26 / 40
第27話:思わぬ再会
しおりを挟む
燃えるユニコーンから射出された炎の球体は、真っ直ぐ天音の背中目掛けて飛翔する。
明里はそれを止めようと手を伸ばすが、この距離ではまったく届きそうもない。
今まさに着弾するというその時、明里は恐怖からぎゅっと目を瞑る。
がしかし、明里の耳に聞こえてきた音は、火球の爆発音ではなく、甲高い金属音と氷の割れる音だった。
「どっせーい!」
明里が目を開けた時、そこに居たのは氷桜 蓮華だった。
彼女は氷霜を纏った長剣を振りかぶり、ユニコーンが発射した炎の球体を弾き返していた。
差出人へと返送された火球は、ユニコーンに当たるが、あまりダメージが通っている様子はなかった。
「先輩カッコいいーっ!」
そして、以前蓮華のお迎え(?)をしていた茶髪の女子生徒が、まるでファンクラブかと言いたくなるような黄色い悲鳴を上げた。前は蓮華のことをバカにしていたようにも見えたが、どうやら彼女のファンというか、付き人というか、物好きというか――ともかく、そういう類いの存在だったらしい。
「蓮華……さん?」
それから、後付け感満載の敬称で明里が呟いた。
「蓮華さん!? どうしてここに――それに、あの魔物はいったい?」
いまいち状況を飲み込めていない天音が困惑気味に話しかけるが、蓮華は天音を手で制し、こう言った。
「さぁね、どこからか迷い込んだみたい――でも、詳しい説明は後よ。少し待ってて」
「そういう仕草も素敵です先輩! ――っと、私もやることやらなきゃね!」
すると、隣のメガネを掛けた女子生徒も同じく声を上げ、詠唱を始めた。
「我命ず、彼の者の動きを封じ給え。《バインド》ォ!」
掛け声と共に何か杭のようなものをユニコーンの足元に向けて投げたかと思えば、その杭とユニコーンの足を結ぶように光の輪が生成され、相手の動きを封じた。
バインドの魔術自体、強い拘束力はないため、その場しのぎだが、蓮華にとってはそれで十分なのだろう。
「ナイスアシストよ!」
バインドの呪文を数秒掛けて無理やり振り払ったユニコーンは、蓮華を睨みつけて口の端から炎を覗かせていた。
「先輩! ブレスです! 気をつけてください!」
「了解!」
掛け声を聞くと、蓮華は剣に纏わせた冷気をさらに増幅させ、一度立ち止まって力を込めてから剣を振りかぶった。
その瞬間炎のブレスが発射されるが、蓮華の長剣はまるでそれを切り裂くかのようにしてブレスを霧散させた。
さらに、その中で一歩ずつ前進していたのだ。
「冗談でしょ……?」
天音のもとへ駆け寄った明里が顔を引きつらせる。自分も前衛だからこそ、目の前の状況は信じられなかったのだ。
明里もあのブレス程度ならば避けられるだろうが、霧散させながら突き進む、なんて芸当はできない。無詠唱魔術の使い手だからこそのことだろうが、明里は内心身震いしていた。
「理論上は可能ですが……あれはやはり無詠唱だからこそできることなのでしょう」
天音はそう分析し、驚きながらも関心している様子だった。
「ガラ空きよ!」
ブレスの中ユニコーンの間近へと接近していた蓮華が、相手へ一撃を叩き込み、ユニコーンは大きく後退した。
それから、蓮華は天音の方へ向き直り、こう言った。
「天音……だったかしら? ここは私がどうにかするわ。あなたは私を置いて先へ!」
「! ――ありがとうございます!」
一瞬上の空になるが、すぐに意図を理解し、ハッとして天音は立ち上がった。
しかし。
「きゃー! 別に先に行くかどうかも分からないのにカッコつけるためだけにそう言ってしまう先輩のポンコツなところが好きです!」
「う、うるさいわね! こう言ったらハマりそうな雰囲気だったじゃない! 全部ぶち壊しじゃないの!」
黄色い悲鳴とともに正論をぶちかました女子生徒に、蓮華が顔を赤くしながら文句を言った。
「ごめんなさい!」
表面上謝っているが、彼女はずいぶんと楽しそうにけらけらと笑っていた。
「……何してるのあの二人」
「……さぁ?」
天音と明里は二人して首を傾げていた。
「ともかく! 先に行きたいなら、ここは任せて。別に、一人でもなんとかなるわ」
またユニコーンに向き直り、今度は真剣な声色で彼女は言った。
「――本当にありがとうございます。蓮華さん。またいつか会いましょう」
「ええ、またね」
彼女は顔だけ見せるようにしてふっと微笑んだ。
「きゃ――!」
同時に、枕詞として『黄色い』が付く悲鳴をあげようとした茶髪の女子生徒の口を、《バインド》の無詠唱魔術で塞いだ。
