精霊に好かれた私は世界最強らしいのだが

天色茜

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第三章異世界の常識

この世界の精霊使い①

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「ふぅ。やっと着いた···」

着いた、と言っても、湖を超えた所までである。
そのまま歩いて行くよりは、確かにフォレのツタの橋の方が早かったと思う。しかし、森や湖を一直線に通ったのだからそれなりに長い。流石に疲れる。
え?うーまに乗ってるのだから疲れないだろって?
こんなに高い所を歩いて、さらには馬に乗っているのだから精神的に宜しくない。

湖を超えたはいいが、周りには見渡す限りの草原と山脈ぐらいしかない。
見たところ通れる道は無い。今度こそ転移魔法を使った方がいいと思うのだが···。やっぱり地図か何か買えば良かっただろうか。

「アリサ、あの山崖道が出来てるのよ。行きましょう」

フォレ、流石頼りになる。
でもよく崖道のことを知ってるなぁ。精霊は何億年も生きてるみたいだし、当たり前かな?
でも崖道と聞くと嫌なことを思い出す。
グアンナ···まあ、会うこともないだろうし、フォレがいるから大丈夫か。

「分かった。フォレ、どこから行けるの?」

「あそこの林ら辺からよ。アリサは知らないと思うけど、度々人が馬車で通るの。湖に珍しい魚でもいるのかしらね」

「こんな所に来てまで?」

私がそう聞くと、フォレは黙ってしまった。何か聞いてはいけないことだったのだろうか。
しかしこんな場所まで来て釣り?獣人が湖の反対側までわざわざ来るとは思えないし、じゃあ向こうの国の人間?いや、人間が獣人国の領地まで来る勇気は無いはず。いやしかし、奴隷商人という可能性も···。

私が考え込んでいると、フォレのいつもと変わらない、「早く行くわよ」という凛とした声が聞こえてきた。
するとうーまが歩き出し、私は慌てて「待って」と声をかけた。

「ごめん。うーま、疲れたでしょ。もういいよ」

私はそう言い、名残惜しそうにするうーまから降りた。
流石にグアンナのトラウマを持っている上、崖道で馬に乗っていられるほど私は強くない。
フォレの話では、万が一落ちても精霊が助けてくれるし、崖から落ちても私なら死なないという。正直、流石に崖から落ちたのなら生身の身体では···。と、思ったのだが、「ビッグウォーターボール」でやらかしたのぐらいなので、強く否定できない。

