意味が分かると怖い話（自作）

女性の一人暮らし

腕時計の針を見る。

短針が12の数字を少し跨いだあたりだ。

いつものように鍵を開けいつものように部屋へ入る。

靴を玄関に揃えて置いた。

台所で手を洗い、手で水を受け止めうがいをする。

袖で顔を拭きながらリビングまで行き違和感を覚えた。

……部屋に入ったときの印象が、いつもと何か違う。

別段変わっているわけではないが、なんとなく違ったのだ。

「あっ！」

思わず声が漏れてしまった。

いつも寝転がっているベットも、今日は妙に整っているような気がする。

洗濯物も干しっぱなしだが、下着が少なくなっている気がする。

いつもテーブルの上に置きっぱなしのカップが洗われている。

洗面所の歯ブラシも、同じ製品だが新しいモノになっている。

「こんなに硬くなかった……」

何かがおかしい。

そう思って、部屋の中を入念に調べだした。

すると、部屋のいたるところに隠しカメラが設置されていたのだ。

血の気が引いていく音を聞いたような気がした。

そんなに大きな部屋ではなかったことが幸いであったが、合計で6台ものカメラが隠されていた。

慌てて玄関まで走って行った。

覗き穴から部屋の外を見るが、誰もいない。

鍵はかけてある。

ここは4階だが、ベランダの鍵も確認する。

「落ち着け、とりあえず落ち着け」

自分に言い聞かせるよう声に出す。

心臓は胸を強く叩いている。

「警察に……」と、一瞬よぎったが、早く部屋を出なければと考えなおした。

電気を消して、静かに外に行く準備をする。

外には人の気配はない。

静かに扉を開け、周りの様子をうかがった。

外に出てゆっくり扉を閉め鍵をかける。

非常階段を一段飛びで駆け下りていく。

通りに出て人の姿を認めると、何事もなかったように普通に歩き出した。

背負ったリュックの中に部屋で見つけたカメラがぶつかり合って音をたてている

「もう、あの部屋には戻れないか……」

友人の家に泊めてもらうべく、電車に乗り込み都内を目指した。