弱小スキル「自動マッピング」が実は偽装されてました? 〜気弱なのに、(ほぼ)強制的に神殺しをさせられそうな件〜

苺 あんこ

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-はじまりの陰謀-編

とりあえず街を目指そうと思うよ

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 解決すべき問題は山積みなわけだが。

 今、一番考えなきゃいけないのは 四方しほうを囲っているこの森の一体どこに進めばいいのかという、いきなり難易度MAXな難問である。

 遭難する気しかしない。はっきり言って、どこを選んでも負け確イベントのゲーム序盤みたいなクソ設定だ。

 ゴブリンが狩りに出かけてからそこまで時間が経っていないので、とりあえず洞窟の周りを散策してみる。

 まず洞窟の直径はおおよそ10メートルくらいであり、これはうちの実家と同じくらい。

「お? これは......」

 足元に落ちていた某魔法使いが使っていそうな木の棒を拾い上げる。

これで魔法を使えたりしないだろうか。額に傷がないから無理だな。

「ふっ、まさかこの年齢になって小学生みたいなことをするとは」

 よく帰り道で等間隔に並んだ鉄のパイプをカンカンカン、と鳴らしたものだ。なに、やったことがない? 都会っ子め。

 申し訳程度の服装の俺には、木の棒ですら無いよりはマシなのである。

 そして同時に少し強くなったような気がした。これは......装備したということだな! ※気のせいです。木だけに。

 装備した武器(ただの木)を手にパンパンしながら、洞窟の端から端に移動する。

「う~ん、なるほどわからん」

 ひらけているのは正面だけであり、サイドは木や雑草で覆われている。

喉乾のどかわいたなあ」

 そこでハッとする。一つ思い出したのだが、洞窟にスポーンしたとき水の滴るしたたる音がしたのと全体が湿っていた。

 雨が降った形跡はない。つまり近くに海、もしくは川があるということ。

 目をつむって耳を ませると、ザーッという音がほんのわずかに、 かすかに聞こえる。

「ハハハ、ついてるな」

 音のする方向、洞窟の右手に向かって歩きだす。このとき、踏みならされた形跡があることにエイトは気がつかなかった。

 
ーーザバーッ!

 思いっきり蛇口を ひねったような、そこそこ勢いのある川を見つけた。
 
 地面に膝をつき、ごくごくっと喉をうるおす。

 乾きが満たされると、さっきまではあまり感じなかった空腹感が一気に襲ってくる。

 (ぐぅ~)

 弱々しい動物のような音が鳴っているが、今は無視だ。安全な場所を見つけるまではーー

 と、思っていたのもつかの間。

 向こう岸にリンゴのような果物があるではないか。いくら空腹とはいえ、知らないものを食べるのはさすがに......。ほら、毒とか。

「この距離ならなんとか飛べるか?」

 彼の判断力は落ちていた。目の前にあるリンゴによく似たなにかのことしか考えられないようだ。

 三メートルほど下がって、勢いよくジャンプ!

「こう見えて、運動はそこそこできるほうだからな。これくらい余裕ってなもんよ」

 そう言ったエイトの片足は濡れていた。

 そして念願のリンゴ、のようなものを手に入れたわけだが、一つ問題がある。

 色が紫色なのだ。

 どう考えても嫉妬したどっかの悪い魔女が仕込んだものとしか思えない。王子様が助けてくれるならやぶさかでもないが、あいにく俺にそんな趣味はない。

死なないことを願って、ガブリとかじりついた。

「......うまい」

 空腹なら何を食ってもうまい、とは言うがそれを抜きにしてもおそらくこいつはものすごく美味しい。

 ぺろりと平らげて満足した俺は立ち上がって、再び川沿いに歩みを進める。

 落ちた判断力に急な満腹感。確かに見ていたはずなのだが、そのリンゴのようなものが木に一つしかなっていなかったことを彼はすぐに忘れたのだったーー。

 
 川沿いを進んでいるのにはちゃんとした理由がある。

 ここが異世界なのは事実だとして、では技術力はどれくらいだろうか。もし魔法があるなら、現代ほど科学は発展していないだろうし、仮に科学があっても日本の生活レベルまで整備されているとは考えにくい。

 何が言いたいのかというと、下水道というシステムがなければ水は川から引いてくるしかないのだ。

 水魔法があっても大量に生み出し続けるのは無理だろうし、農作は高確率でやっているだろうから川の流れにそって降りていけば、自然に人がいる場所にたどり着くだろう、という考え。

 我ながら素晴らしい。ノーベル賞とれるな。

 まぁ魔物に遭遇そうぐうせずにくだりきれたら、の話なんだけど。

「最悪だ......」

 俺がこの世界で最初に見た魔物。ツノの生えたウサギが数匹いる。

 幸いなのはそれが向こう岸ということ。

 動きは遅く、鼻と口をヒクヒクさせながら、ぴょんぴょんと飛んでいた。

「これなら捕まえて食べることができるかもしれない。いや、動物を さばくとかグロいし無理だから、やっぱりやめておこう」

 諦めるのが早いのは承知しているが、諦めが肝心って言うじゃない?

