弱小スキル「自動マッピング」が実は偽装されてました? 〜気弱なのに、(ほぼ)強制的に神殺しをさせられそうな件〜

苺 あんこ

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-はじまりの陰謀-編

絶対に許さない

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「メリダさん!! 大丈夫ですか!?」

 部屋の中が散らかっている。

 棚の引き出しは無秩序むちつじょに開いていて、花瓶は落ちて割れている。窓も開きっぱなしで、カーテンが風で揺らされていた。

 間違いなく誰かと争った形跡だ。

 その中心、部屋の扉側を向いた状態でメリダさんは倒れていた。

「うっ......エイトかい?」

「何があったんですか!?」

 床に膝をつき、メリダの状態を確認する。

 軽い怪我を負っているが、命に別状はなさそうだ。

「はっ......! そうだ! イルンが、イルンがあっ......!!」

 メリダは取り乱し、エイトの腕を掴んで泣き叫ぶ。

「落ち着いてください、イルンがどうしたんですか?」

 内心ざわざわが止まらないが、ここで俺もパニックになっては状況を整理できない。

 平静を装ってメリダの腕をつかみ返す。

「イルンが連れ去られたんだよお!!」

 連れ去られた!?

「魔物の仕業ですか!? なぜそもそもこんなに魔物がーーいや、今はイルンを助けにいかないと!!」

 その時、メリダが放った言葉に俺は耳を疑った。

 
「とにかく、ここは危険です! ここへ来るときギルドに住民が入っていくのを見ました。そこへ避難しましょう! あっ、旦那さんは!?」

 旦那はイルンを連れ去った犯人を追いかけようとしたらしく、一階に倒れていた。メリダと同じく命に関わるケガはしていないようだ。

「早くイルンを......! イルンを助けておくれ......」

「俺が必ずイルンを助けます。さあ、二人は早くギルドへ」

 街の冒険者のおかげか、暴れ回っていた魔物は相当減らされていて、ギルドまでは比較的、安全に移動できた。


「ルビーさん!」

 ギルドの中はまさに阿鼻叫喚あびきょうかん。泣き叫ぶ子供と怪我をした住民。戦って負傷したと見られる冒険者もいる。

 その中を慌ただしく駆け巡っていたルビーに声をかける。

「エイトさん! ご無事でしたか! あっ、お二人もご無事でよかったです!」

 まるで悪夢でも見ているかのような表情をしたルビーが、俺の呼びかけに反応して近寄ってくる。

「はい! ですが、イルンが連れ去られたようで」

「イルンちゃんが!? すぐに他の冒険者を!!」

「いえ、ルビーさんはメリダさんと旦那さんを頼みます」

 俺は肩を支えていたメリダをルビーに引き渡す。

「ですが、イルンちゃんは!?」

「大丈夫です、僕がなんとかします」

 そう言い残して勢いよくギルドの外へ走った。

「待ってください、エイトさん! いくらなんでも無茶です! エイトさん!」

 後ろでルビーの引き止める声が聞こえるが、止まるわけにはいかない。

 俺の予想が正しければこれは全て仕組まれていることなのだから。

 
「エイトさん! ご家族は無事でしたか!?」

 はぁ、はぁ、と駆け寄ってきたエリシア。どうやら俺を探していたようだ。

「エリシアさん! 一人連れ去られたみたいです。俺はこれからその人を探しにいきます」

「私もいきます! では二人で手分けしてーー」

「いえ、場所の予想はだいたいついていますから。行きましょう!」

「えっ?」

 エリシアと二人で向かったのは街のはずれにある教会だった。

 それほど大きな建物ではなく、白い壁に赤い屋根。 所々ところどころにヒビが入って、 つたが絡まっていることからかなり古いモノだと伺える。

 俺は観音開きの茶色い扉を両手で押して、ゆっくりと開けた。

ーーギイィィィ

 
 きちんと整列して左右に並べられた長椅子。

