダメッ」
「そんな中途半端な抵抗じゃ意味なんかないよ」
咲夜は眉を寄せ、辛そうにこちらを見ている。
「偽りでも、恋人なんでしょ?」
AⅤをみて顔を赤らめていたのが嘘のように。
「セックスしようよ、久隆」
「...」
「されるのが嫌なら、久隆がしてよ」
「え?」
「辛いの。忘れさせてよ」
咲夜の瞳からハラハラと涙が溢れ落ちるのを見ていた。
なんて残酷なんだろう?仮初めに手にいれても、咲夜は自分のものにはならない。大里に対してなら覚悟を決められた。なんとも思っていないから出来ることなんだと、改めて感じる。
今、目の前に最愛の人が俺に救いを求めている。
後悔するのがわかっているのに。
“あなたならどうする?”
「おいで」
久隆は咲夜の手を掴むと奥のベッドルームに続くドアを開けた。
あなたならどうする?
その手を振り払える?
俺のように過ちだとわかりながらも、その手を取るだろうか?
「抱いてあげる」
咲夜をベッドに座らせ、囁く。
「忘れてしまえばいい。何もかも」
そう、悪魔のように。
「今だけは、忘れてしまいなよ」
****
「うんッ..」
ヤバい、興奮する。
咲夜のシャツのボタンを外し、直に肌に触れると彼が頬を染めて身をよじった。その拍子に美味しそうな胸の果実が目に飛び込んだ。
「ふえっ?!」
咲夜の両腕を押さえつけ、久隆はその果実に舌を這わす。
「ああッ」
「咲夜、感じやすいの?」
「わかんなっ..されるの初めてだしっ」
偽りの恋人にすがらなければならないほど切迫しているというのだろうか?そこまで”片倉 葵”の存在が彼にとって大きいと言うのだろうか?
咲夜は残酷だね。
君が好きで好きでたまらないのに。
諦めなきゃいけないのに。
諦めさせてすらくれないどころか。
俺にこんなことまで望むんだ。
奪ってしまいたい。
ダメなのに。
「ああんッ」
甘い声を漏らす彼に興奮が止まらない。ほどよい肉付きに引き締まった身体。エロい腰つきに滑らかな肌。ゆっくり時間をかけるつもりでいたのに、久隆はたまらず咲夜のズボンに手をかける。
「久隆?」
「ごめんね、やめてあげられそうにない」
下着ごとズボンを引き抜くと咲夜自身にむしゃぶりついた。
「やぁッ」
舐められるのを恥ずかしがった彼が手をばたつかせる。
「エッチな声出して、誘ってるんでしょ?」
久隆が意地悪を言うと咲夜は両手で口をふさいだ。
「んんっ」
久隆は咲夜自身を手でしごきあげ、舐めしゃぶり吸い上げた。咲夜の甘い声が漏れるたび気が変になりそうになる。閉じようとする股を押さえつけ執拗に愛撫した。滑らかな肌が紅潮してとても官能的だ。咲夜のこんな姿を見られるのが自分だけなのかと思うとたまらない。
「久隆ッもう..」
「出していいよ、見せて」
「っ?!」
「ほら、エッチなミルク出すとこ俺に見せて」
「やだっ」
真っ赤になって首をふる咲夜が可愛くて、しつこく吸い上げる。
「やあっ..うぅっ」
快感に耐えきれなくなり出してしまった咲夜をぎゅっと抱き締めた。
「いつもは抱く方なのに、俺に組しかれてこんな厭らしいカッコしてるなんて」
「ぅっ..うぅっ」
「可愛い」
「久隆、なんでそんな意地悪ばかり..」
涙を溢す咲夜に甘い口づけ。
「可愛いから」
久隆は咲夜のさらさらの髪をなで、胸を撫でながら身体中にキスをする。
そして、一番奥へと。
「ッ」
久隆が足を持ち上げ舌を這わすと咲夜は慌てた。
