弱小スキル「自動マッピング」が実は偽装されてました? 〜気弱なのに、(ほぼ)強制的に神殺しをさせられそうな件〜

苺 あんこ

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-はじまりの陰謀-編

アイテムボックスが欲しい:後編

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「お待たせしました!」

 約束の5分前に来るところが、彼女の真面目さを物語っている。

 両手で麦わらのかごバックを持って、小走りで歩み寄ってくるルビーに、周りの男たちは釘付けだ。

 ギルドでも評判の彼女が、これでもかとオシャレしているのだ。そりゃ俺も見惚れる。

 普段はサラリと下ろしている長い髪を、ベッコウ柄の髪留めでまとめていて、うなじが見えている。みんな好きでしょ、うなじ。

 服には疎いから、あれがなんというものなのかはわからないが、ノースリーブに別で袖がついているような夏らしいトップス。

 袖部分は透けていて、ルビーの白く細い腕が覗く。

 腕とは反対に足元まで隠れるスカートで低めのヒール。ギルドの制服はパンツなので、スカートだと随分と印象が変わるな。

 仕事終わりに居酒屋へ来る時も制服のままなので、私服を見るのも実は初めてだ。

 さすがに休日まで居酒屋には来ないからね。

 対して俺は、スーツや制服のようなスラックスに黒の襟付きシャツ。

 変に気取るよりもシンプルな服装のほうが男はカッコよく見えるーーと、メリダが前に言っていた。

「俺もさっき来たところですよ。では行きましょうか」

「はい、今日はよろしくお願いしますね」

 お願いするのはこちらの方なので、申し訳ないです。

 「行かないんですか?」という顔をするルビーに、おずおずと申し出た。

「あのですね......実は骨董市の場所がイマイチわからなくて......。案内してもらってもいいでしょうか?」

 気まずい空気が流れる。


「......もしかしてですけど、そのために私を呼んだわけじゃないですよね?」

「そ、そんなわけないじゃないですか! ルビーさんとデートをしたくて、ついでに骨董市に行こうと......」

 エイトの嘘は通用しない。特にルビー相手なら確実にバレるーー

「でっ!? デート......したかったんですね、私と......そうですか......そうなんですね」

ーーバレなかった。

 耳の先まで真っ赤にして、狼狽しながら言葉に詰まっている様子。これはかなりダメージを受けているぞ。

 たびたび説明しているが、彼女はギルド内どころかタラゴナの街でも評判の高い女性だ。その辺の男が気軽に言い寄れる相手ではない。

 加えて、ルビーの普段の真面目さが、恋愛面においても近寄りづらい雰囲気を出している。

 そのため、彼女にはそっち方面の経験が少なく、耐性がないのだ。

「そういうことなら仕方ありませんね! 私がしっかり案内しましょう。でっ、デートですからね!」

 もはやデートって言いたいだけでは。

「すいません、お願いします」

 ルビーはフンフンと鼻から煙を出す勢いで、俺の一歩前を歩き始めた。



 骨董市と言うからには、表の賑やかな屋台通りではないと思っていたが、どんどん日当たりが悪くてジメジメした細い路地に入っていく。

 見かける住人も、次第と雰囲気に合った服装や見た目に変わる。

 一言で表すならまさに「怪しい」。なにもしていないのに命を狙われているような感覚になる。

 常日頃からガラの悪い冒険者や屈強な男をギルドで相手していても、さすがにこの雰囲気は別みたいで、ルビーの表情が不安でベタ塗りされていく。

「情けないかもしれないですが、この通りは少し怖いですね......エイトさんは平気なんですか?」

 大丈夫ですよ、ルビーさん。俺も怖いので。

「そうですね、魔物を相手にしているほうがよほど怖いです。ははっ」

 いいえ、ここのほうが怖いです。できるなら今すぐ帰りたいです。

「すごいですね、私なんかもう足がすくんでしまって......よければ手を引いてもらえませんか?」

「それくらいお安い御用ですよ」

 人間は怖いと判断が鈍る。まともに考えることなく二つ返事をしてしまったが、手を引くというのはもしかして手を引くということですか......?

 ルビーが、抱き寄せるように腕を組みながら手を繋いできた。相当に怖いのだろう。

 それだけ接触されると接触してはいけないモノまで接触ーー


 むにゅっ。


 右腕に伝わるこの世のものとは思えない柔らかい感触。

 人と比べるとかマジで最低だが、彼女もイルンに負けないサイズを誇っているため、歩くたびにムニュムニュと当たるのだ。

 エイトの恐怖などとうに吹き飛んでいた。理性まで吹き飛ばなかったことを褒めてもらいたい。


 
 やがて薄暗い雰囲気の中にポツンと一つだけ佇む店に到着する。

 ガラス張りの扉を開けると、カランカランという鈴の音が鳴った。

 奥の帳場ちょうばには、丸いメガネをかけたおじいちゃんでもありおばあちゃんでもあるような老人が、腰を曲げて座っている。

 店内はどこか埃っぽく、ぼんやりと淡い橙色のランプが光っているのみで、雰囲気は外と大差ない。

「......いらっしゃい」

 掠れた声でゆっくりと一言だけ、店主が声を発した。

 店自体は大きくないが、端から端を四角く囲うようにテーブルが並べられており、中央にも一つ、独立した机が置いてある。

 その上にはところ狭しと様々な骨董品が敷き詰められていて、皿に急須、壺や変な生き物の彫刻など、なんでもありと言った感じ。

 骨董品って古けりゃなんでもいいんだろうか。

「これだけあったら、もしアレがあっても全然わからないですね......」

 キョロキョロと見回すルビーがそれっぽいものを探してくれているが、まあ普通は分からないだろう。

「そうですね、直感で選んでみたいと思います」

 俺はこっそりとスキルを発動させる。

(スキルーー魔眼)

 魔眼には見たものの情報が一気に映し出された。


【山水と花の染付け皿】

ランク:D

説明 :約100年前に作られた腕。当時はありふれたものだったが、現在の希少性から高値で取引される。


【招きヌンクの木彫り人形】

ランク:C

説明 :有名な彫り師が作ったとされる。招きヌンクは商売繁盛に良いとされ、たくさん売られているがほとんどはコピー品である。


 なんだ、招きヌンクって。猫っぽいが足が三本あるし、顔も絶妙にキモい。魔物かなにかなのか?

 チラッと視線をずらしたとき、他の骨董品に紛れて、奥に追いやられた寂しそうな指輪に目を奪われた。

 それはシルバーのリングで実にシンプルな物。

 しかし中央にはまった楕円の石がとても美しく、赤と青が混じった不思議な色をしている。

(見ていると吸い込まれそうだな......)


【アレキサンドラの指輪】

ランク:A

説明 :かつて存在した小国、「ウルム」のアレキサンドラ王が付けていたとされる指輪。アイテムボックス機能が付いている。規模は体育館サイズ。使用者を選ぶ。

 
 よし、見つけた。見つけたのだが、なぜ魔眼が体育館なんて知っている? そもそもどういう仕組みなんだ、スキルって。

 とはいえ、今は目的のものが見つけられたことを喜ぼう。

「すいません、これをください」

「......50バランだよ」

 たったの50バラン? 5000円の価値しかないってのか? 骨董品ってもっと高く売られると思っていたけど......まあ安く済んでよかったか。

 目的のものが手に入った俺とルビーは、骨董市を後にした。



ーー薄暗い店内。客の出ていったドアを見つめて店主がボソッと呟く。

「まさかそれを選ぶとはねえ......あの子も持っているのかもしれない。あるいは......ヒヒヒっ」
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