 バージンロードとも言うべき入り口から祭壇に至る通路、神父が立つ位置にやはりそいつはいたーーイルンを抱えて。

 ステンドグラスから差し込まれる光を、まるでスポットライトかのように浴びながら口を開く。

「おう、坊主。よくここがわかったな。いや、お前なら来ると思ってたぜ」

 口の端をニヤつかせたそいつは、片手をポケットに突っ込んだまま、ドサッとイルンを落とす。

「イルン!!」

 イルンに意識はない。この距離では怪我をしているかどうかもわからない。

「やっぱりあなただったんですね、カセレスさん」

 イルンを連れ去ったのはほかでもない門番のカセレスだった。

「ガハハハハ! 驚いたか?」

「少し引っかかってはいました。最初におかしいと思ったのは、門で案件について聞いた時。あなたはダンジョンのアドバイスをしたんです」

 内容は言っていないのに、まるで最初から知っていたような感じだった。

「ほう、それだけじゃ根拠としては弱いな。他の冒険者も引き連れていたし、ギルドのやつに聞いた可能性だってあるだろ?」

「そうです、ただダンジョンの中でもおかしなことが起きました。なぜか魔物の数が少なかったり、ボスクラスのミノタウロスが二階層に出現したり。俺を殺そうとする冒険者がいたこともです」

「ふーん、それで?」

「その冒険者は死ぬ寸前に言いました、『話が違うじゃないか』と。おそらく誰かに俺を殺せと依頼されたんだと思います」

「それが全部、俺の仕業だと言いたいのか?」

「はい。この街に戻ってきたとき、門番のあなたがどこにもいませんでした。魔物は溢れていたから近くで戦っていてもおかしくないのに」

「ガハハハハ! そうだ、すべて俺が仕組んだことだ! ダンジョンの魔物を街に入れたのもミノタウロスを二階層に誘き寄せてあいつらを殺させたのもなあ!」

 カセレスは今までに見せたことのない歪んだ表情で笑っている。

「なんでそんなことをしたんですか!? あなたは俺を助けてくれたのに!!」

「ああ? そんなこと? もうわかってんだろ、お前を監視するためだって」

 カセレスが最初にエイトを見たとき、エイトの違和感にすぐ気がついた。彼が持っていたスキルは鑑定ではなく、魔眼だったからだ。

 いくら偽装していても鑑定の最上位スキル、魔眼であれば何かおかしいことくらいは分かるのだろう。

「スキルの偽装に気付き、魔物を誘導できる。あなたは一体なんなんですか?」

「俺の正体か?ーー魔人だよ」

 やはりそうか。

 魔人は魔物の上位の存在。魔物を自由に操ることができ、人の言葉を話し、人に紛れる。

 カセレスは普段から教会によく足を運んでいた。だからここにいると予想もついたんだが。


 教会は礼拝をする、聖書を読む他にも、神様の愛を伝えるところと言われている。

 ではその神とは誰か。

ーーそう、破壊神ボロスも紛れもなく神なのである。

「あなたはボロスと連絡を取っていたんじゃないですか?」

「惜しいな。ボロス様はまだ完全に力を取り戻されたわけではない。俺も試していたところだ」

「最初から......最初から、騙していたんですか?」

 拳が震える。

「そうだ。カセレスという人間のフリをしてお前を油断させるために」

 魔人が人間の生活に紛れる一番楽な方法は人間に化けること。

 ただ、化けるためには対象を殺す必要がある。

 カセレスは王国から門番に指名されたときにはすでに死んでいた。

「そうですか......まあいいです。ただイルンは返してもらう」

「はん! 素直に返すとでも?......いや、返してもいいぜ。まだ生きてればいいな」

 クックック、と小刻みに肩を震わせるカセレス。

 まさかすでに? いやそんなはずはーークソッ!

「カセレス!! イルンに手を出したお前だけは絶対に許さない!!!」

 エイトの怒りが頂点に達した。
 
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