51 / 63
第五章水の精霊
高速移動魔法
しおりを挟む
『どこにいくのー?』
『だからありさのおうちにいくんだよ~』
『おるすばん!おるすばん!』
遠足に行くかのようにはしゃぐ精霊達。私はそんな精霊達とは正反対に、憂鬱だ。
フォレとロランに転移魔法を軽々と断られた私に、うーまは「さぁ乗って!」と言うようにキリッとした顔でスタンバイしていた。その様子から断ることも出来ず、結構乗馬した。しかし、私だってこの世界に来る前の乗馬体験なんて動物園で楽しくポニーに乗ったぐらいしかない。そんな私にうーまのはしゃいだ猛ダッシュなんて耐えきれるわけがないだろう。
だから今は歩いているのだ。やっと山が見えてきたぐらいだが、これでもかなり歩いた。
「ああもう嫌だ!ほんと疲れる!車が欲しい!」
「くるま···?まあよくわからないけど、わがまま言わない!アリサなんて疲れてないでしょ?」
そんなお母さんみたいなことを言うフォレ。なんだか私は恥ずかしくなったが、納得できなくて「だってー」と続ける。
「山、遠くない?フォレだって面倒くさいでしょ?精霊だから馬車みたいな移動手段がない精霊は普段どう移動してるの?」
「はぁ、普段はもっと速く移動できるわよ。アリサのペースに合わせているのよ」
「えぇ···。じゃあなんか魔法とかは?高速移動魔法みたいなのないの?」
「あるわよ」
「あるんだ!?」
ため息をついて冷たい視線を送るフォレ。フォレは周りに冷たい視線を送りすぎだと思う。
「複合魔法みたいなものね。人族の間ではまだ見つかっていないそうよ。ええと···まあいいわ。アリサ命名高速移動魔法」
「えっ」
いつの間にか私が命名したことになってる。ツッコミたいが、まあいいやと軽く考えた。本当に私は面倒くさがりだ。
「···で、その魔法はどうやるの?複合魔法とかいうものだから難しい?」
「まあ、人族にとってはまだ複合魔法まではいかないかもだけど、二種類の魔力を使うから魔力の区別がはっきりしてる私達はそう呼んでるわ。この魔法は、風と光の魔力が必要ね」
久しぶりのフォレ先生が現れたなーなんて思いながらフォレの解説を聞く。フォレの後ろで他の精霊達とわちゃわちゃと遊ぶロランが見えたが、気にしないことにした。
風と光か···あれ?でも···。
「私、光の精霊とかみたことないんだけど」
「···光の精霊は意外と数が少なくて希少なの。たぶんまだアリサも契約してないわよ。まあでも、アリサレベルなら契約しなくても余裕で魔力貰えるでしょ。魔法の仕方なんてイメージよ。イメージ。よく長い詠唱とか唱えるやつがいるけど、一番大切なのはイメージよ」
イメージ。
妙にしっくりくる言葉で、高速移動の魔法を使おうとする。
私は元の世界では普通に足が遅かった。中学生の時の徒競走では周りが足の速い人ばかりで、ほんとにもう···周囲の目とかキツかった。それはともかく、そんな私が徒競走で急に足が速くなったら?あの私より足の速い子も、陸上部のエースも一気に追い越して、周りのクラスメイト、大人、全員がびっくりするぐらいの速さで···!
そんな私の妄想も、今は現実にできる。
一瞬、私の足に風が吸い込まれ、光が溢れ出したような幻覚を見た。
「···え?」
イメージを解いてしまった私は、目の前で私を見つめているフォレや、その後ろでこちらを気にもせず遊んでいるロランと精霊達、心配したようにそばについているうーまがいた。あのイメージから元の光景へと戻ったが、特に体に違和感はない。え、まって、これって失敗?
「成功ね」
私の心の中を読み取ったかのようやタイミングだ。フォレは人の思想を読み取るのが上手い。
でも、どうして?
そんな疑問を再び読み取ったかのように説明を始めるフォレ。
「アリサの体には今、風と光の魔力が多く宿ってるわ。ちょっと歩いてみなさい」
そんなこと言われても。まあフォレが言うならそうなのだと思うけれど、歩いたくらいで足の速さなんてわからない。そう思いながらも、てくてくと、たった十歩くらい歩いたー
ー···つもりだった。
ん?あれ?ちょっと周りの風景変わってる?ていうかフォレ達遠くない?
そう思って、すっとフォレ達の所へ走った···が、またこの違和感だ。
···ちょっとまて。今、私何歩走った?
