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第五章水の精霊

高速移動魔法

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『どこにいくのー?』

 『だからありさのおうちにいくんだよ~』

『おるすばん!おるすばん!』

遠足に行くかのようにはしゃぐ精霊達。私はそんな精霊達とは正反対に、憂鬱だ。

フォレとロランに転移魔法を軽々と断られた私に、うーまは「さぁ乗って!」と言うようにキリッとした顔でスタンバイしていた。その様子から断ることも出来ず、結構乗馬した。しかし、私だってこの世界に来る前の乗馬体験なんて動物園で楽しくポニーに乗ったぐらいしかない。そんな私にうーまのはしゃいだ猛ダッシュなんて耐えきれるわけがないだろう。

だから今は歩いているのだ。やっと山が見えてきたぐらいだが、これでもかなり歩いた。

「ああもう嫌だ!ほんと疲れる!車が欲しい!」

「くるま···?まあよくわからないけど、わがまま言わない!アリサなんて疲れてないでしょ?」

そんなお母さんみたいなことを言うフォレ。なんだか私は恥ずかしくなったが、納得できなくて「だってー」と続ける。

「山、遠くない?フォレだって面倒くさいでしょ?精霊だから馬車みたいな移動手段がない精霊は普段どう移動してるの?」

「はぁ、普段はもっと速く移動できるわよ。アリサのペースに合わせているのよ」

「えぇ···。じゃあなんか魔法とかは?高速移動魔法みたいなのないの?」

「あるわよ」

「あるんだ!?」

ため息をついて冷たい視線を送るフォレ。フォレは周りに冷たい視線を送りすぎだと思う。

「複合魔法みたいなものね。人族の間ではまだ見つかっていないそうよ。ええと···まあいいわ。アリサ命名高速移動魔法」

「えっ」

いつの間にか私が命名したことになってる。ツッコミたいが、まあいいやと軽く考えた。本当に私は面倒くさがりだ。

「···で、その魔法はどうやるの?複合魔法とかいうものだから難しい?」

「まあ、人族にとってはまだ複合魔法まではいかないかもだけど、二種類の魔力を使うから魔力の区別がはっきりしてる私達はそう呼んでるわ。この魔法は、風と光の魔力が必要ね」

久しぶりのフォレ先生が現れたなーなんて思いながらフォレの解説を聞く。フォレの後ろで他の精霊達とわちゃわちゃと遊ぶロランが見えたが、気にしないことにした。

風と光か···あれ?でも···。

「私、光の精霊とかみたことないんだけど」

「···光の精霊は意外と数が少なくて希少なの。たぶんまだアリサも契約してないわよ。まあでも、アリサレベルなら契約しなくても余裕で魔力貰えるでしょ。魔法の仕方なんてイメージよ。イメージ。よく長い詠唱とか唱えるやつがいるけど、一番大切なのはイメージよ」

イメージ。
妙にしっくりくる言葉で、高速移動の魔法を使おうとする。
私は元の世界では普通に足が遅かった。中学生の時の徒競走では周りが足の速い人ばかりで、ほんとにもう···周囲の目とかキツかった。それはともかく、そんな私が徒競走で急に足が速くなったら?あの私より足の速い子も、陸上部のエースも一気に追い越して、周りのクラスメイト、大人、全員がびっくりするぐらいの速さで···!


そんな私の妄想も、今は現実にできる。



一瞬、私の足に風が吸い込まれ、光が溢れ出したような幻覚を見た。

「···え?」

イメージを解いてしまった私は、目の前で私を見つめているフォレや、その後ろでこちらを気にもせず遊んでいるロランと精霊達、心配したようにそばについているうーまがいた。あのイメージから元の光景へと戻ったが、特に体に違和感はない。え、まって、これって失敗?

「成功ね」

私の心の中を読み取ったかのようやタイミングだ。フォレは人の思想を読み取るのが上手い。

でも、どうして?
そんな疑問を再び読み取ったかのように説明を始めるフォレ。

「アリサの体には今、風と光の魔力が多く宿ってるわ。ちょっと歩いてみなさい」

そんなこと言われても。まあフォレが言うならそうなのだと思うけれど、歩いたくらいで足の速さなんてわからない。そう思いながらも、てくてくと、たった十歩くらい歩いたー


ー···つもりだった。


ん?あれ?ちょっと周りの風景変わってる?ていうかフォレ達遠くない?
そう思って、すっとフォレ達の所へ走った···が、またこの違和感だ。

···ちょっとまて。今、私何歩走った?

感覚的に一、二歩軽く踏み込んだだけだったのだ。そう、感覚的に。なのに結構遠くにいたフォレ達がこんなに近くにいる。

「···いや、成功ねとかちょっとカッコつけて言った私も私だけど、ここまでとは思わなかったわ」

フォレがうんうんと唸ると、うーまも何か察したようにそっと顔を俯かせる。いや「ここまでとは思わなかった」ってなんだよ。良いことなの?悪いことなの?

「アリサ、その魔法をうーまにもかけてあげて。ここからは飛ばしていくわよ」

フォレにそう言われ、まだこの魔法のことについて聞きたかった私も渋々言われた通りにした。

うーまに魔法をかけている時、「制御の練習が必要ね···」とかぼそりと聞こえたフォレの声は、気のせいにしたかった。
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