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いやー、平和だねー(今は)
7.セシリー姉上
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1434年12月10日
バークシャーに位置するビーシャム・アベィ…、即ち俺の家、は宗教祭より一足早く、大変大きな祝いの席が開かれ、賑やかになっていた。
「…セシリー。本当に綺麗よ」
母上が感嘆してそう言った。目の前には頭部にベールをつけ、綺麗な水色のフープランドを纏うセシリー姉上がいた。
「ありがとう、お母様…」
嬉しそうに、そして少し悲しそうに姉上は笑った。
「こんなに美しく成長して…、もうお嫁に行ってしまうのね…」
母上も少し寂しそうだ。
セシリー姉上が結婚する。
そう決まったのは決して最近とは言えないが、遠い昔のことでもない。元々姉上は、ウォリック伯の一人息子、史実ではウォリック公となるヘンリー・ビーチャムと婚約していた。そして両家合意で、二人とも10歳になった為、二人の結婚が決定されたのだ。
姉上は明日、結婚してウォリック伯家に行ってしまう。今日は家族で過ごせる、最後の晩だ。
「…私、着替えてくるわね」
セシリー姉上は静かにそう言って部屋に戻って行った。
雨が、降っていた。
◯●◯
「…リッキー、少し、いい?」
夕方、セシリー姉上が俺の部屋を訪ねてきた。
「セシリー姉上。どうしました?」
「少し、お話ししたいの」
クールな姉上らしくない、少し控えめな感じでそう尋ねてきた。
「…いいですけど」
「ありがとう…」
ドアを閉め、隣り合って俺のベッドに腰掛ける。
「…少し、話がしたかったの」
「…俺にですか?」
「まぁね…。お姉様とは話したし、ジョニーとジョーは幼いじゃない。…別にトムやアリーでも良かったけれど、二人は素直だし…。明るい話じゃないから、一番話しやすいのはリッキーなのよ」
「明るくない、話…?」
「…不安なの」
ぽつり、と姉上は呟いた。サー、という雨の音が強まった。
「…ヘンリーは、優しいのよ。お義父様とお義母様だってよくしてくれる。…でも、一緒に暮らしたことはないから、上手くいくか、とか失望されないか、とか。なんだか心配になってしまうの。…でも、そんな素振りを見せたら、お姉様も、みんなも心配しちゃうだろうし、みんなを不安にさせたくないし…」
マリッジブルーというのだろうか。姉上は不安を吐き出し続ける。…正直、どう返せばいいかわからない。…でも、
「…大丈夫ですよ」
「…どうして?」
「姉上は、そんなに弱くはありませんから。だって、こんなにかっこよくて、強い女性、見たことありませんよ?あの父上に言い返すことができる人、姉上以外は母上くらいでしょう?だから、大丈夫です。それにもし、ダメだったとしたら、俺たちが助けに行けるから。まだ、小さいけれど俺もトムもジョニーも、いつかジョーも立派な騎士になって、困っている姉上を助けます」
姉上の手を握って、語る。目を合わせて、はっきりと。
「…そうね」
閃光が走り、雷が落ちる。轟音がする。
「私は、大丈夫」
すっ、と姉上が立ち上がる。
「ありがとう、リッキー。少し、落ち着いたわ」
◯●◯
翌朝は、いわゆる天気雨だった。綺麗な虹がうっすらと見える。
「セシリーおねえさま!虹!」
アリーが指を指して嬉しそうに言った。
「知っている、アリー?虹はね、幸せの象徴なのよ」
「しあわせ?おねえさま、今、幸せ?」
「…そうよ。みんなとしばらくお別れなのが寂しいけど」
セシリー姉上がアリーを抱きしめる。
「おい、セシリー。せっかくの衣装に皺がよるぞ」
「うるさいわね、お父様」
父上の小言にセシリー姉上がいつも通り返す。
「セシリー。元気に過ごすのよ…」
ジョウン姉上がうっすら涙を浮かべて言った。
「…当然よ」
「ねーね、いってらっしゃい」
「バイバイ」
結婚、をあまり理解していないジョニーとジョーが笑顔で手を振る。
「姉さん、う、うぅぅ…お幸せに」
トムが号泣しながら言った。
「全く…、貴方が嫁に行くんじゃないのに…」
セシリー姉上が呆れながらトムの涙をハンカチで拭う。
「…姉上。ちゃんと、俺が守りますから」
この家も、姉上も。
「ええ…。ありがとう」
「セシリー。困ったらお母様に言うのよ」
「ええ、そうします」
「…立派に、つとめを果たして来い」
「…お父様に言われなくてもわかっているわ」
みんなで語り合っているうちに、迎えの馬車が来た。姉上の夫になるヘンリー・ビーチャムが降りてきて、そっと姉上の手を取る。
