弱小スキル「自動マッピング」が実は偽装されてました? 〜気弱なのに、(ほぼ)強制的に神殺しをさせられそうな件〜

苺 あんこ

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-はじまりの陰謀-編

すぐ帰ってくるって

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「ど、どうしたんですか、エイトさん!?」

 イルンが必死の形相で止めにかかる。

「いやいや、受けるって言ってもそんな危ない案件じゃーー」

「危なくない案件なんかないです!」

 それは確かにそうなのだが。案件にはそれぞれ認識されている危険度がある。

 ギルドランクになぞらえて案件のレベルも決まっており、


 一般案件→命の危険はない

 シルバー案件→ケガするかも

 ゴールド案件→死ぬ

 プラチナ案件→必ず死ぬ

 ブラック案件→形も残らない


 とされている。

 後半はもはや結果が同じなので危険度とか以前の問題な気もするが。

 もちろん、そこそこのやつを基準にした場合なので、実際はレベルや技術があればこなすことは可能なのだろう。

 しかし、俺レベルのポンコツスキルで挑もうものならシルバー案件でも最悪、死ぬだろ。

 ちなみにゴブリンがシルバー案件らしい。終わったな、これ。

 そんな中、俺は一般案件を探していた。一般は主に薬草採取とか落とし物探しとか、そのレベル。

 危険はないとされているが、魔物に会わないとも限らない。

「一般でダンジョンに潜れる案件なんてあるわけないじゃないですか」

「ですよね~」

 微妙な表情をしながら何枚かの紙をペラペラとめくるルビー。その途中、ある一枚を見て手を止める。

「ーーあっ」

 口に出すことを躊躇ためらうように眉をしかめる。

「あれ、あったんですか?」

「......あるにはありますけど、これを一般案件というには いささか......」

 案件を受けるか決めるのは本人なので、仕事として紹介しなくてはならない。ただ、イルンとエイトの友人として彼女はそれを すすめたくなかった。

「どういう案件かだけ聞かせてください」


案件レベル:一般

初心者歓迎! マッピング持ち、トラップ察知持ち、魔力感知持ち、求む。

内容:ファストダンジョンへの付き添い

報酬:1000バレン

備考:戦闘なし


 なるほど。なんというか簡単そうに見えて実はきつい引っ越しバイトみたいな求人だな。

 ちなみに報酬にあるバレンというのはこの世界の共通通貨だ。国の名前がバレンシア王国だからそこから取ってバレン。 安直あんちょくだな。

 1バレンの価値が日本円でだいたい百円くらいだから1000バレンは十万円にあたる。

 付き添いだけで十万円っていうのはどう考えても楽に見えるが、どんなカラクリがあるのか......。

「どう考えても怪しさ満点じゃないですか!」

 横で覗いていたイルンが我慢の限界と言わんばかりに、ツッコむ。

 そうだよなぁ。

 まぁ冒険者っていうのも夢があっていいじゃない。危なかったら逃げればいいんだし。

 今の生活の何かを変えたい。その一心で俺はその案件を受けることにしたーー。



 (最悪だ......)

 帰り道を歩きながら、ズカズカと先をゆくイルンの顔を覗き込むように切り出した。

「イルンちゃん~、ごめんて~」
 
 記念日を忘れて彼女を怒らせた、情けない彼氏の吐くセリフ堂々の第一位が披露される。

「エイトさんなんて知りません!」
 
 なぜこんなにも彼女が怒っているのか分からない。

 好きなのかな? と思ったりもする。ただ、勘違いは避けるべきだ。俺はそこまで 傲慢ごうまんじゃない。

 しかし彼女のいた経験があるエイトは、こういうときの対処法を知っていた。

「ねえ、イルンちゃん」

 ダメだ、笑顔が歪んでいる気がする。必死すぎるって自分。

「......なんですか」

 イルンはいい子なので、無視はできない。

「ダンジョン行くのにこのままじゃ危ないじゃないですか~? なので装備を買いに行こうと思ってるんですけど」

 緊張のしすぎで敬語になっている。吐きそう。

「......だから?」

 勘のいい彼女はこの時点で察していた。

「いや、あの~、よかったらついてきてほしいなぁ、なんて」

「......条件があります」

「はい、なんでしょうか」

「この一回きりにしてくださいね、エイトさん弱いんですから」

 そうはっきり弱いって言われるとくるものがあるというか何というか。

 ともあれ、この『あなたが必要です戦法』が功を奏したのか、イルンの機嫌はいつの間にか直っていた。


 別の日。

「この胴当てとかいいんじゃないですか?」

「えー、なんか薄いよこれ。死んじゃう死んじゃう」

「じゃあこれですかね。色とかもいいんじゃないですか?」

「あ~、これならまだマシかなあ」

 少なくとも店主がいる前でする会話ではない。チッという舌打ちは聞こえてないフリをしておこう。

 だってしょうがないじゃない。高いんだから。

 この防具の前に武器(使う予定はない)を買いに行ったのだが、サバイバルナイフばりの短剣がなんと800バレンもする。日本円にして八万だぞ、八万。


 そして結局、このサバイバルナイフ(短剣)と薄茶色の胴当て(ないよりマシレベル)の二つで俺の二ヶ月分の貯金が吹き飛んだ。

 はぁ~、とため息をつく俺を見て、イルンは少し嬉しそうに言う。

「ダンジョンに行くって言い出したエイトさんが悪いんですよ?」

 ニッコニコなんだけど。

「それはそうなんだけどさあ。あー、お腹痛くなってきた」

 いよいよ明日、初めてのダンジョンに挑戦する。そして未だ謎なことがある。

 なぜあの日、俺は案件を受けるなどと口走ったのか。夢の影響にしては過ぎる。

 まあ一度受けてしまった以上、キャンセルはペナルティがつくからやるけども。

 効くかもわからない傷薬やなんやかんやを詰めた紙袋を抱えながら、明日が無事に過ごせることを祈った。

 ちなみに薬屋のおばちゃんに「これ使えば一瞬で傷が治ったりしますか?」と聞いたら『バカじゃないの?』と冷たい目で返された。

 だって漫画だったらポーションとか......うぅ。泣きそう。



「それじゃあ行ってきます」

 その日は居酒屋が休みで、集合は鐘が二つなる時。つまり九時頃に大通りの噴水広場で、とのことだった。

「ほんとに気をつけてくださいよ? 危なかったらすぐ逃げるんですよ?」

 お前は俺の母ちゃんか。

 あの日、プレゼントしたネックレスを握りしめて今にも泣き出しそうな顔をするイルン。毎日つけてくれている。

「大丈夫だって。それは俺が一番よくわかってる」

 俺の気弱さをナメてもらっては困る。これでも高校の時は陸上部だったんだ。魔物に会おうもんなら、全速力で逃げさせてもらう。

「エイト、頑張ってきなさいな」

 イルンに並んだメリダが巣立っていく雛を見守るように優しく微笑んだ。

「......」

 旦那さんは相変わらず無口だな。あんま話してるとこ見たことないぞ。

 ただ心配してくれてるのはわかる。

 もうこっちの世界の家族も同然だ。いい人たちに恵まれた。

 ーー待てよ。なんか旅立ちの別れみたいになっているが、俺がやることってただの付き添いだったよな?

 そう思うと急に恥ずかしくなってきた。あー恥ずかしい。さっさと行こう。

 三人の眼差しを頭に感じながら、エイトは授業参観を受ける子供のような気持ちのまま、待ち合わせ場所へ向かったのだった。
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