「やっ?!」
「ピンク色で厭らしいよ」
「舐めなくてもッ」
咲夜は枕元に置かれたジェルを指差しながら。
「舐めたいの」
久隆は、それを制し、指と舌で彼を犯した。
咲夜の初めてを奪う。
考えただけでイきそうだった。
ゆっくりと指を抜き差ししてよくほぐす。プチゅプチゅと咲夜の蕾からとても厭らしい音がして、挿れたくてたまらなくなるのを耐えた。早くここに自分自身を穿ち、咲夜を喘がせたい。
「入れるよ?」
「うんッ」
頷いた咲夜。だが気づいてしまった。彼は震えていた。ぎゅっと目を閉じて。
「?」
いつまで待っても恐れていた衝撃が来ないことを不思議に思って、咲夜が瞼を開ける。
「咲夜、やめよ?」
「え?」
「怖いんでしょ?震えてる」
久隆そっと咲夜を抱き締めた。
「な..なんで?」
「無理しないで」
調査報告書で以前みた、咲夜の親の“離婚の理由”の項に記載されてた補足内容を思い出す。
“彼は、中学2年の時に義父からの強姦未遂に合った”
たまたま母が帰宅したから良かったものの、もし、そのままだったら未遂で済んでいない。
『俺、スキンシップはちょっと...』
以前学園の中庭で咲夜が髪に触れようとして手を伸ばした久隆の腕を、反射的に掴んだのはそれが原因なのだ。強姦未遂事件以前から、触れ合うことに慣れていた葵が、唯一平気だったのはそれである。
「久隆ッ、お願い」
「うん?」
しがみつく咲夜の髪に口づけた。
「挿れて」
「っ?」
こんなに怖がって震えているのに何をいっているんだ?
「久隆の特別にしてよ」
「充分特別だよ?」
君にじゃなきゃこんなことしないよ。
できないよ?
「忘れさせてくれるんでしょ?特別なこと感じさせてよ」
「咲夜」
久隆は耳元で甘く咲夜の名を呼ぶ。
「俺が下の名前で呼ぶのは特別なことだよ?大里が知ったら発狂するかもしれない」
彼がハッとして目を見開いた。久隆は肌を撫で上げ、咲夜の耳を噛む。すでに、大里が発狂していたとは知らなかったが。
「はぁッ..」
「ねえ、それじゃダメなの?」
「久隆ッ」
咲夜自身をしごきながら胸の飾りに舌を絡める。
「挿れるだけがセックスじゃないでしょ。何度でもいかせてあげるから」
「久隆..辛いのッ、だからッ」
俺だってなんとかしてあげたい。俺の方を見てくれるのなら、どろどろに甘やかして、ずっとずっと側に居てあげるのに。
だが、彼は次の瞬間信じられないことを口にする。
「他のっ..誰かにヤられちゃってもいいのかよっ!」
「え?」
暴挙に出る咲夜が愛しい。
でもさ。
「煽っちゃ..ダメでしょ?いけない子だね」
「ッ」
久隆は低い声で囁く。
咲夜の耳元で。
久隆の中で雄が目覚める。
「俺を怒らせたい?」
「久隆..?」
「大事にしようとしてるのに」
「え?」
「お仕置きが必要だよね?もう、嫌だって言っても止めてあげない」
「あ..」
咲夜の腕を頭の上で一纏めにして縛り上げた。
「久隆?!やっ..」
「嫌?されたいんでしょ?ここ、俺に犯されたくてたまらないんだろ?」
「やぁっ」
再び咲夜の奥に指を滑り込ませる。たっぷりとジェルを垂らし、かき回す。
先ほどとは比べ物にならない刺激に、咲夜が厭らしいあえぎ声を漏らし身をよじった。
「あんッ..辞めてぇ..おかしくなっちゃ..」
「止めないよ」
「あっああっ..やあッ」
「甘い声出して。エッチな子」
堕ちてしまえよ。
快楽と言う名の奈落へ。
