ダンジョン配信で始まる学園生活!【完結!】

空宮海苔

文字の大きさ
上 下
8 / 40

第8話:イベント準備と変な話

しおりを挟む
 あるビルの一階――探索者補助センターに連理は一人で来ていた。
 他のメンバーとは既に解散している。報酬については連理が貰い、後で山分けということになった。
 横領もできるが……まあ、その時は天音からの鉄槌が下ることだろう。

 そして、連理はその窓口に最後となるあのアーティファクト――が入ったアタッシュケースを提出していた。青色の線と、軽い装飾の入ったSFチックな箱だった。

 さらに、中に入っているものが近くのディスプレイに表示されている。あの小さな鍵と、連理の装備一式だ。

「未発見のアーティファクトですかぁ。まあいいんじゃないっすかねぇ?」

 どことなくやる気のなさそうな受付の女性の声が返ってきた。

「え? 検査とかないんですか?」

 多くの場合、アーティファクトの類は基本的に一度検査に送られる。そして、問題がなければそのまま発見者に返却される。
 例えば、一見しただけでは能力の見当がつかないアーティファクトなどが該当する。

 とはいえ、そもそもが武器の類は彼が提出したような箱に入れられることになる。ダンジョン内でしか開けない箱だ。
 だから、市街でも基本的には安全性が保たれている。

「別にお客様のスキルで鍵って表示されたわけですし、大丈夫っすよ。それに、この形状で武器だったらビックリじゃないすか? だから持ち帰っていいっすよ」
「は、はぁ、そうですか」

 連理はどこか納得がいかなさそうな様子だった。
 しかし、相手の言っている事も一理ある。確かに危険物には思えないからだ。

(……まあ、持ち帰れるのならそれでいいか)

 疑問に思いながらも、帰ることにした。

 ◇

 スレッドタイトル:高校生パーティー、新エリア見つける

▼0001 今日のラベンダー 203X/3/44(木) 14:~~:~~.~~   ID:~~~
https://www.~~~.com/watch?v=~~~
なんやこのエリア
多分主のスキルのお陰で見つかったんだろうけど
物資復活したりするんやろか…

▼0002 名無しの探索者 203X/3/44(木) 14:~~:~~.~~   ID:~~~
新エリアか。そこは結構探索し尽くされてた気がするが…
郷迷市のヤツだよな?

▼0003 今日のラベンダー 203X/3/44(木) 14:~~:~~.~~   ID:~~~
>>2
せやで

▼0004 名無しの探索者 203X/3/44(木) 14:~~:~~.~~   ID:~~~
なる
近いから今度行ってみようかな
俺も入れるんだろうか

▼0005 名無しの探索者 203X/3/44(木) 14:~~:~~.~~   ID:~~~
>>4
頼んだぞ!

まあ言うて配信主がもっかい行くだろうけど

▼0006 今日のラベンダー 203X/3/44(木) 14:~~:~~.~~   ID:~~~
ワロタ

▼0007 名無しの探索者 203X/3/44(木) 14:~~:~~.~~   ID:~~~
>>1
というか、この鍵もなんだ
意味不すぎないか

▼0008 名無しの探索者 203X/3/44(木) 14:~~:~~.~~   ID:~~~
>>7
マジでそれな
とりあえず動向に期待やな
チャンネル登録もしといてやろう

 ◇

「さてさて、鳥里高校の人が三日後ウチに来るワケだ。さりとて全校生徒で来るわけでもない上、放課後だから全校生徒で迎えるわけでもないけど――多少のおもてなしはしないとだよね」

 秋花しゅうかは部室でいたずらっぽく笑った。

「じゃあ、具体的には何するんスカ?」

 一人の生徒が訊いた。

「このイベントの最後にはウチの地下ダンジョン――青幻せいげん遺跡ダンジョンを一回探索してもらう。まあ最後のイベントのときにも使うし、雰囲気掴んでもらいたいからね」
「へぇ、分かりました」

 連理がどこか気の抜けた返事をする。

「んで、連理くんにはその様子を配信もしてもらおうか。広報ってことだよ」
「え? ああ、確かにタイミングはいいですね……やりましょうか!」

 連理は一瞬驚くが、すぐに笑顔でそう返した。
 思えば、今までそこでの配信は行っていなかった。だからいいタイミングということだ。

「返事よし。んで、今回ウチの部活でやるのはそのための整備だね。それと、向こうと合同での最終イベントへの準備。今日はそれらの計画練りってとこ」
「なるほど、了解っす」
「とはいえ、順序的にはイベント準備からのダンジョン探索になるかな。それらが一日で終わる予定――のはずだね」

 秋花は手元の資料を見ながら言う。

「でも、準備期間が三日で、当日は一日だけって短くないですか?」

 他の生徒が質問する。

「まあねー。だから、そんな難しく考えなくていいよ。パッパと軽くやるだけだからさ」
「そうなんですね……分かりました」
「さて、じゃあ始めようか」

 全員で計画を練り始めた。

 ◇

 それから、翌日。計画を行動に移していた。

 青幻せいげん遺跡ダンジョンの入り口。そこはダンジョン探索部の生徒で賑わっていた。
 そして、そこには駅の改札に似た入り口が設置されていた。しかし改札よりは厳重で、横や上からは通れないよう壁が建てられていた。
 そこでは、ダンガーと探索資格を所持しているか、また武器防具が専用のケースに入っているかが確認される。整備されたダンジョンならほとんどの場合存在する物だ。

「じゃあそれはそこに置いてください」

 そんな中、天音はリーダーとして指示を出す立場に居た。クリップボードを手に持っており、まさに仕事人といった言葉が似合う姿だった。
 一方、連理は雑用係として入り口の辺りに装飾を付ける作業をしていた。

「ムムム……これ解けるぞぉ? 早くついてくれ……」

 なんてうなりながらも作業を行っていた。

翼野つばさのさん。この魔導具ってどこに置けば良いんですかね? イマイチ動かなくて……」

 一人の生徒が真ん中がガラス張りで内部に液体が入った柱状の魔導具を持っていた。
 それは魔術で動くシロモノだが、ただの装飾だ。起動すると幻想的な光を放つ。
 本来魔導具の類はダンジョンとその近辺でしか動かないため作られづらい。
 だが、ダンジョンに潜ってある程度の魔力を持った人間なら使えるし、ダンジョン内部での装飾にも使われたりする。だから一定量流通しているのだ。
 それに、ダンジョンの中に都市があるような場所では特に使われる。

「ああ、それは……そうですね、向こうの端っこに置いてください。それから、下にあるボ
タンを押して、上のフィルターを開けると起動しやすいですよ」

 魔術駆動のアイテムは総じて動作が不安定な傾向にある。周囲の魔力量に動作が左右されるからだ。

「分かりました。ありがとうございます」
「天音ちゃーん。こっちの装飾はやたら沢山あるよね? だからちょっと壁に貼り付けてもいいかなとか思ったんだけど……どう?」
「あー……どうでしょう。確かにいいかもしれませんね。一回やってみてください。それから様子を見ます」
「りょうかーい。ありがとねー」
「いえ、私もリーダーですからね」

 天音は優しく笑う。

 それから、一人の男子生徒が寄ってきた。

「なー、これって意味あんのかー? 一日くらいしか使わないんだよな?」
「この装飾は後々も使えます。特に最終イベント――ダンジョン内部での舞台と、探索ですね。ダンジョンが装飾されていればそれだけ印象もよくなります。これは最後まで残すんですよ」

 聞き方というものがあるだろう、と内心思いながら天音は答える。

「ふーん……そっかぁ」

 納得したような、納得していないようなよくわからない声を上げる男子生徒。
 天音はどこか冷めた目線で見送った。

「ふいー。終わった終わった。それにしても、天音さんも大変そうだねぇ。いつもリーダー的な役回りとかやってるし。お疲れ様ー」

 それから、寄ってきた連理がねぎらいの言葉を掛ける。
 それに対し、天音は信じられない、とでも言いたげな顔をした。

「……なんだい、その顔は」
「いえ。そういったことを言ってくださる人だとは思っていなかったので。でも、ありがとうございます」

 天音は少し安心したような笑みを浮かべる。

「なんてこというんだ君は。俺は人に感謝を忘れない人間だぞ。人に楽しんでもらえないと、自分も楽しめないからな」
「……まあ、そうかもしれませんね」

 天音はその言葉に少し神妙な表情をした。

「あー、その、俺結構適当なこと言うからあんまり真面目に受け取らないほうがいいぞ?」

 連理は頭を掻きながら苦笑する。

「自覚、あったんですね」

 天音はそんな彼を半目で睨む。

「はっはっは、その通り。まあでも、あんまり気負いすぎるなよー。楽しくやるのが一番! 俺は楽しむために全霊注いで生きてるからなぁ!」
「でも、私は仕事がありますから」
「……ま、それもそうか。んじゃ、次の仕事なんだ?」

 一瞬考え込んでから、連理は訊いた。

「そうですね――こっちの箱を向こうの人たちに運んであげてください。それから、ここにある小さな結晶をダンジョン内の魔導具に嵌めてください」
「了解! それじゃあ行ってくるぜ~」

 連理は鼻歌を歌いながら箱を持っていった。

 ◇

「それじゃあ、お疲れ様でしたー」
「はい、お疲れ様です」
「ういー、みんなおつかれーい。じゃあまた明日ねー」

 ダンジョン探索部は解散していた。
 ワイワイと賑わいながら、多くの生徒たちが荷物を持って帰っていく。

 そんな中、秋花と天音はそこに残っていた。

「ちょいちょい」

 秋花は天音の肩をトントンと叩いた。

「? どうしましたか?」
「ちょっと、話があってさ」

 少しだけ真剣な表情で、秋花は言う。

「分かりました。どんな話なんですか?」
「それがね――」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。 底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。 ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。 だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。 翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

チートを貰えなかった落第勇者の帰還〜俺だけ能力引き継いで現代最強〜

あおぞら
ファンタジー
 主人公小野隼人は、高校一年の夏に同じクラスの人と異世界に勇者として召喚される。  勇者は召喚の際にチートな能力を貰えるはずが、隼人は、【身体強化】と【感知】と言うありふれた能力しか貰えなかったが、しぶとく生き残り、10年目にして遂に帰還。  しかし帰還すると1ヶ月しか経っていなかった。  更に他のクラスメイトは異世界の出来事など覚えていない。  自分しか能力を持っていないことに気付いた隼人は、この力は隠して生きていくことを誓うが、いつの間にかこの世界の裏側に巻き込まれていく。 これは異世界で落ちこぼれ勇者だった隼人が、元の世界の引き継いだ能力を使って降り掛かる厄介ごとを払い除ける物語。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ニトナラ《ニート、奈落に挑む》

teikao
ファンタジー
 冒険者達が集まる街、サンライズシティ。その近くにある巨大なダンジョンに冒険者は挑んでいく。  一説では「あの世」と言われ、全てを吸い込むはずのブラックホールから放たれた「人間の負の感情」が、地球に落下し誕生した大穴…通称【奈落】 そこにあるのは、 人智を遥かに超える秘宝 全てを断ち切るほどの武器 どんな病さえ治す秘薬 そして、 冒険者達を阻む数多のモンスター 負の感情の化身である【奈落六大将】 人々は命すら賭けて、それぞれの夢を追いかけて奈落に挑む。  私、作者のteikaoがカクヨムで執筆していた「ニート、奈落を旅して生計を立てる」の設定・ストーリーを再編した完全版になります。手に取っていただけたら幸いです。 よろしくお願いしますm(_ _)m AI artが好きなのでたくさん載せて行きます!また、BlueskyでもAIイラストを載せて行きます。そちらもアカウント名はteikaoですので、興味のある方は是非ご覧ください(^^)

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...