「い、いきましょうか。明里さん」
「う、うん」
そうして彼女たち二人は深層へ向かった。
幾多もの魔物をくぐり抜け、生徒達を無視することに一抹の罪悪感を覚える。
少し走り込んでいき、文化祭のエリアでないところまで出ると、急に魔物の数が少なくなったのが分かる。やはり、何か異常が起きていることは間違いないだろう。
それから、明里が口を開いた。
「結局、蓮華……さんはどうしてあんなとこに居たんだろうね」
「まず年上なんですから敬称はちゃんとしてください」
またもさん付けを忘れかけていた明里に、天音が呆れ顔でツッコんだ。
「いやだってほら……あんまり敬意を抱けないと言うか……ドジっ子というか……」
「気持ちは分か――こほん、彼女が今回の合同文化祭でどこの催し物を担当していたのかは知りませんが、今回はたまたま私達のことを発見した、といったところでしょうね」
何かを言い掛けながらも、蓮華があそこに居た理由について推察する天音。
「あ、うん。なるほどね」
それをスルーしながら、明里は頷いた。
「それにしても、あのボスがあそこに居たことは驚きですが……」
「だねぇ。これもやっぱり、誰かの企みってことなのかな」
どこか現実味がない、と言いたげに明里が呟いた。
「それも、チョークポイントをすべて回れば分かることでしょう」
「ま、それもそっか。スキルは残してるし、前線は任せてね」
チョークポイント、というのはケテルとの情報交換の結果、秋花とその配下が高い確率で訪問するであろうことが分かった場所のことだ。
そこを目指して、二人は下層へと降りていった。
◇
『――ええ、そういうわけで、外には魔物が溢れているようです』
『そりゃまた面倒なことになったな』
通信機越しに、連理の声が天音の頭に響いた。
下層に向かっている道中、例の青い宝石型の通信機を握りながら天音と明里は走っていた。通信機は仄かに光っており、発動していることがわかる。
が、実際に言葉を発してはおらず、思念でのみ会話しているため傍目から通信しているとはあまり想像できないだろう。
『それに、入口も塞がれているみたいですし、ダンガーの発動は避けるべきでしょう。当然、防御能力は依然としてあるのでしばらくは大丈夫でしょうが……』
『そうだな……うし、ステージの混乱が収まったらそっちにも行くか』
『うん。こっちはケテル? さんの言っていた通り、下で秋花先輩と愉快な仲間たちを止めてくるから。大変だろうけどお願いね』
『愉快な仲間たちってな……』
明里の言葉に、零夜が呆れているのが通信越しに感じ取れた。
『それにしても、ケテルという名前はどこかで聞いたことある気がしてならないな……』
それから、どこか不安げな零夜の声が三人の頭に響いた。
『それは……不思議ですね。どこかで彼女と会った――というわけでもないでしょうし』
『やっぱり、ケテルはどこか怪しく思えてしまうな――もともと、掴みどころのない人間だし、警戒は死たほうがいいかもしれない』
『ええ、分かっています。ですが、今は彼女を信用すること以外の選択肢がありませんから』
零夜の言葉にも、天音は毅然とした態度で応対した。
『……まあ、そうだな。そっちも頑張ってくれ――っと、こっちも仕事が来たみたいだ。もう切るぞ』
『了解です。健闘を祈ります』
天音の言葉と同時に通信機は輝きを失った。
それから、二人の目の前には、いつも通りの黒い金属質な素材でできた、巨大な門が見えてきた。
それと同時に、ガシャガシャというエンジン音のようなものが近づいてくる。その音の源は、どうやらその門の中のようだ。
そして、その下には『生徒立入禁止エリア』と書かれた警告色のテープが切られ地面に落ちていた。
「……わぁ、ほんとに誰か入ってるみたい」
彼女の金の瞳が驚きと共に見開かれる。本当に誰かが悪さをしているんだ、という証拠を目の当たりにしたからだろう。
「一番目で当たりですか。幸先が良いですね」
対して、冷静な様子で天音は言った。
「生徒立入禁止エリア……」
それから、明里は床に落ちたテープを見て、不安の混じる小さな声を漏らした。
「魔導監視カメラはありますが、今は緊急事態ですし、入ったとてお咎めもないでしょう……心配ですか?」
「いや、大丈夫だよ。行こう」
明里はかぶりを振って、先程よりも幾分か強い語気でそう言い放つ。
そして、二人はそこに侵入した。
中は巨大な通路で、動いている無数のエンジンのような機械が壁に埋まるような形で存在していた。また、幾本ものパイプが敷設されていた。ところどころガラス張りになっているところから見るに、中身は水のようだ。
