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special love『運命の恋人』

0:幸せの布石

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 ****♡side:大崎久隆

「うわああああん」
 普段は良い子にしている咲夜が時々、突然泣き出してしまうことがあった。二人は五歳。微妙な年頃だ。
「咲夜、泣かないで」
 ぎゅっと抱き締めて頭をヨシヨシしてあげると、咲夜は久隆に抱きつきしゃくりあげる。
「どうしたの?パパが恋しいの?」

 大崎邸には二十人ほどの従業員がいて賑やかではあるが、咲夜にとっては唯一の肉親は父の真咲だけであった。どんなに久隆や久隆の実兄が咲夜を可愛がっても血を繋ぐことはできない。

「ひっく……」
 むぎゅっと抱きついている咲夜の頭や背中を撫でながら困っていると、
「こんにちは」
 と、リビングへ入ってくる影。
「都筑」
 咲夜の叔父であり、二人の十一個上の高校生。
「また泣いてるの。おいで」
「都筑っ」
 咲夜をひょいっと抱き上げ、黒い皮貼りのソファーに身を沈める都筑をいつも久隆は恨めし気に見つめていた。

 ──咲夜は僕のなのに。
  早く大きくなって、咲夜を守ってあげたい。

 ソファーに乗り上げ膝立ちになると、都筑の胸に顔をつけ泣いている咲夜の髪をよしよしと撫でる久隆。咲夜は都筑の匂いが父と似ていて落ち着くのか大人しくなる。それがとても羨ましかった。大好きな咲夜。自分にだけ甘えてくれたら良いのに。久隆はいつでも彼よりお兄ちゃんのつもりであった。

 ──僕もいつか咲夜を抱っこしてあげるの。
  早くお兄ちゃんみたいに大きくなって、咲夜をメロメロにするんだから!

 指を咥えながらじっと咲夜たちを見つめる。久隆には大好きな実兄もいて、いつもイイ子イイ子してくれる。無口だが二人には甘い優しい兄だ。父に似て端整な顔立ちをしており、同年代の他の子に比べて成長が早いのか学年でも背は高いほうであった。兄、圭一は後に幼馴染みである大里聖の長姉から”美の女神に愛されし男”というあだ名を付けられることとなった、K学園一の美形男子である。
 久隆は信じて疑わなかった、自分も兄のようにすくすく育つのだと。
 しかし残念なことに、ベビーフェイスで可愛らしい見た目の久隆は母親似であった。

「くりゅう」
「うん?」
 落ち着くと咲夜は久隆に腕を伸ばす。都筑の膝から降りて久隆の隣へちょこんと座るのだ。可愛くてたまらない。久隆は一所懸命いい子いい子してあげる。
 咲夜が何かするたび
 ”いい子”
 ”凄いね”
 と久隆が褒める度に凄く嬉しそうな顔をした。
 そんな風に幼少期を経て小学校高学年になる頃には完璧な優等生となっていった。一方久隆は、もともとプライドの高い性格だった為育ちの良いお坊ちゃんという感じに。
 二人はとても仲が良くいつでも一緒だった。
 それが少し変化を迎えるのは高校に入ってから。

 *****

「はあ……」

 ──何故だ。
  何故……。

 久隆は項垂れていた。
 咲夜は誰の目から見ても優等生。文武両道で見目麗しい学年主席。久隆が褒めれば褒めるほど頑張るのでメキメキ学力は上がっていった。元々器用なのか何でもこなせる。
 それに比べ、久隆は音痴で美的センスが破壊的であった。学年で学力は五番以内に入るものの、咲夜に勝てることはなにもない。
 しかし親たちが二人を比べたりしなかった為、彼に対し僻んだことは一度もない。今でも仲がいい。問題はそこではなかった。

「咲夜に身長抜かれた……」

 久隆はお年頃である。
 大好きで可愛い咲夜の王子様気取りで今まで来た。本日の身体測定で三センチ差が出来ていたことにショックを受けたのである。父も兄も身長が高く、兄は大学生だが高身長でモデル体型だ。しかも端整な顔立ちでキラキラ男子だ。それに引き換え久隆はベビーフェイス。いつまでたってもお子様。

「久隆っ」
「!」
 急に話しかけられ久隆はバッと身体測定の用紙を後ろに隠した。
「どうしたの?」
 咲夜と一緒にいた幼馴染みの【大里聖】が自動販売機に行くと言ってそのまま二人から離れていく。久隆は聖と咲夜が並んでいた様子を思い出し唇を噛み締めた。聖は背が高い。とてもお似合いだった。
「久隆?」
 むぎゅっと咲夜を抱き締める。
「咲夜は俺のだもん」
「久隆、可愛い」
 目を潤ませ、ぎゅっとしがみついている久隆の目元に咲夜がちゅっとキスをくれた。
 驚いて咲夜を見つめれば、
「久隆、大好きだよ」
 と抱き締め返してくれる。

「ねえ、咲夜の好きはどんな好き?」
 上目遣いでじいっと咲夜を見つめていると
「あっち行こうよ」
 と咲夜は腕を解き久隆の手を掴んだ。
 ここは教室の近くで、そろそろみんなが戻って来る頃。咲夜に手を引かれ階段を上がる。連れてこられたのは音楽室であった。久隆は咲夜の奏でる旋律がとても好きで、大崎邸のエントランスには祖父に強請って買ってもらったグランドピアノが置いてある。咲夜がピアノを習っているのは久隆が喜ぶからであった。
「久隆」
「うん?」
「僕はね」
 振り返った咲夜は、いつも通りきっちりタイも締めて綺麗にK学園の制服を身につけている。
 それは久隆が望むから。

「久隆が褒めてくれるから、いろんなこと頑張ってきたの。君に褒められたくて、好かれたくて」
 優等生で、美人で、優しくて、いい匂いがして……。
「好きだよ。この想いは特別なものだよ」
 咲夜は久隆の両手を掴み引き寄せる。久隆の手からは、はらりと身体測定の用紙が落ちた。
「キス……したい」
 至近距離で囁かれて久隆はドキドキする。

 ──さ、咲夜からさせちゃだめだろ!
  咲夜の王子様になるって、ちか……。

 首を傾け咲夜はそっと顔を寄せると目を閉じた。思わず久隆もぎゅっと目を閉じる。
「んん……」

 ──気持ちいい。

 ぐっと引き寄せられ、驚いた久隆が少し口を開けると咲夜の舌が入ってきた。
「んッ」
 久隆はあまりの気持ちよさに夢中で舌を絡めたのだった。
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