精霊に好かれた私は世界最強らしいのだが

天色茜

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第四章冒険者事業

閑話 元精霊使いの回想②

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いつものように釣りに行こうと、馬車に乗っていた時のことだった。
馬車が止まった。兵士が外で何かもめているようだ。

聴こえてくる内容から、兵士がどけと言っているのに女が退かないようだ。
俺は待つのが嫌いだ。

イライラして馬車を降りた。女にそれなりの罰を与えてやろう。
そう思って、女に文句を言ってやった。しかし女は反抗的な目で俺を睨んできた。俺はさらに怒りを覚えた。

そんな女に、俺は精霊使いだと教えてやった。ついでに死刑にするとも言ってやった。
だが死刑にする気までは無かった。女が驚愕し、怯え、俺に「ごめんなさい」と涙を流しながら懇願する様を見たかった。

しかし女は怯える様子も無く、まるで知っていたかのように、むしろ俺を軽蔑するような目で見始めた。
久しく無かった自分への態度を示した女に、俺は内心動揺していた。

兵士を黙らせ、女に振り返る。
よく見ると女の横や後ろにはかなりの数の精霊がついていた。怒りと驚きで気づかなかった。


なるほど。こいつも精霊使いか···。


確かに同じ精霊使いなら怯えたりはしないだろう。

そう、同じ精霊使いなのに。

俺は何を思ったのか自分の立場の方が上だと思っていた。
兵士が居るからでは無い。自分でもよくわからない。

俺は数百の精霊をつけている女に対して十匹程度の精霊しかつけていなかった。
だが自分の方が偉いと決めつけていた。

だから馬を譲れと言った。
上の者に無礼を働いたのだから当然だと思った。
それにこの馬はとても美しかった。俺は馬の蒐集も嗜んでいる。その中でも一番であろうこの美しい馬を自分の物にしたかった。

返事を出さない女にしびれを切らし、馬に乗ろうとした。
馬も俺のような奴が乗ってくれて幸せだと思っているだろう。しかし馬は俺を振り落とした。

流石の俺もこれには狼狽えた。
しかし心の広い俺は馬を自分の装飾品に加えようと言ってやった。

これまでに無いほど素晴らしい発想だと思った。
俺の怒りも収まるし、馬も喜ばしいことに限りないと。

しかし女は怒り、俺を叱った。

十年も誰かに指図されたことの無い俺は、怒りが限界だった。
俺の厚意も無視して怒る馬鹿な女に、今度こそ本当に死刑を与えてやろうと思った。


精霊に命令した。この女を殺せと。


俺に歯向かう者は居なかったから命令こそ近年していなかったが、言うことを聞くと思っていた。
自分は精霊使いだから精霊に命令するのは当たり前。そして精霊は言うことを聞くのが当たり前。いつの間にかそんな考えが定着していた。

だが精霊は言うことを聞くどころか女にしっぽを振った。

俺は命令するが全く精霊は聞かない。
女も精霊に命令するなと注意してきた。怒りが収まらない。

俺は言ってやった。思っていること全部。

お前らはゴミだと。クズだと。

役立たずの兵士と精霊。反抗的な馬と女。
その場に居る者全てが俺の気分を狂わせた。いや、勝手に怒っていた。

気がつくと俺の目の前に黄緑の髪の精霊が浮いていた。
他の精霊と雰囲気の違うこいつは俺の命令を聞くのかと思った。しかし逆だった。

こいつは頭が良い···俺にキレてるだけだった。

俺はあっという間に地面から出たツタにより上空へと持ち上げられた。
そして弄ばれ、最終的にツタは俺を離した···が、真っ逆さまに落ちて行く俺をツタはもう一度掴んだ。そして、元の地面に戻された。

俺は文句を言いながらも、早くこの場所を去りたいと思い、馬車で帰ろうとした。
しかし、精霊が付いてこなくなった。兵士も急に冷たい態度をとり始めた。

俺は内心わけがわからないまま王宮へ戻った。
しばらくすると兵士達とこの国の王太子が冷たい目で俺を睨みながらこう言った。


ーお前はもう精霊使いではない。さっさとこの国から消えろ。


俺は兵士達に無理矢理また馬車に乗せられ、とある街まで来た。
急に王都の兵士がやって来たことで、住民達はザワザワと集まり始めた。
兵士は俺を降ろし、叫んだ。

「皆の者、よく聞け。この男は精霊様と他国の精霊使い様を酷く侮辱し、精霊使いだった自分の地位を自ら落とした愚か者である!最高位の精霊様がわざわざ手を下し、男の精霊使いという職業を剥奪してくださったのだ!さらにはこの国が一時期苦しんだのもこいつが原因だ!この男、どうするべきだと考えるか?」

民衆が俺を軽蔑する目で見つめ、口々に悪口を叩く。

「精霊様や精霊使い様を侮辱?死刑に等しいわ」

「精霊使いの職業を剥奪されたんだろ。さっさと殺してしまえ」

「そうだ!殺せ!」

「殺せ」、その言葉が自分に向けられているとわかり、絶句する。なぜ誰も何も言わない?俺がこんなに困っているのに。今まで何もかもが思い通りになってきた。なのになぜ···。

「皆の者、この男は精霊使い様のご慈悲で死刑とはならない。しかし国外追放を言い渡す。安心するといい」

俺は目を丸くした。国外追放?この俺が?
一人放心している中、民衆は「精霊様達に感謝ね」「この国の精霊使い様がこんなクズだったとは···早く隣街にも知らせなくては」と呑気に会話していた。

状況を読み込めない俺に、兵士はまた無理矢理馬車に乗せた。しばらくして着いたのは、あの時あの精霊使いの女と会った崖道の場所だった。

「お前は国外追放だ。二度とこの国に近づくな」

「はぁ!?お前、誰に向かって···」

「···ただの罪人にだが?いいか、お前はもう精霊使いではない。お前は好き勝手にこの国を荒らした。特にそれで国王陛下は心を病まれてしまった。本当は今すぐにでも殺してやりたいが···まあいい。とにかくお前は国外追放だ。戻っても街では誰もお前を匿わないだろう。さっきの民衆の反応を見ればわかるだろう?」

兵士は俺ににんまりと笑った。
普段ならここでキレて胸ぐらを掴む俺も、この状況で何をしたらいいかなどわからなかった。

「じゃあな。『元精霊使い様』」

馬車に乗り、去っていく兵士達を呆然と眺めながら、俺は今更悟った。


···取り返しのつかないことをしてしまったのだと。
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