姉上は少し寂しそうで、それでも、幸せそうな顔をしていた。
バークシャーに位置するビーシャム・アベィ…、即ち俺の家、は宗教祭より一足早く、大変大きな祝いの席が開かれ、賑やかになっていた。
「…セシリー。本当に綺麗よ」
母上が感嘆してそう言った。目の前には頭部にベールをつけ、綺麗な水色のフープランドを纏うセシリー姉上がいた。
「ありがとう、お母様…」
嬉しそうに、そして少し悲しそうに姉上は笑った。
「こんなに美しく成長して…、もうお嫁に行ってしまうのね…」
母上も少し寂しそうだ。
セシリー姉上が結婚する。
そう決まったのは決して最近とは言えないが、遠い昔のことでもない。元々姉上は、ウォリック伯の一人息子、史実ではウォリック公となるヘンリー・ビーチャムと婚約していた。そして両家合意で、二人とも10歳になった為、二人の結婚が決定されたのだ。
姉上は明日、結婚してウォリック伯家に行ってしまう。今日は家族で過ごせる、最後の晩だ。
「…私、着替えてくるわね」
セシリー姉上は静かにそう言って部屋に戻って行った。
雨が、降っていた。
◯●◯
「…リッキー、少し、いい?」
夕方、セシリー姉上が俺の部屋を訪ねてきた。
「セシリー姉上。どうしました?」
「少し、お話ししたいの」
クールな姉上らしくない、少し控えめな感じでそう尋ねてきた。
「…いいですけど」
「ありがとう…」
ドアを閉め、隣り合って俺のベッドに腰掛ける。
「…少し、話がしたかったの」
「…俺にですか?」
「まぁね…。お姉様とは話したし、ジョニーとジョーは幼いじゃない。…別にトムやアリーでも良かったけれど、二人は素直だし…。明るい話じゃないから、一番話しやすいのはリッキーなのよ」
「明るくない、話…?」
「…不安なの」
ぽつり、と姉上は呟いた。サー、という雨の音が強まった。
「…ヘンリーは、優しいのよ。お義父様とお義母様だってよくしてくれる。…でも、一緒に暮らしたことはないから、上手くいくか、とか失望されないか、とか。なんだか心配になってしまうの。…でも、そんな素振りを見せたら、お姉様も、みんなも心配しちゃうだろうし、みんなを不安にさせたくないし…」
マリッジブルーというのだろうか。姉上は不安を吐き出し続ける。…正直、どう返せばいいかわからない。…でも、
「…大丈夫ですよ」
「…どうして?」
「姉上は、そんなに弱くはありませんから。だって、こんなにかっこよくて、強い女性、見たことありませんよ?あの父上に言い返すことができる人、姉上以外は母上くらいでしょう?だから、大丈夫です。それにもし、ダメだったとしたら、俺たちが助けに行けるから。まだ、小さいけれど俺もトムもジョニーも、いつかジョーも立派な騎士になって、困っている姉上を助けます」
姉上の手を握って、語る。目を合わせて、はっきりと。
「…そうね」
閃光が走り、雷が落ちる。轟音がする。
「私は、大丈夫」
すっ、と姉上が立ち上がる。
「ありがとう、リッキー。少し、落ち着いたわ」
◯●◯
翌朝は、いわゆる天気雨だった。綺麗な虹がうっすらと見える。
「セシリーおねえさま!虹!」
アリーが指を指して嬉しそうに言った。
「知っている、アリー?虹はね、幸せの象徴なのよ」
「しあわせ?おねえさま、今、幸せ?」
「…そうよ。みんなとしばらくお別れなのが寂しいけど」
セシリー姉上がアリーを抱きしめる。
「おい、セシリー。せっかくの衣装に皺がよるぞ」
「うるさいわね、お父様」
父上の小言にセシリー姉上がいつも通り返す。
「セシリー。元気に過ごすのよ…」
ジョウン姉上がうっすら涙を浮かべて言った。
「…当然よ」
「ねーね、いってらっしゃい」
「バイバイ」
結婚、をあまり理解していないジョニーとジョーが笑顔で手を振る。
「姉さん、う、うぅぅ…お幸せに」
トムが号泣しながら言った。
「全く…、貴方が嫁に行くんじゃないのに…」
セシリー姉上が呆れながらトムの涙をハンカチで拭う。
「…姉上。ちゃんと、俺が守りますから」
この家も、姉上も。
「ええ…。ありがとう」
「セシリー。困ったらお母様に言うのよ」
「ええ、そうします」
「…立派に、つとめを果たして来い」
「…お父様に言われなくてもわかっているわ」
みんなで語り合っているうちに、迎えの馬車が来た。姉上の夫になるヘンリー・ビーチャムが降りてきて、そっと姉上の手を取る。
姉上は少し寂しそうで、それでも、幸せそうな顔をしていた。
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