泣き叫びながら俺に救いを求めればいい。
俺が世界の果てまで君を連れ去ってあげるよ。
誰も居ない二人だけの世界に。
もう、誰にも触れさせない。
狂気のような愛で愛してあげるから。
「違っ..ううっ」
「泣いたって許してあげない」
「もっ..やあッ」
ポタタっと彼自身からミルクが溢れ落ちる。
「気持ちくてたまらないんだろ?ほんとに初めてなの?自分でここ弄ってるんでしょ?」
「意地悪言わないでよっ」
「可愛い」
指を引き抜くと彼の足を抱えあげ、自分自身を押し充てた。
「あっ」
咲夜がビクッと身を固くする。
「力抜けよ。俺のが欲しいんだろ?」
「久隆ッやっ..」
「嫌じゃないだろ?俺のでここ、犯されたくてたまらないんだろ?ほら」
どこまでも、堕ちてゆく。
どんなに追いかけたって、その手は掴めない。
真に救われたいのは俺の方なんだ。
どんなに愛したって、君は手に入れられない。
こんなことなら出逢いたくなかったよ。
忘れたいよ、俺だって。
「やあああっ..んッ」
「きっつ。力抜けって」
「できなっ」
咲夜がポロポロと涙をこぼす。
「動くよ」
「えっ。え?」
「痛いの嫌なら力抜け」
「あッ..んッ..ああんッ」
ジェルをたっぷり使ったせいできついながらも滑りは良い。
「エッチな声出して、咲夜はほんとエロッ」
「だってッ」
結局、咲夜はよがってイきまくった。
『ごめんね、咲夜』
「久隆は、怒ると怖い..」
「そ?」
「野獣みたい」
「嫌なの?」
じっと咲夜を見つめる。
久隆は咲夜の乱れたさらさらの髪に指を絡め、愛しそうにただじっと。
「久隆は、こんな可愛いのに..」
「ギャップ萌え?」
「萌えてはないです。マジ怖い」
泣いて赤くなった咲夜の目元。
「じゃあ、せいぜい怒らせないようにね」
久隆がクスッと笑うと、咲夜はハグを求めた。
「咲夜は可愛いね」
ぎゅっと抱き締めてあげると、彼はそっと目を閉じる。
****
最悪だ。
久隆は書斎で項垂れていた。奥のベッドルームでは、咲夜が眠っている。あんなことしてしまうなんて。一夜明けて、猛烈な自己嫌悪に陥った。コンコンと、ドアを軽快に叩く音がして、父の社長秘書である和が顔を出す。彼は挨拶をしようとして固まった。
「何か、あったんですか?」
久隆は遠慮がちに声をかけられ、頭を抱える。
「ヤっちゃったよ」
「はい?」
「咲夜とセックスした」
「それはおめでとうございます。赤飯、炊きますか?」
いやいや、おかしいだろ。
「葵ちゃんに何て言ったらいいんだよ」
「ごめんね、ごめんねーっていっときゃいいじゃないですか」
「おかしくね?」
久隆はガックリ項垂れた。
「しょうがない人ですね」
和は、久隆の前まで歩いてくると立ち止まる。
「では、お聞きします」
「うん?」
久隆は顔をあげ、和を見上げた。
「今にも飢え死にしそうな人の前に自ら食事を差し出して、その人に食べられたからと言って責めますか?自己責任じゃないんですか?」
「それは..」
極端過ぎないか?
その例は。
「むしろ、葵さんはその可能性を考えて咲夜さんを久隆様に託したのではありませんか?」
「え?」
「名実共に、二人を恋人にする。それが葵さんの狙いですよね?」
「だとしても、ヤちゃうのは駄目だろ!」
「親密さを醸し出すには、セックスするのが手っ取り早いと思いますがねえ」
もし、葵ちゃんの思惑とは違っていて、怒らせでもしたら?
