弱小スキル「自動マッピング」が実は偽装されてました? 〜気弱なのに、(ほぼ)強制的に神殺しをさせられそうな件〜

苺 あんこ

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-はじまりの陰謀-編

こんなところで何してるんですか

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 よく見たらその場所は上で見た景色とはまったく違った。

 まるで神殿みたいな神々こうごうしい雰囲気の大広間。 大木たいぼくのような円柱が左右にドンドンと並べられていて、そのすべてが遥か上方じょうほうでアーチ状に繋がっている。

 そして王様の玉座でもありそうな位置に壁一面の扉。

「この先はもしかしてボス部屋か......? もしくはサックの言っていた世界を変える宝とやらがあるのか」

 あいつの言っていたことは本当だったのだろうか。しかしボス部屋だった場合、今の俺に勝てる自信はない。というか絶対無理。怖いし帰りたい。

「いや、どの道ここしか帰る手掛かりがないんだ。行くしかない」

 覚悟を決めて、泣きそうな険しい顔で扉の前に立つ。

 しかし特に反応はない。

 こんな大きな扉を物理的に開けられるわけがないし、魔法でもかけられているのか? 呪文が必要とか。

 とりあえず触ってみたり、押してみたりするがビクともしない。

「まいったな。どうするか」

 剛腕でぶっ壊せないか考えてみたが、絶対に腕がやられる。

「剛腕......ぶっ壊す......」

 閃いた!

 壁を破壊し、床をボロボロにしたあの斧であれば、壊せるのではないか?

 スタスタとミノタウロスの元へゆき、こいつが使っていた斧を持ち上げようとする。

「ふんぬ......っ、ぐぎぎっ!」

 重すぎる。ピクリともしない。何百キロあんだこれ。

「はあっ、はあっ、スキルーー剛腕」

 最初からこうしておけばよかった。もう、うっかりさんなんだからっ。

 それでも持ち上げるのがやっとで腕がプルプルと震えている。

 扉の前まで行き、上から振り下ろす力はないのでそのまま遠心力を使って、ぐるぐるっと斧を振り回した。

ーーバガアァアン!

 歪にも扉は破壊できた。できたのだが、

「きゃあっ!」

 きゃあっ?

 甲高い女性の声がどこからか聞こえてくる。

 もしかしてボスか? 女型の魔物、ハーピィか!

「最悪だな、やはり戦わなければいけなーー」

 言葉を失う。

 土埃が収まって奥から現れたのは、ティーカップ片手にお茶をしている長髪の綺麗な女性だった。

「......は?」

 状況が理解できない。

「......え?」

 女性も困った顔でこちらを見つめてくるが、困っているのはこっちだ。

 見たところどこかのお嬢様を思わせる服装をしていて、肩を露出したボリューム控えめなドレスに近いものを着ている。

 腰の上まである淡い紫色のツヤっとした髪で大きな瞳。左右の三つ編みは後ろで束ねてあって、おまけに菱形を重ねた高そうな髪飾りまでしてるときた。

 とてもこんなところにいるような人物ではないのだ。

 どこか うれいを帯びたその表情に見惚れていたがハッとする。

 なんで優雅にお茶してるんだ!

「あのー、こんなところで何してるんですか?」

 困惑気味にいま最も解消しなければいけない疑問を問いかける。

「あなたこそ何をされているんでしょうか?」

 吸い込まれそうなくらい深い紫色の瞳を揺らして、彼女はきょとんとした顔で聞く。

 まさか質問を質問で返されるとは。しかも悪気はないっぽいんだよな。

「いや、なんか上から落とされまして。で、ここボス部屋かなあって思ってお邪魔したんですけど」

「ボス......? ああ! それならいますよ」

 まずい!! 今度こそ戦闘か!?

 謎の女性はヒョイっと横から顔を覗かせて、俺が落ちた広間を指差す。

「そこにいるじゃないですか」

 ん? もしかして?

「あのミノタウロスのことですか?」

「ミノタウロス? それが何かはわかりませんが、あのでっかいやつです」

 あれボスだったんだあ。じゃあ何で二階層に突撃してきたんだろう。嫌がらせかなあ? なんか急にムカついてきた。

 エイトがニコニコしながら怒りに震えていると、それに気づかないまま謎の女性も答えを返す。

「すみません、自己紹介が遅れましたね。私はエリシア・アルメリアと申します」

 いや、自己紹介よりここで何しているかをーー待てよ、アルメリア? アルメリアってどこかで......。

『アルメリアという街だったことからアルメリアダンジョンと呼ばれていました』

 あっ! 確かサックが言っていたな。元はアルメリアダンジョンと呼ばれていたと。

 そのダンジョンの奥に同じ名前を持つ謎の女性。無関係なわけがない。

「俺の名前はエイトです。エリシアさんはアルメリアという街をご存知ですか?」

「ええ。私はアルメリア領主の娘ですから」

 ......!?

 アルメリアが滅んでこのダンジョンができてから百年は経っているんだぞ!?

 どっからどう見ても十代にしか見えないが。

 実はダンジョンに逃げこんで一族は滅んでませんでしたー、とか?

「私からも質問をよろしいでしょうか?」

「あ、はい。どうぞ」

「今はバレンシア暦で何年ですか?」

「946年です」

「......そうですか。では、もう......」

 エリシアは途端に悲しい表情を浮かべてうつむいた。続けて、

「出会ったばかりで失礼なのは重々承知しています。しかし、あのボスを倒してこの扉を破壊してくださったエイトさんにどうしてもお願いがあるんです!」

 嫌な予感がする。

「私と一緒にボロスを倒していただけないでしょうか」

 何を言ってるんだこの子は。まさか人殺しでもしろと?

「そのボロスという人物は何者なんですか?」

「ーー神です」

 人ですらなかった。

 ていうかそもそも神様って殺せるのか。

「なぜその神を殺そうと......エリシアさんがここにいたことと関係あるんですか?」

 エリシアは遠い目をして、自分の身に起きたことを話し始めた。

「えぇ。私はアルメリア領主の次女としてバレンシア暦828年に生まれました」

 828年、ということは118年前か......118年前!?

「この国の人間は十五歳の成人を迎えることで固有のスキル、つまりユニークスキルを授かるということはエイトさんもご存知だと思います」

 そうなの? ご存知じゃなかったです、すいません。この国の人間じゃないもので。

「通常、ユニークスキルは一人一つが原則です。ただ、私には二つのスキルが宿りました」

 俺もすでに二つ以上あるけどまずいのかな。

「そのスキルが特殊で破壊神ボロスに目をつけられたのです。自分を殺しうるスキルだと」

 ボロスって破壊神なんだ。絶対やばいやつじゃん。

「神は人に手を出してはなりません。しかし破壊神はできる限りの力を使って、私のスキルを封じようとしました。
 ただ固有スキル自体を消すことはできなかったようで、下位のスキルに落とされたんです」

 自分の立場を利用して女の子をいじめるとか最低だな、ボロス。

「それだけで終わればよかったのですが、私が十六のときアルメリアの街にダンジョンが造られ、その最奥に閉じ込められました」

「そんなことが......けれど百年もの間、閉じ込められていたにしてはあまり変化がないように見えるんですが」

「ボロスの制約でしょう。人を閉じ込めるには時間の流れを止めるくらいの交換条件が必要だったんだと思います」

 ということはこの子は十六歳のまま、ずっとここで生きてきたと。

「私の街はダンジョンが造られてすぐに滅びたと思います。街にいきなり魔物が現れれば対処のしようがないですから。私の家族もーー」

 これは言葉につまる話だな。

 あれ、確かサックは滅びた街にダンジョンができるって言ってたけど。まさかダンジョンが造られたから街が滅びてるんじゃ......。

 だとしたらこの世界にあるダンジョンは全て滅ぼされた街ってことか!?

「人間一人にここまでの力を使えば、ボロスもだいぶ弱まっているはずなのです。どうか私と一緒に戦ってはくれないでしょうか!!」

 両手を組んで懇願するような目で見つめるエリシア。

 確かにものすごく理不尽で辛かっただろうし、かわいそうだ。しかし相手が神ともなればそう簡単にはいかない。

「エリシアさんがそこまでしてボロスを殺そうとしている理由は自分にこんな理不尽を強いた復讐、あるいは家族の敵討ちですか?」

 さっきまでの弱々しいエリシアの眼差しは一瞬にして強いものへと変わった。

「それがないとは言い切れません。ですが、ボロスの目的はこの世界を滅ぼすことです。私はそれを止めたい」

 なるほど、世界を滅ぼす......え?
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