どうやら、ガシャガシャという騒がしい機械音はこれが原因だったようだ。
さらに、一番奥には扉があり、天音はそちらへ向かって走り出した。
明里もそれに続く。
「本来、ここには魔物が居るはずです――何度か遺跡全体を探索したときにこの通路を横目から見ましたが、そうでした」
「でも、今は居ない――ってことは、やっぱり誰かが倒したんだ」
「ええ。直近でここに潜った人は居ないでしょうし、十中八九秋花先輩かその仲間が居るはずです」
そうこうしているうちに、扉の前に辿り着いた。
「――私が蹴破って突入するから、天音ちゃんは変なヤツが居たら捕獲して」
「分かりました。前は頼みましたよ」
天音の返事を確認すると、明里はこくりと頷いた。
「三、二、一――」
明里はそれを止めようと手を伸ばすが、この距離ではまったく届きそうもない。
今まさに着弾するというその時、明里は恐怖からぎゅっと目を瞑る。
がしかし、明里の耳に聞こえてきた音は、火球の爆発音ではなく、甲高い金属音と氷の割れる音だった。
「どっせーい!」
明里が目を開けた時、そこに居たのは氷桜 蓮華だった。
彼女は氷霜を纏った長剣を振りかぶり、ユニコーンが発射した炎の球体を弾き返していた。
差出人へと返送された火球は、ユニコーンに当たるが、あまりダメージが通っている様子はなかった。
「先輩カッコいいーっ!」
そして、以前蓮華のお迎え(?)をしていた茶髪の女子生徒が、まるでファンクラブかと言いたくなるような黄色い悲鳴を上げた。前は蓮華のことをバカにしていたようにも見えたが、どうやら彼女のファンというか、付き人というか、物好きというか――ともかく、そういう類いの存在だったらしい。
「蓮華……さん?」
それから、後付け感満載の敬称で明里が呟いた。
「蓮華さん!? どうしてここに――それに、あの魔物はいったい?」
いまいち状況を飲み込めていない天音が困惑気味に話しかけるが、蓮華は天音を手で制し、こう言った。
「さぁね、どこからか迷い込んだみたい――でも、詳しい説明は後よ。少し待ってて」
「そういう仕草も素敵です先輩! ――っと、私もやることやらなきゃね!」
すると、隣のメガネを掛けた女子生徒も同じく声を上げ、詠唱を始めた。
「我命ず、彼の者の動きを封じ給え。《バインド》ォ!」
掛け声と共に何か杭のようなものをユニコーンの足元に向けて投げたかと思えば、その杭とユニコーンの足を結ぶように光の輪が生成され、相手の動きを封じた。
バインドの魔術自体、強い拘束力はないため、その場しのぎだが、蓮華にとってはそれで十分なのだろう。
「ナイスアシストよ!」
バインドの呪文を数秒掛けて無理やり振り払ったユニコーンは、蓮華を睨みつけて口の端から炎を覗かせていた。
「先輩! ブレスです! 気をつけてください!」
「了解!」
掛け声を聞くと、蓮華は剣に纏わせた冷気をさらに増幅させ、一度立ち止まって力を込めてから剣を振りかぶった。
その瞬間炎のブレスが発射されるが、蓮華の長剣はまるでそれを切り裂くかのようにしてブレスを霧散させた。
さらに、その中で一歩ずつ前進していたのだ。
「冗談でしょ……?」
天音のもとへ駆け寄った明里が顔を引きつらせる。自分も前衛だからこそ、目の前の状況は信じられなかったのだ。
明里もあのブレス程度ならば避けられるだろうが、霧散させながら突き進む、なんて芸当はできない。無詠唱魔術の使い手だからこそのことだろうが、明里は内心身震いしていた。
「理論上は可能ですが……あれはやはり無詠唱だからこそできることなのでしょう」
天音はそう分析し、驚きながらも関心している様子だった。
「ガラ空きよ!」
ブレスの中ユニコーンの間近へと接近していた蓮華が、相手へ一撃を叩き込み、ユニコーンは大きく後退した。
それから、蓮華は天音の方へ向き直り、こう言った。
「天音……だったかしら? ここは私がどうにかするわ。あなたは私を置いて先へ!」
「! ――ありがとうございます!」
一瞬上の空になるが、すぐに意図を理解し、ハッとして天音は立ち上がった。
しかし。
「きゃー! 別に先に行くかどうかも分からないのにカッコつけるためだけにそう言ってしまう先輩のポンコツなところが好きです!」
「う、うるさいわね! こう言ったらハマりそうな雰囲気だったじゃない! 全部ぶち壊しじゃないの!」
黄色い悲鳴とともに正論をぶちかました女子生徒に、蓮華が顔を赤くしながら文句を言った。