全てが白紙に戻ってしまう。
「貴方は、とてもあの社長の息子とは思えませんね」
そういって和がクスッと笑う。
「ん?」
「大崎社長はとても、自由奔放な方ですから」
「良い意味で?悪い意味で?」
「どっちもです」
確かに親父は無茶苦茶な人だと思う。社長室には、好きだった人の卑猥なポスターが貼りまくられているらしいし。
「とりあえずは、葵さんと話されてみては?」
「うん」
「葵さんに計画の内容を見せたのは、貴方が葵さんを信頼しているからでしょう?自分を信頼してくれている人を裏切ることはとても勇気のいることですよ」
葵さんなら、と。彼は続ける。
「信頼関係を築けるのではないですか?貴方がずっと欲しかったものだって、与えてくれると私は思います」
俺がずっと欲しかったもの。
それは、友達。
「友達以前に、恋のライバルになっちゃってる気もするけど」
久隆はため息をつくと微笑む。
「葵ちゃんに会ってくるよ。咲夜のこと頼む」
「わかりました」
複雑に思えるものは、難しく考えているだけであって。
本人が考えるより意外とシンプルなのかもしれない。
葵に電話をかけると、三コールほどして通話口に出た。
『久隆くん?どうしたの?』
可愛らしい、ホッとする声だ。
「デートしない?お昼ご馳走するから」
『デート?良いよー。待ち合わせ場所送っといて』
着替えると言って葵は電話を切る。久隆は待ち合わせ場所の地図を葵に送ると、着替えるために階下に降りた。
友達か。
ちょっと、わくわくした。
「和、車出して」
「はい」
言わなくても言いたいことはわかる。
「相手さんの尾行が下手で助かったよ」
久隆は苦笑いをして、ミラー越しに和を見ると、何か言いたげだ。
「聖さんは、久隆様のこと」
「知ってる」
わかってる。
アイツが俺を好きなこと。
それを認めたくないこと。
気づかれたくないこと。
全部分かってた。
「だけど、何も言わないんだ。知らないふりするしかないだろ」
久隆の言葉に、和はため息をつく。
何も言わなければ、なにもしてやれない。
「覚悟を決めて行ったんだけどな」
久隆はドアに肘をかけ、顎に手をやる。
「私は嫌です」
「は?」
珍しく、和が感情的な声音で言った。
「貴方が、誰かに乱暴されるなんて耐えられません 」
「いや、さすがにそれはないだろ」
久隆は慌てる。
無理矢理はさすがに嫌だなぁ。
でも、毎日毎日誰かを連れ込んでるアイツのことだ。
「拗らせっぱなしなんですから、わからないじゃないですか」
余りある性欲の発散かと思っていたものが、自分への代用品だったとしたら恐ろしい。ヤり殺される。
根本的に久隆は大里を誤解しているが、まったく気づいていない。
「気をつけるからさー」
「はぁ..」
「なにそんな怒るの」
「怒ってません!」
なんだよ、咲夜のことはヤっちゃえってけしかけるくせに。
俺がヤられるのは嫌っての?
それじゃまるで..。
いや、ないないない。
ないから。
恐らくホントにない。久隆の否定は正しい。そもそも和が好意を持っている相手は..。
「和ってさ」
「はい」
「恋人とかいるの?」
見たところ、和は二十代後半くらいであった。兄である咲夜の父とは、結構離れていたことになる。やっぱり年が離れていると可愛いものなのだろうか?
「居ませんよ。いたらこんなに、仕事ばかりしていないでしょう?」
「すみませんねー。こき使って」
棒読みでそう言うと、和が苦笑いをする。それが数ヶ月後、身近なところで発展するなどと和も久隆も思ってもいなかった。
「着きましたよ」
いつの間にか、車は自宅に着いている。
まあ、家から大里のマンションまでは車で数分だしな。
「さて、咲夜はいい子にしてるかな」
「まるで、親ですね」
和が吹き出す。
「頼んだお土産買っといてくれた?」
「ええ」
「みんなに食べるように言って渡しといて。咲夜の分だけ持ってく」
「かしこまりました」
久隆は、大里グループ系列の一つの有名店の洋菓子を受けとると、屋敷の中に入っていく。
「久隆」
帰ると先に連絡をしておいた為、咲夜が玄関付近のソファーにちょこんと座って待っていてくれて。
うわ、忠犬ハチ公みたい。
「ただいま」
寂しいのか、咲夜はむぎゅッと抱き締めてくれた。
「お土産だよ、上で食べよう?」