 などと焼いたステーキを妄想していた俺に衝撃が走る。

 突如、気が狂ったように木に突撃し始めたのである。気だけに(それやめろ)

 そしてあろうことかウサギから生えている、大人の手のひらほどのサイズのツノが木にめり込んでいた。

 確かなのは、あれに刺されれば間違いなくタダでは済まない攻撃だということ。

(捕まえようとしなくてよかったぁ)

 ホッ、としながら様子を見ていると森の奥のほうでカサッ、と葉っぱが揺れた。
 
 俺は考えを巡らす。
 
 ここにウサギがいるということはおそらく川辺に生息している種類の魔物ということ。

そして当然、それを獲物にする魔物がいるということ。

「グギャアアッ!」

 お出ましか......。

 洞窟からの距離を考えると俺の見たゴブリンどもと同一の個体だろう。川の幅とやつらの身長を考えると、簡単に飛べる距離ではないだろうが万が一もある。

 木の後ろに隠れて、はじめてのおつかいのごとく見守るとしよう。全然ビビってはいない。

 あの力で劣るゴブリンが、どうやって攻撃力の高いウサギを仕留めるのかを観察していたのだが、なるほど面白い。

 まず一匹のウサギを四体のゴブリンで囲む。当然ウサギはツノを使って攻撃するわけだが、一匹のひときわ傷だらけのゴブリンがその攻撃を受け止めて、あとの三匹が袋叩き、という戦術もクソもない戦い方だ。

 というかただのいじめでは? ウサギからしても おとりのゴブリンからしても。普通に刺さってて痛そうだし。

 (これじゃあ、どっちが被害者かわからんな)

 どうやら狩りが終わったらしいので、やつらが向こうへ行ったら俺も動くとしよう。

 そこで気を緩めたのがダメだった。

ーーパキッ

 体勢を直そうと足をずらした瞬間、落ちている木の枝を踏んでしまったのだ。

「ギャッ?」

「ギャアッギャアッ!」

 まずい! 気付かれた!

「クソっ!」

 俺は 一目散いちもくさんに走りだす。

 川を飛び越えられる可能性がある以上、とどまるよりも逃げたほうがいい。

「はぁっ、はあっ、やつらは、っ?」

 走りながら目線を斜め後ろに向けると並走して追ってきている。

 そして違和感に気づく。最初に見たときよりも川幅が縮んでいることに。

このまま進めば間違いなく合流してしまう。

「あぁっ! もう! 最悪だっ!」

 やつらが飛べないことに けて、エイトはズザッ! と 土煙つちけむりを上げながらそこで止まった。

 気の弱い俺に賭け事は苦手なのだが、今回は勝ったらしい。

「グギャアッ......」

 さすがに川は飛べないらしく、足は水中に落ちるギリギリをとどめていて、どうすることもできずに動揺しているようだ。

「このまま諦めてくれると助かるんだけど......」

 通じていないであろう言葉を投げかけるが、もちろん相手にわかるはずもない。

 耐久戦かと思ったそのとき、一度確定したはずのルーレットがリーチのかかったままで再度、動きだすように、あの傷だらけのゴブリンが川から距離をとって、助走をつける動作をした。

「この演出がパチンコだったら嬉しいんだがな......ゲロ吐きそう」

 走ったからなのか、ビビっているからなのか、汗が止まらない。

 ふぅ、こういうときこそ落ち着いて、まずはどう対処するか考えて、っていうか考えてる暇もないんだけどーー

 しっかりと狙いを定めて、獲物を狩る鷹のように勢いよく飛ぶゴブリン。

「うわっ、ちょっ、まっ、うわぁあぁあっ!」

 に対して、人生で一番情けない叫びを発しながら目を瞑ってブンブン、と腕を振り回す俺。

 手には装備している木の棒。

 実際には装備というか持っていただけなのだが、またしても運よくその木の棒がゴブリンの右目に突き刺さった。

「ギャアッアァアッーー!」

 そのまま川に落ちて流されていった おとりゴブリンを見て、他のゴブリンたちもさすがにヤバイと思ったのかしっぽを巻いて森の奥に逃げていった。

「はぁ~っ、なんとかなったぁ」

 腰が抜けて、しばらく動けなかったのは内緒にしておいてほしい。

「そういえば、はじめて魔物を倒したわけだけど、こういうのって大体レベルアップとかするんじゃ......」

 身体に特に変化はない。あれ? レベルとか存在しないの? それともゴブリンが弱すぎただけ?

「まぁ、いっか。川の幅を見る限り、もうすぐ下流に着きそうだし。第一村人発見も近いな、なんつって」

 

 確かにゴブリンは弱い魔物ではあるが、この世界にはレベルが存在する。加えておそらくレベル1のエイトがはじめて魔物を倒したなら、相手がどんなに弱くてもレベルは上がるはず。

 上がるはずのレベルが上がっていない。それはつまりーー。


ーーザバァッ! バシャ、バシャ

「グギギ......ッ!!」

 そいつは右目を抑えながら、静かに森の奥へと消えていった。
 
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