意味が分かると怖い話（自作）

結婚式

「お父さん、お父さん起きてください」

イスに座ったまま寝てしまっていたようだ。

ハッとして時計を見ると、もう式が始まる３０分前だった。

「もう、お父さんタキシードにしわができるじゃないですか」

私は、ルームミラーで全身をくまなくチェックする。

とりあえずしわにはなっておらず、ホッと胸をなでおろした。

娘の晴れ舞台で恥をかかせるところだった。

私は寂しくなった頭を叩き、反省をする。

ガラにもなく緊張しているようで、昨晩よく寝ることができなかった。

ここにきて居眠りとは、歳のせいかもしれない……

娘をエスコートするという私の大役は無事終了し、最後には娘からの手紙を聞くことができた。

遅くに生まれた一人娘なだけに、何よりも可愛く、そして自慢である。

「最高の父です。仕事が忙しいのに遊んでくれたこと。授業参観に必ず来てくれたこと。高校にあがってお弁当が必要で毎朝作ってくれてたこと」

いろいろな思い出が、泡のように浮かんでははじけ、私の胸を締め付ける。

強い父でありたかったが、娘の声を聞くと全身が小刻みに震え視界がゆがむ。

やはり歳のせいだろう。

定年を迎える私のこれからの楽しみは、初孫かな。

娘の晴れ姿、本当に綺麗だった。

ハンカチで目頭を押さえながら「お前にも見せたかった」と、ひとりごちる。