「うん」
可憐に微笑む彼に久隆は胸を鷲掴みにされる。
くそ可愛いじゃないかよ!オイ。
「なんか音楽かけようか?ノリがいいヤツがいいよね」
ステレオに繋いだPCを立ち上げながら、そう話しかけると咲夜は後ろから抱きついてきた。
「どうしたの?」
「ありがとう」
「ん?」
「久隆が優しいから」
元気ない子相手に冷たくなんて出来っこないよ。
ましてや、葵ちゃんが戦線離脱状態のこの状況で。
「ハグって気持ちいいもんなんだね」
久隆がそう言うと、咲夜は切なそうな顔をする。
「葵ちゃんが恋しい?」
「うん」
「いい子、月曜日には学校で会えるよ」
「慰めてよ」
「え?」
久隆は首筋に口づけられて固まった。
「ダメ?なんでもしてくれるんでしょ?」
「いや、俺。そういうことしたことないし」
「ああいうの観てたクセに」
咲夜の形の良い綺麗な指先がシャツの上から胸を撫でる。
「中庭で俺にイタズラしたくせに」
「...」
「ねえ、”くー”は俺のこと好きなんでしょ?」
「ズルいぞ、その呼び方でそんなこと言うのは」
「痛くしないから。久隆の初めて頂戴?慰めてよ」
「ダメだよ」
「何故?」
咲夜はお構いなしに久隆のシャツのボタンを器用に外していく。
「そんなの、裏切りじゃないか」
「綺麗事言わないでよ!」
「ッ?!」
ゆっくりと反転させられ、久隆は唇を奪われた。
「んッ..咲夜、ダメッ」
「そんな中途半端な抵抗じゃ意味なんかないよ」
咲夜は眉を寄せ、辛そうにこちらを見ている。
「偽りでも、恋人なんでしょ?」
AⅤをみて顔を赤らめていたのが嘘のように。
「セックスしようよ、久隆」
「...」
「されるのが嫌なら、久隆がしてよ」
「え?」
「辛いの。忘れさせてよ」
咲夜の瞳からハラハラと涙が溢れ落ちるのを見ていた。
なんて残酷なんだろう?仮初めに手にいれても、咲夜は自分のものにはならない。大里に対してなら覚悟を決められた。なんとも思っていないから出来ることなんだと、改めて感じる。
今、目の前に最愛の人が俺に救いを求めている。
後悔するのがわかっているのに。
“あなたならどうする?”
「おいで」
久隆は咲夜の手を掴むと奥のベッドルームに続くドアを開けた。
あなたならどうする?
その手を振り払える?
俺のように過ちだとわかりながらも、その手を取るだろうか?
「抱いてあげる」
咲夜をベッドに座らせ、囁く。
「忘れてしまえばいい。何もかも」
そう、悪魔のように。
「今だけは、忘れてしまいなよ」
****
「うんッ..」
ヤバい、興奮する。
咲夜のシャツのボタンを外し、直に肌に触れると彼が頬を染めて身をよじった。その拍子に美味しそうな胸の果実が目に飛び込んだ。
「ふえっ?!」
咲夜の両腕を押さえつけ、久隆はその果実に舌を這わす。
「ああッ」
「咲夜、感じやすいの?」
「わかんなっ..されるの初めてだしっ」
偽りの恋人にすがらなければならないほど切迫しているというのだろうか?そこまで”片倉 葵”の存在が彼にとって大きいと言うのだろうか?
咲夜は残酷だね。
君が好きで好きでたまらないのに。
諦めなきゃいけないのに。
諦めさせてすらくれないどころか。
俺にこんなことまで望むんだ。
奪ってしまいたい。
ダメなのに。
「ああんッ」
甘い声を漏らす彼に興奮が止まらない。ほどよい肉付きに引き締まった身体。エロい腰つきに滑らかな肌。ゆっくり時間をかけるつもりでいたのに、久隆はたまらず咲夜のズボンに手をかける。
「久隆?」
「ごめんね、やめてあげられそうにない」
下着ごとズボンを引き抜くと咲夜自身にむしゃぶりついた。
「やぁッ」
舐められるのを恥ずかしがった彼が手をばたつかせる。
「エッチな声出して、誘ってるんでしょ?」
久隆が意地悪を言うと咲夜は両手で口をふさいだ。
「んんっ」
久隆は咲夜自身を手でしごきあげ、舐めしゃぶり吸い上げた。咲夜の甘い声が漏れるたび気が変になりそうになる。閉じようとする股を押さえつけ執拗に愛撫した。滑らかな肌が紅潮してとても官能的だ。咲夜のこんな姿を見られるのが自分だけなのかと思うとたまらない。
「久隆ッもう..」
「出していいよ、見せて」
「っ?!」
「ほら、エッチなミルク出すとこ俺に見せて」
「やだっ」
