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第21話:連理はどうして

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 ◇

 落ち着いた夕暮れ時の平日。
 とあるダンジョン探索用品店にて。

「あ」
「え」

 零夜と連理は偶然の出会いを果たしていた。

「なんだ、零夜もここ来てたのか」
「ああ、色々必要になったからな」

 零夜は並んだ魔道具を見ながら、どこか疲れたような様子でふぅと息を吐いた。

「あの計画のヤツか?」

 話し合いで必要になりそうな物資はリストアップできていた。そのため、それぞれで物資を購入、あるいはダンジョンで入手することになっていたのだ。資金面の問題については、天音が解決しているらしい。
 自費での出費や、四人のダンジョン探索資金からの差し引きなど……かなりうまく回しているらしい。

「それもあるが、自分用にも少しな。複数人戦闘でのアイテムの使い道が分からなくて今まで使っていなかったが、今回は色々考えてきたからな」
「ああ、腰に入ってたのに全然使わなかったのってそれだったのか……」

 その言葉に、連理は零夜がいつも装備している魔石やら投げナイフやらを思い出しながら言った。

「う、うるさいな。大人数居ると使い方がわからなくなるんだよ……」

 零夜は少し耳を赤くしながら目を逸らした。

 ふと、零夜は店内にあまり人が居ないことに気がついた。夕方とはいえ、まだ社会人の帰宅には早い時間帯だし、人も居ないようだ。
 そこで、零夜は今まで気になっていたことを一つ質問することにした。

「……なあ、なんで連理は配信ってのをしてるんだ?」
「どうした、急に」
「いつも随分楽しそうにしてるのが気になったんだ。俺は、人に見られるのはそこまで好きじゃないから」

 どこかいたたまれないような様子で、零夜は手元の魔道具に視線を落とした。

「んー、そうだな……答えとしては、自分の力で人が楽しんでいるのを見るのが好きとか、視聴者と楽しさを共有するのが好きとか、そうなってくるかな」
「言ってることが完全に陽キャのそれだな。相変わらず凄いな」

 彼はどこか冗談っぽく苦笑した。

「陽キャってな――あ、でも邪? な理由もあるぞ。視聴者数とかの数値増減を見るのが楽しいんだ。そのために工夫したりな。だから、そのために常にネタ探しもしてんだ」
「もしかして、この状況も本当に配信のネタになるとか考えてるのか?」

 零夜は面白そうに笑いながら聞いた。

「半分くらいはな。インパクトはあるだろ? それに、こうやってたほうが楽しい」

 くすりと笑って連理もそう返す。
 それに対し、零夜も微笑を浮かべた。

 それから一つ、またずっと疑問に思っていたことを零夜は訊いた。

「……連理はどうして、そんなに楽しそうにできているんだ?」
「うーん、なんでだろうな? 俺の感覚としては……絶対に物事がよく終わると信じ切ってるって感じかな。全力を尽くしてるんだから、悪くなるわけがない、みたいな感覚」
「そりゃ凄いな」

 零夜は目を見開いた。

「やっぱりさ、人生って楽しくあるべきだと思うんだよ。だから、『楽しい』を広めたくて全力で配信してるってとこもあるのかもな」
「……なるほどなぁ」

 どこか遠くを見るような目で零夜は言った。

「なんていうか……考えすぎて自分が潰れんようにな。天音さんだって、似たような感じだったし」

 その様子を見て少し不安に思ったのか、連理がねぎらいの声を掛ける。

「天音さんが? 確かに想像はできるが……」

 驚きながらも、納得したように頷く零夜。

「おうよ。だからなんつーか、気をつけてくれよ。それも難しいのかもしれんが」

 困ったように頭を掻きながら連理は言った。

「そうだな――確かに、何を言われても凄く不安なのは変わらない。でも、結局自分にやれることを全力でやるしかないってのは、分かってるから。俺は大丈夫だ」

 不安をかき消すためか、零夜は手元にある魔道具を弄くっていた。

「良いこと言うじゃねぇか。それに、俺も居るんだから安心しなっ」

 少しおどけて、連理はニッと笑う。
 そして、零夜に向けてグータッチを求めるように拳を突き出した。

「――ふっ、随分心強い味方だな」

 零夜は一瞬驚いた後、控えめにその拳に自身の拳を合わせた。

「そういえば、明日はどこかのダンジョンを攻略予定だっただろう? そこのボスドロップの魔道具が必要だとかで」

 それから、零夜は気を取り直して当初の目的を達成することにした。

「そういやそだな」

 どうやら、天音は既にスケジュールを組んでいたようだ。

「ちょっとそれ用の魔道具買うのにも付き合ってくれよ。戦略練るのに複数人居ると楽なんだ」
「そういうことか。確かに悪くないな」

 連理は軽く笑った。

 ◇

 翌日のダンジョン探索日当日のこと。四人は集合して、あるダンジョンを探索していた。
 四人は危なげなく下層へと向かい、ついにボスの部屋へと到達した――

 そのボス部屋に、ペタペタというどこか冷たく感じる動物の足音が響く。

 辺りには鼻を突き抜けるような、どこか冬を感じさせる清涼な香りが薄く漂っていた。 

 それから、その足音が四つほど鳴った後、カランという金属質な何かが転がるような音が聞こえた。
 刹那の後に、爆発。

 赤い閃光が地面を抉り、爆音とともに大きな風が巻き起こった。

「散!」

 それから、連理の号令が響いた。

『綺麗な連携、やはり貴様ら只者ではないな?』

 ちなみに、この探索もバッチリ配信中だ。

 そして、まず連理と天音はボスが見える位置まで移動した。

 爆煙を避け、ボスの姿が浮かび上がった。
 全体のシルエットは、人二人ほどの大きさを持つ巨大な狼だった。雪のような白の毛皮に、血塗られたようにも見える赤いメッシュの入った毛束をその胴体に持っていた。口にはサーベルタイガーのような大きな牙が生えており、額には青色の宝石のようなものが埋め込まれていた。

 そして、ボスには名前が付けられていることがしばしばあるのだが、あの狼には『フロストフェンリル』という名が付けられている。

「これでも喰らえい!」

 連理が叫ぶと、緑青色の拳銃――アークキャスターから電撃が放たれた。
 フロストフェンリルは、飛来した電撃の存在を音で感知したのか、すんでのところで回避する。

「マジ……?」

 連理が驚愕の声を漏らしている間に、フロストフェンリルは氷魔術を用意していた。氷柱がフロストフェンリルの顔の周囲に浮かび、その後に射出される。

「魔術も撃てんのかよ! ――どわあっ!」

 連理はそれを飛んで回避する。

「だから先に攻略見ておけって言ったじゃないですか!」

 天音が叫んだ。

「初見バトルのほうが楽しいだろ! あと配信えする! ココ重要!」

 どこからか天音のため息が聞こえたような気がした。

『配信者の鏡で草』
『実際初見の方が楽しいからしょうがない』

 次の瞬間、横から何かが投擲されたかと思えば、狼の体に一瞬にして火の手が上がった。

「ギャン!」

 鳴き声がすると、一気に霜が吹き出し、その火は無理やり消された。

「体制を立て直せ! 予定通りいくぞ!」

 零夜の号令が聞こえた。

「了解!」

 連理が威勢よく返事をした。
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