「ごめんなさい!」
表面上謝っているが、彼女はずいぶんと楽しそうにけらけらと笑っていた。
「……何してるのあの二人」
「……さぁ?」
天音と明里は二人して首を傾げていた。
「ともかく! 先に行きたいなら、ここは任せて。別に、一人でもなんとかなるわ」
またユニコーンに向き直り、今度は真剣な声色で彼女は言った。
「――本当にありがとうございます。蓮華さん。またいつか会いましょう」
「ええ、またね」
彼女は顔だけ見せるようにしてふっと微笑んだ。
「きゃ――!」
同時に、枕詞として『黄色い』が付く悲鳴をあげようとした茶髪の女子生徒の口を、《バインド》の無詠唱魔術で塞いだ。
「い、いきましょうか。明里さん」
「う、うん」
そうして彼女たち二人は深層へ向かった。
幾多もの魔物をくぐり抜け、生徒達を無視することに一抹の罪悪感を覚える。
少し走り込んでいき、文化祭のエリアでないところまで出ると、急に魔物の数が少なくなったのが分かる。やはり、何か異常が起きていることは間違いないだろう。
それから、明里が口を開いた。
「結局、蓮華……さんはどうしてあんなとこに居たんだろうね」
「まず年上なんですから敬称はちゃんとしてください」
またもさん付けを忘れかけていた明里に、天音が呆れ顔でツッコんだ。
「いやだってほら……あんまり敬意を抱けないと言うか……ドジっ子というか……」
「気持ちは分か――こほん、彼女が今回の合同文化祭でどこの催し物を担当していたのかは知りませんが、今回はたまたま私達のことを発見した、といったところでしょうね」
何かを言い掛けながらも、蓮華があそこに居た理由について推察する天音。
「あ、うん。なるほどね」
それをスルーしながら、明里は頷いた。
「それにしても、あのボスがあそこに居たことは驚きですが……」
「だねぇ。これもやっぱり、誰かの企みってことなのかな」
どこか現実味がない、と言いたげに明里が呟いた。
「それも、チョークポイントをすべて回れば分かることでしょう」
「ま、それもそっか。スキルは残してるし、前線は任せてね」
チョークポイント、というのはケテルとの情報交換の結果、秋花とその配下が高い確率で訪問するであろうことが分かった場所のことだ。
そこを目指して、二人は下層へと降りていった。
◇
『――ええ、そういうわけで、外には魔物が溢れているようです』
『そりゃまた面倒なことになったな』
通信機越しに、連理の声が天音の頭に響いた。
下層に向かっている道中、例の青い宝石型の通信機を握りながら天音と明里は走っていた。通信機は仄かに光っており、発動していることがわかる。
が、実際に言葉を発してはおらず、思念でのみ会話しているため傍目から通信しているとはあまり想像できないだろう。
『それに、入口も塞がれているみたいですし、ダンガーの発動は避けるべきでしょう。当然、防御能力は依然としてあるのでしばらくは大丈夫でしょうが……』
『そうだな……うし、ステージの混乱が収まったらそっちにも行くか』
『うん。こっちはケテル? さんの言っていた通り、下で秋花先輩と愉快な仲間たちを止めてくるから。大変だろうけどお願いね』
『愉快な仲間たちってな……』
明里の言葉に、零夜が呆れているのが通信越しに感じ取れた。
『それにしても、ケテルという名前はどこかで聞いたことある気がしてならないな……』
それから、どこか不安げな零夜の声が三人の頭に響いた。
『それは……不思議ですね。どこかで彼女と会った――というわけでもないでしょうし』
『やっぱり、ケテルはどこか怪しく思えてしまうな――もともと、掴みどころのない人間だし、警戒は死たほうがいいかもしれない』
『ええ、分かっています。ですが、今は彼女を信用すること以外の選択肢がありませんから』
零夜の言葉にも、天音は毅然とした態度で応対した。
『……まあ、そうだな。そっちも頑張ってくれ――っと、こっちも仕事が来たみたいだ。もう切るぞ』
『了解です。健闘を祈ります』
天音の言葉と同時に通信機は輝きを失った。
それから、二人の目の前には、いつも通りの黒い金属質な素材でできた、巨大な門が見えてきた。
それと同時に、ガシャガシャというエンジン音のようなものが近づいてくる。その音の源は、どうやらその門の中のようだ。
そして、その下には『生徒立入禁止エリア』と書かれた警告色のテープが切られ地面に落ちていた。
「……わぁ、ほんとに誰か入ってるみたい」