真っ赤になって首をふる咲夜が可愛くて、しつこく吸い上げる。
「やあっ..うぅっ」
快感に耐えきれなくなり出してしまった咲夜をぎゅっと抱き締めた。
「いつもは抱く方なのに、俺に組しかれてこんな厭らしいカッコしてるなんて」
「ぅっ..うぅっ」
「可愛い」
「久隆、なんでそんな意地悪ばかり..」
涙を溢す咲夜に甘い口づけ。
「可愛いから」
久隆は咲夜のさらさらの髪をなで、胸を撫でながら身体中にキスをする。
そして、一番奥へと。
「ッ」
久隆が足を持ち上げ舌を這わすと咲夜は慌てた。
「やっ?!」
「ピンク色で厭らしいよ」
「舐めなくてもッ」
咲夜は枕元に置かれたジェルを指差しながら。
「舐めたいの」
久隆は、それを制し、指と舌で彼を犯した。
咲夜の初めてを奪う。
考えただけでイきそうだった。
ゆっくりと指を抜き差ししてよくほぐす。プチゅプチゅと咲夜の蕾からとても厭らしい音がして、挿れたくてたまらなくなるのを耐えた。早くここに自分自身を穿ち、咲夜を喘がせたい。
「入れるよ?」
「うんッ」
頷いた咲夜。だが気づいてしまった。彼は震えていた。ぎゅっと目を閉じて。
「?」
いつまで待っても恐れていた衝撃が来ないことを不思議に思って、咲夜が瞼を開ける。
「咲夜、やめよ?」
「え?」
「怖いんでしょ?震えてる」
久隆そっと咲夜を抱き締めた。
「な..なんで?」
「無理しないで」
調査報告書で以前みた、咲夜の親の“離婚の理由”の項に記載されてた補足内容を思い出す。
“彼は、中学2年の時に義父からの強姦未遂に合った”
たまたま母が帰宅したから良かったものの、もし、そのままだったら未遂で済んでいない。
『俺、スキンシップはちょっと...』
以前学園の中庭で咲夜が髪に触れようとして手を伸ばした久隆の腕を、反射的に掴んだのはそれが原因なのだ。強姦未遂事件以前から、触れ合うことに慣れていた葵が、唯一平気だったのはそれである。
「久隆ッ、お願い」
「うん?」
しがみつく咲夜の髪に口づけた。
「挿れて」
「っ?」
こんなに怖がって震えているのに何をいっているんだ?
「久隆の特別にしてよ」
「充分特別だよ?」
君にじゃなきゃこんなことしないよ。
できないよ?
「忘れさせてくれるんでしょ?特別なこと感じさせてよ」
「咲夜」
久隆は耳元で甘く咲夜の名を呼ぶ。
「俺が下の名前で呼ぶのは特別なことだよ?大里が知ったら発狂するかもしれない」
彼がハッとして目を見開いた。久隆は肌を撫で上げ、咲夜の耳を噛む。すでに、大里が発狂していたとは知らなかったが。
「はぁッ..」
「ねえ、それじゃダメなの?」
「久隆ッ」
咲夜自身をしごきながら胸の飾りに舌を絡める。
「挿れるだけがセックスじゃないでしょ。何度でもいかせてあげるから」
「久隆..辛いのッ、だからッ」
俺だってなんとかしてあげたい。俺の方を見てくれるのなら、どろどろに甘やかして、ずっとずっと側に居てあげるのに。
だが、彼は次の瞬間信じられないことを口にする。
「他のっ..誰かにヤられちゃってもいいのかよっ!」
「え?」
暴挙に出る咲夜が愛しい。
でもさ。
「煽っちゃ..ダメでしょ?いけない子だね」
「ッ」
久隆は低い声で囁く。
咲夜の耳元で。
久隆の中で雄が目覚める。
「俺を怒らせたい?」
「久隆..?」
「大事にしようとしてるのに」
「え?」
「お仕置きが必要だよね?もう、嫌だって言っても止めてあげない」
「あ..」
咲夜の腕を頭の上で一纏めにして縛り上げた。
「久隆?!やっ..」
「嫌?されたいんでしょ?ここ、俺に犯されたくてたまらないんだろ?」
「やぁっ」
再び咲夜の奥に指を滑り込ませる。たっぷりとジェルを垂らし、かき回す。
先ほどとは比べ物にならない刺激に、咲夜が厭らしいあえぎ声を漏らし身をよじった。
「あんッ..辞めてぇ..おかしくなっちゃ..」
「止めないよ」
「あっああっ..やあッ」
「甘い声出して。エッチな子」
堕ちてしまえよ。
快楽と言う名の奈落へ。
泣き叫びながら俺に救いを求めればいい。
俺が世界の果てまで君を連れ去ってあげるよ。
誰も居ない二人だけの世界に。
もう、誰にも触れさせない。
狂気のような愛で愛してあげるから。
「違っ..ううっ」
「泣いたって許してあげない」
「もっ..やあッ」
ポタタっと彼自身からミルクが溢れ落ちる。
「気持ちくてたまらないんだろ?ほんとに初めてなの?自分でここ弄ってるんでしょ?」
「意地悪言わないでよっ」
「可愛い」
指を引き抜くと彼の足を抱えあげ、自分自身を押し充てた。
「あっ」
咲夜がビクッと身を固くする。
「力抜けよ。俺のが欲しいんだろ?」
「久隆ッやっ..」
「嫌じゃないだろ?俺のでここ、犯されたくてたまらないんだろ?ほら」
どこまでも、堕ちてゆく。
どんなに追いかけたって、その手は掴めない。
真に救われたいのは俺の方なんだ。
どんなに愛したって、君は手に入れられない。
こんなことなら出逢いたくなかったよ。
忘れたいよ、俺だって。
「やあああっ..んッ」
「きっつ。力抜けって」
「できなっ」
咲夜がポロポロと涙をこぼす。
「動くよ」
「えっ。え?」
「痛いの嫌なら力抜け」
「あッ..んッ..ああんッ」
ジェルをたっぷり使ったせいできついながらも滑りは良い。
「エッチな声出して、咲夜はほんとエロッ」
「だってッ」
結局、咲夜はよがってイきまくった。
『ごめんね、咲夜』
「久隆は、怒ると怖い..」
「そ?」
「野獣みたい」
「嫌なの?」
じっと咲夜を見つめる。
久隆は咲夜の乱れたさらさらの髪に指を絡め、愛しそうにただじっと。
「久隆は、こんな可愛いのに..」
「ギャップ萌え?」
「萌えてはないです。マジ怖い」
泣いて赤くなった咲夜の目元。
「じゃあ、せいぜい怒らせないようにね」
久隆がクスッと笑うと、咲夜はハグを求めた。
「咲夜は可愛いね」
ぎゅっと抱き締めてあげると、彼はそっと目を閉じる。
****
最悪だ。
久隆は書斎で項垂れていた。奥のベッドルームでは、咲夜が眠っている。あんなことしてしまうなんて。一夜明けて、猛烈な自己嫌悪に陥った。コンコンと、ドアを軽快に叩く音がして、父の社長秘書である和が顔を出す。彼は挨拶をしようとして固まった。
「何か、あったんですか?」
久隆は遠慮がちに声をかけられ、頭を抱える。
「ヤっちゃったよ」
「はい?」
「咲夜とセックスした」
「それはおめでとうございます。赤飯、炊きますか?」
いやいや、おかしいだろ。
「葵ちゃんに何て言ったらいいんだよ」
「ごめんね、ごめんねーっていっときゃいいじゃないですか」
「おかしくね?」
久隆はガックリ項垂れた。
「しょうがない人ですね」
和は、久隆の前まで歩いてくると立ち止まる。
「では、お聞きします」
「うん?」
久隆は顔をあげ、和を見上げた。
「今にも飢え死にしそうな人の前に自ら食事を差し出して、その人に食べられたからと言って責めますか?自己責任じゃないんですか?」
「それは..」
極端過ぎないか?
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「むしろ、葵さんはその可能性を考えて咲夜さんを久隆様に託したのではありませんか?」
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「うん」
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葵さんなら、と。彼は続ける。
「信頼関係を築けるのではないですか?貴方がずっと欲しかったものだって、与えてくれると私は思います」
俺がずっと欲しかったもの。
それは、友達。
「友達以前に、恋のライバルになっちゃってる気もするけど」
久隆はため息をつくと微笑む。
「葵ちゃんに会ってくるよ。咲夜のこと頼む」
「わかりました」
複雑に思えるものは、難しく考えているだけであって。
本人が考えるより意外とシンプルなのかもしれない。
葵に電話をかけると、三コールほどして通話口に出た。
『久隆くん?どうしたの?』
可愛らしい、ホッとする声だ。
「デートしない?お昼ご馳走するから」
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着替えると言って葵は電話を切る。久隆は待ち合わせ場所の地図を葵に送ると、着替えるために階下に降りた。
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