フォレはいつの間にか崖道付近まで居て、「早く」と私を急かしてくる。
私はうーまと一緒にフォレの所へ向かった。

こんな崖道があるなんて···やはり誰か通っているのだろう。

そんなことを思いながらも、私達は山を登り始めた。








「疲れてないけど···飽きた」

私が愚痴をこぼすと、フォレの「まだまだよ」という嬉しくない返事が返ってくる。

私もこんな体質なもので、疲れはしない。だが、歩くだけだし、フォレとの会話も尽きてしまった。
····なんというか、暇だ。

「ん?何あれ···馬車?」

向こうからガラガラと音が聞こえてくる。遠くてよく見えないが、あれは確かに馬車だ。

そしてフォレの嫌そうな顔。

「フォレ、あれが何かわかる?」

「まあ···ね。関わらない方がいいわよ。転移魔法で行きましょう」

転移魔法···そこまでして嫌なものなのか?
だってあれは馬車だ。まさか凶暴な魔物が乗っているわけでもないだろう。
ではフォレが嫌いな人物···思い当たらない。

···いや、少しある。
でも、フォレ曰く世界で五人程度しかいないらしいし···。そんなまさか。

考えているうちに、馬車は私達の近くまで来てしまっている。転移魔法ではもう遅いだろう。

「···はあ。関わりたくないから、兵士達に見られない場所に行くわね」

そう言って、フォレは綺麗な羽をパタパタ動かしながら上空へ飛んで行ってしまった。
と言っても、いなくなったわけではない。どうやら上空から私達を見ているようだ。

そして···兵士達。
確かにあの格好は兵士らしい。私の予想が確信に変わる。

「む···?そこの女、何者だ」

私に気づいた兵士が問いかけてくる。

「ただのしがない冒険者です」

「嘘をつくな。ここは獣人国の領域だ。冒険者だろうが人間がこんな所にいるわけがないだろう。もしや貴様、魔女か?」

うるさいなぁ···。魔女って絶対見た目で言ってるでしょ。ていうかこの兵士の人、人間だよね。

「魔女ではありません。あなた達こそ人間ですよね?獣人国の領域で何をやっているんですか?まさか···釣りなどではないですよね?」

私がわざとらしく聞くと、兵士は動揺し始めた。

「そ、そんなわけないだろう!貴様には関係ない!どけ!どかないと殺してしまうぞ!」

兵士が物騒なことを言い始める。なんだか面倒くさくなってきた。
大人しくどこうとした時ー。

「おい女、俺への無礼はそんなものでは済まされないぞ」

男の声。
イラッとしながら見ると、馬車から降りてきたのは高価そうな装飾品を身にまとった、太り気味の男だった。

「俺様は釣りに来たんだが、その道は長い。そしてお前は唯でさえ長い時間をさらに延ばした。
    ···精霊使い様のな。死刑だ。王宮に戻ったら首吊りにでもしておけ」

······うわぁ。
俺様とか···痛い。痛すぎる。
予想は出来ていたが、精霊使いだった。予想以上の自己中だ。

私自身もそんなに良くない性格だと思うが、流石にこんなことは言わない。

それでも精霊使いなのだろう。十匹くらいの精霊が傍にいる。

「せ、精霊使い様。流石に実質何もしていない人間を処刑ともなりますと、国民からの批判が···」

「何?俺に逆らうのか?」

「め、滅相もございません!」

先程の兵士の威圧が嘘のようだ。私も精霊使いだって言ったら心臓止まるんじゃないかな。

「おや?女、さては貴様も精霊使いか?凶悪な顔で気づかなかったが、数百の精霊がまとわりついているではないか」

サラッとディスっている。
まあ、精霊使いが精霊が見えるのは当たり前か。

「そうですよ」と言い、兵士を見ると、面白いくらいの驚愕の表情をしていた。

「なるほど···。おい女、同じ精霊使いだということに免じて、処罰を軽くしてやろう。そこの馬を譲れ」

····は?何言ってるの?
うーまを譲れってこと?断るに決まってるじゃん。

「そこの美しい馬、貴様には勿体無い。俺様の蒐集···いや、愛馬にしてやろう」

そう言い、男はあろう事かうーまに乗り始めた。
だがうーまは嫌そうに男を振り落とす。男は「うわぁっ!」と、無様な声をあげる。不幸か幸いか、怪我は特に無いようだ。
うーま···私と真逆の反応じゃないか。

「っ!この馬···!···まあいい。俺様は心が広いからな。毛皮にでもして、特別に俺様の装飾品にでも加えてやろう」

···マジで何言ってんのコイツ。
毛皮にする?それってつまり···うーまを殺すってことでしょ?

···かつて無いほどの怒りを感じた。

「···ふざけるな。さっきから生き物の命を軽く見すぎなんだよ」

このどす黒い声が自分から発せられていると気づき、正直驚いた。でもこの怒りがその程度で収まるわけがない。
男は驚いていたが、すぐに怒り始めた。

「俺様に向かってなんだその態度は!?俺に逆らうと精霊が黙っていないぞ!お前ら、この女を殺してしまえ!」

お前らとは兵士のことだろうか。恐らく、精霊のことだろう。だが誰も動かない。

「···?おい、精霊!さっさと女を殺せ!」

『えー。いやだーこの子はこーげきしたくないー』

『なまえなんていうの?契約しようよー』

のほほんとした声。
殺すどころか私に契約してとねだってくる。

「な···!?ふざけるなお前ら!俺様の言うことを聞け!」

「あの、精霊にそんなことを言っても無理だと思いますよ。というか私も精霊使いですし。精霊はあなたの道具じゃないんですから、そんなふうに命令しないでくださいよ」

さっきからこの男は精霊に命令している。精霊使いは精霊を盾に我儘を言っているのか?···酷いな。

「黙れ!精霊は道具だ!それ以下でもそれ以上でもない!俺様は精霊使いなんだ!精霊が言うことを聞いて当然なんだ!」

「はあ!?精霊は生きているんですよ!精霊は好きであなたの傍に居るだけなんです!それもわからないなんて馬鹿じゃないの!?」

「黙れ黙れ!俺様に指図するな!醜い女に馬!約立たずの兵士に精霊!
   こんな時の為の精霊だろうが!お前らは道具じゃない!ガラクタだ!ゴミだ!俺以外全員クズだ!」

なんて横暴なのだろう。怒りを通り越して呆れてを感じる。

「·······ふざけないで」

静かだが、確かに怒りの混じった声。
気がつくと私の目の前にいたのはーー。



「·······フォレ···」

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