彼女の金の瞳が驚きと共に見開かれる。本当に誰かが悪さをしているんだ、という証拠を目の当たりにしたからだろう。
「一番目で当たりですか。幸先が良いですね」
対して、冷静な様子で天音は言った。
「生徒立入禁止エリア……」
それから、明里は床に落ちたテープを見て、不安の混じる小さな声を漏らした。
「魔導監視カメラはありますが、今は緊急事態ですし、入ったとてお咎めもないでしょう……心配ですか?」
「いや、大丈夫だよ。行こう」
明里はかぶりを振って、先程よりも幾分か強い語気でそう言い放つ。
そして、二人はそこに侵入した。
中は巨大な通路で、動いている無数のエンジンのような機械が壁に埋まるような形で存在していた。また、幾本ものパイプが敷設されていた。ところどころガラス張りになっているところから見るに、中身は水のようだ。
どうやら、ガシャガシャという騒がしい機械音はこれが原因だったようだ。
さらに、一番奥には扉があり、天音はそちらへ向かって走り出した。
明里もそれに続く。
「本来、ここには魔物が居るはずです――何度か遺跡全体を探索したときにこの通路を横目から見ましたが、そうでした」
「でも、今は居ない――ってことは、やっぱり誰かが倒したんだ」
「ええ。直近でここに潜った人は居ないでしょうし、十中八九秋花先輩かその仲間が居るはずです」
そうこうしているうちに、扉の前に辿り着いた。
「――私が蹴破って突入するから、天音ちゃんは変なヤツが居たら捕獲して」
「分かりました。前は頼みましたよ」
天音の返事を確認すると、明里はこくりと頷いた。
「三、二、一――」
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった
椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。
底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。
ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。
だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。
翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

チートを貰えなかった落第勇者の帰還〜俺だけ能力引き継いで現代最強〜
あおぞら
ファンタジー
主人公小野隼人は、高校一年の夏に同じクラスの人と異世界に勇者として召喚される。
勇者は召喚の際にチートな能力を貰えるはずが、隼人は、【身体強化】と【感知】と言うありふれた能力しか貰えなかったが、しぶとく生き残り、10年目にして遂に帰還。
しかし帰還すると1ヶ月しか経っていなかった。
更に他のクラスメイトは異世界の出来事など覚えていない。
自分しか能力を持っていないことに気付いた隼人は、この力は隠して生きていくことを誓うが、いつの間にかこの世界の裏側に巻き込まれていく。
これは異世界で落ちこぼれ勇者だった隼人が、元の世界の引き継いだ能力を使って降り掛かる厄介ごとを払い除ける物語。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ニトナラ《ニート、奈落に挑む》
teikao
ファンタジー
冒険者達が集まる街、サンライズシティ。その近くにある巨大なダンジョンに冒険者は挑んでいく。
一説では「あの世」と言われ、全てを吸い込むはずのブラックホールから放たれた「人間の負の感情」が、地球に落下し誕生した大穴…通称【奈落】
そこにあるのは、
人智を遥かに超える秘宝
全てを断ち切るほどの武器
どんな病さえ治す秘薬
そして、
冒険者達を阻む数多のモンスター
負の感情の化身である【奈落六大将】
人々は命すら賭けて、それぞれの夢を追いかけて奈落に挑む。
私、作者のteikaoがカクヨムで執筆していた「ニート、奈落を旅して生計を立てる」の設定・ストーリーを再編した完全版になります。手に取っていただけたら幸いです。
よろしくお願いしますm(_ _)m
AI artが好きなのでたくさん載せて行きます!また、BlueskyでもAIイラストを載せて行きます。そちらもアカウント名はteikaoですので、興味のある方は是非ご覧ください(^^)

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる