意味が分かると怖い話（自作）

自殺願望

死にたい死にたい死にたい死にたい……

仕事に追われ、何も考えられず帰ってきては気絶するように寝て、気が付けば朝。

何が目的で、何のために生きているのか分からない。

一人になると、幻覚が見える。

そこにいるはずのない、上司が怒鳴り散らしている。

止めてくれ……

仕事が一段落し椅子に座りボーっとしていると、いつのまにか夕方になっていた。

記憶がない。

夕日を見るため、ベランダに続く窓を開けた。

外を見下ろすと、豆粒くらいの人や車が通りを走っている。

「俺、なんで生きてんだろ」

しばらく考えてみたが、分かるわけもなく、手すりに手を掛けた。

「おい」

横からふいに声がぶつけられた。

気が付くとすでに周りは真っ暗に……

部屋の明かりも点けず、隣人と思われる人が、ベランダでタバコを吸っていた。

吸うタイミングに合わせ、タバコの火が少しだけ隣人の顔を赤く染める。

「あんたずっとそこにいるつもり？」

「あ、いえ……、ちょっとボーっとしてました」

とてつもなく恥ずかしく感じた。

「あんたいくつだ？」

「25歳になります」

「ははっ」

お隣さんは鼻で笑って、タバコをベランダに捨て足で踏み消した。

辺りは闇に包まれる。

「俺も若いころ、上手くいかなくて死のうと思った。でも生きていかなきゃ上手くなんてならない」

そんなこと分かっているけど、上手くいかない。

「あんた、今日死んだと思って、明日から生まれ変わってみたらどうだ？」

冗談のように言っていたが、少し気が楽になっていた。

……翌朝扉を叩く音で目が覚めた。

扉を開けると二人組の警官が、隣の部屋の住人について質問してきた。

昨夜ベランダで少しだけ話したことを伝えると、二人は首を傾げながら、個人的な付き合いがあるのかと聞いてきた。

昨晩話したのが初めてだったことを伝えると、警察は名刺を渡し帰っていった。

俺から連絡することはないだろうと、名刺を握りつぶし仕事道具をまとめて部屋を後にした。

一日で２件も仕事をするとは思ってもみなかったが、気持ちは晴れ渡っていた。