感覚的に一、二歩軽く踏み込んだだけだったのだ。そう、感覚的に。なのに結構遠くにいたフォレ達がこんなに近くにいる。
「···いや、成功ねとかちょっとカッコつけて言った私も私だけど、ここまでとは思わなかったわ」
フォレがうんうんと唸ると、うーまも何か察したようにそっと顔を俯かせる。いや「ここまでとは思わなかった」ってなんだよ。良いことなの?悪いことなの?
「アリサ、その魔法をうーまにもかけてあげて。ここからは飛ばしていくわよ」
フォレにそう言われ、まだこの魔法のことについて聞きたかった私も渋々言われた通りにした。
うーまに魔法をかけている時、「制御の練習が必要ね···」とかぼそりと聞こえたフォレの声は、気のせいにしたかった。
『だからありさのおうちにいくんだよ~』
『おるすばん!おるすばん!』
遠足に行くかのようにはしゃぐ精霊達。私はそんな精霊達とは正反対に、憂鬱だ。
フォレとロランに転移魔法を軽々と断られた私に、うーまは「さぁ乗って!」と言うようにキリッとした顔でスタンバイしていた。その様子から断ることも出来ず、結構乗馬した。しかし、私だってこの世界に来る前の乗馬体験なんて動物園で楽しくポニーに乗ったぐらいしかない。そんな私にうーまのはしゃいだ猛ダッシュなんて耐えきれるわけがないだろう。
だから今は歩いているのだ。やっと山が見えてきたぐらいだが、これでもかなり歩いた。
「ああもう嫌だ!ほんと疲れる!車が欲しい!」
「くるま···?まあよくわからないけど、わがまま言わない!アリサなんて疲れてないでしょ?」
そんなお母さんみたいなことを言うフォレ。なんだか私は恥ずかしくなったが、納得できなくて「だってー」と続ける。
「山、遠くない?フォレだって面倒くさいでしょ?精霊だから馬車みたいな移動手段がない精霊は普段どう移動してるの?」
「はぁ、普段はもっと速く移動できるわよ。アリサのペースに合わせているのよ」
「えぇ···。じゃあなんか魔法とかは?高速移動魔法みたいなのないの?」
「あるわよ」
「あるんだ!?」
ため息をついて冷たい視線を送るフォレ。フォレは周りに冷たい視線を送りすぎだと思う。
「複合魔法みたいなものね。人族の間ではまだ見つかっていないそうよ。ええと···まあいいわ。アリサ命名高速移動魔法」
「えっ」
いつの間にか私が命名したことになってる。ツッコミたいが、まあいいやと軽く考えた。本当に私は面倒くさがりだ。
「···で、その魔法はどうやるの?複合魔法とかいうものだから難しい?」
「まあ、人族にとってはまだ複合魔法まではいかないかもだけど、二種類の魔力を使うから魔力の区別がはっきりしてる私達はそう呼んでるわ。この魔法は、風と光の魔力が必要ね」
久しぶりのフォレ先生が現れたなーなんて思いながらフォレの解説を聞く。フォレの後ろで他の精霊達とわちゃわちゃと遊ぶロランが見えたが、気にしないことにした。
風と光か···あれ?でも···。
「私、光の精霊とかみたことないんだけど」
「···光の精霊は意外と数が少なくて希少なの。たぶんまだアリサも契約してないわよ。まあでも、アリサレベルなら契約しなくても余裕で魔力貰えるでしょ。魔法の仕方なんてイメージよ。イメージ。よく長い詠唱とか唱えるやつがいるけど、一番大切なのはイメージよ」
イメージ。
妙にしっくりくる言葉で、高速移動の魔法を使おうとする。
私は元の世界では普通に足が遅かった。中学生の時の徒競走では周りが足の速い人ばかりで、ほんとにもう···周囲の目とかキツかった。それはともかく、そんな私が徒競走で急に足が速くなったら?あの私より足の速い子も、陸上部のエースも一気に追い越して、周りのクラスメイト、大人、全員がびっくりするぐらいの速さで···!
そんな私の妄想も、今は現実にできる。
一瞬、私の足に風が吸い込まれ、光が溢れ出したような幻覚を見た。
「···え?」
イメージを解いてしまった私は、目の前で私を見つめているフォレや、その後ろでこちらを気にもせず遊んでいるロランと精霊達、心配したようにそばについているうーまがいた。あのイメージから元の光景へと戻ったが、特に体に違和感はない。え、まって、これって失敗?
「成功ね」
私の心の中を読み取ったかのようやタイミングだ。フォレは人の思想を読み取るのが上手い。
でも、どうして?
そんな疑問を再び読み取ったかのように説明を始めるフォレ。
「アリサの体には今、風と光の魔力が多く宿ってるわ。ちょっと歩いてみなさい」
そんなこと言われても。まあフォレが言うならそうなのだと思うけれど、歩いたくらいで足の速さなんてわからない。そう思いながらも、てくてくと、たった十歩くらい歩いたー
ー···つもりだった。
ん?あれ?ちょっと周りの風景変わってる?ていうかフォレ達遠くない?
そう思って、すっとフォレ達の所へ走った···が、またこの違和感だ。
···ちょっとまて。今、私何歩走った?
感覚的に一、二歩軽く踏み込んだだけだったのだ。そう、感覚的に。なのに結構遠くにいたフォレ達がこんなに近くにいる。
「···いや、成功ねとかちょっとカッコつけて言った私も私だけど、ここまでとは思わなかったわ」
フォレがうんうんと唸ると、うーまも何か察したようにそっと顔を俯かせる。いや「ここまでとは思わなかった」ってなんだよ。良いことなの?悪いことなの?
「アリサ、その魔法をうーまにもかけてあげて。ここからは飛ばしていくわよ」
フォレにそう言われ、まだこの魔法のことについて聞きたかった私も渋々言われた通りにした。
うーまに魔法をかけている時、「制御の練習が必要ね···」とかぼそりと聞こえたフォレの声は、気のせいにしたかった。
16
お気に入りに追加
4,215
あなたにおすすめの小説
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
転生したら妖精や精霊を統べる「妖精霊神王」だったが、暇なので幼女になって旅に出ます‼︎
月華
ファンタジー
21歳、普通の会社員として過ごしていた「狐風 空音」(こふう そらね)は、暴走したトラックにひかれそうになっていた子供を庇い死亡した。 次に目を覚ますとものすごい美形の男性がこちらを見、微笑んでいた。「初めまして、空音。 私はギレンフイート。全ての神々の王だ。 君の魂はとても綺麗なんだ。もし…君が良いなら、私の娘として生まれ変わってくれないだろうか?」えっ⁉︎この人の娘⁉︎ なんか楽しそう。優しそうだし…よしっ!「神様が良いなら私を娘として生まれ変わらせてください。」「‼︎! ほんとっ!やった‼︎ ありがとう。これから宜しくね。私の愛娘、ソルフイー。」ソルフィーって何だろう? あれ? なんか眠たくなってきた…? 「安心してお眠り。次に目を覚ますと、もう私の娘だからね。」「は、い…」
数年後…無事に父様(神様)の娘として転生した私。今の名前は「ソルフイー」。家族や他の神々に溺愛されたりして、平和に暮らしてたんだけど…今悩みがあります!それは…暇!暇なの‼︎ 暇すぎて辛い…………………という訳で下界に降りて幼女になって冒険しに行きます‼︎!
これはチートな幼女になったソルフイーが下界で色々とやらかしながらも、周りに溺愛されたりして楽しく歩んでいく物語。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お久しぶりです。月華です。初めての長編となります!誤字があったり色々と間違えたりするかもしれませんがよろしくお願いします。 1週間ずつ更新していけたらなと思っています!
良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました
ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。
そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった……
失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。
その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。
※小説家になろうにも投稿しています。
スキルを極めろ!
アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作
何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める!
神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。
不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。
異世界でジンとして生きていく。
聖女として豊穣スキルが備わっていたけど、伯爵に婚約破棄をされました~公爵様に救済され農地開拓を致します~
安奈
ファンタジー
「豊穣スキル」で農地を豊かにし、新鮮な農作物の収穫を可能にしていたニーア。
彼女は結婚前に、肉体関係を求められた婚約者である伯爵を拒否したという理由で婚約破棄をされてしまう。
豊穣の聖女と呼ばれていた彼女は、平民の出ではあったが領主である伯爵との婚約を誇りに思っていただけに非常に悲しんだ。
だがニーアは、幼馴染であり現在では公爵にまで上り詰めたラインハルトに求婚され、彼と共に広大な農地開拓に勤しむのだった。
婚約破棄をし、自らの領地から事実上の追放をした伯爵は彼女のスキルの恩恵が、今までどれだけの効力を得ていたのか痛感することになるが、全ては後の祭りで……。
異世界を【創造】【召喚】【付与】で無双します。
FREE
ファンタジー
ブラック企業へ就職して5年…今日も疲れ果て眠りにつく。
目が醒めるとそこは見慣れた部屋ではなかった。
ふと頭に直接聞こえる声。それに俺は火事で死んだことを伝えられ、異世界に転生できると言われる。
異世界、それは剣と魔法が存在するファンタジーな世界。
これは主人公、タイムが神様から選んだスキルで異世界を自由に生きる物語。
*リメイク作品です。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる