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第四章 修学旅行
第三話 雪国、北海道
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千歳空港に降り立つと、俺たちはまずその気温に打ち震えた。香川では長袖の制服だけで十分だったものが、北海道にたどり着いた途端に用意していたコートが必要になって、同じ日本だとはとても思えなかった。
長時間の空の旅で睡眠を取ったり、友達と話したりして眠気を吹っ飛ばした生徒たちは、弾んだ声で口々に「寒い」だとか「死ねる」だとか言っていた。
空港に降りてすぐにバスに乗り、最初に向かったのは『ノーザンホースパーク』という馬を中心としたテーマパークに訪れた。テーマパークといってもアトラクションのようなものがあるわけではなく、乗馬などの体験ができるふれあい牧場のような場所だ。さすがは北海道で、その敷地面積はとても広く、パンフレットを見たときに驚いたものだ。
太陽は完全に昇りきった後で、時刻はすでに午後三時を回っていた。ちなみに、昼食は配布されたどこにでもある弁当だった。修学旅行最初の食事とは思えなかったが、ご飯を抜きたくもないのでしぶしぶ食べた。
そして、現在に至るというわけである。今、俺たちは馬と一緒に集合写真を撮っているところだ。これが終われば一時間の自由行動であり、ついに真の意味での修学旅行の始まりだ。
俺たち二組の写真撮影が終わると、先生が次の集合場所と時間を周知した。二組の面子はその言葉に食い気味に返事をすると、待っていたとばかりに広がる大地へと駆けて行った。
みんなが興奮するのも仕方ないだろう。修学旅行でテンションが上がっているというのもあるが、なにより目の前に真っ白に埋め尽くされた世界が広がっているのだ。香川では雪がふることなんてほとんどない。降ったとしてもすぐに溶けてしまうから、こんなに雪が積もっているのを、みんなはテレビでしか見たことがないのだろう。
大量の雪を見て子供のようにはしゃぎながら、相撲を取ってみたり雪合戦を始めたりと、みんな雪の虜となっていた。馬なんてそっちのけである。
俺はというと、そんなみんなを少し冷めた表情で見ていた。祖父母の家が岐阜の山奥にある俺にとっては、雪が積もっていることはそこまで珍しいことじゃないのだ。雪合戦で遊びまくったし、かまくらも雪だるまも死ぬほど作った。
あまりはしゃぐ気になれず、俺がぼーっと立ち尽くしていると、背中にぼすっとなにかが投げられた音がした。
振り向いてみると、そこでは俺と同じく冷めたような顔をした千堂がいた。
「なんだ、センか」
「杉下が良かったか?」
「さあ、どうかな」
俺は肩をすくめて少しすかして見せた。…ごめんなさい、ちょっと、いやだいぶ期待してましたマジですいません!
「杉下ならあそこにいたぞ」
俺が胸中で懺悔していると、千堂がそう言って俺の向こう側を指さした。見てみると、そこではいつもの四人で大爆笑しながら雪合戦をしている双葉の姿が見えた。
「だろうと思ったよ…」
「いいのか、行かなくて?」
「いいんじゃないか? 無理して会いに行く必要ないだろ。チャンスならいくらでもあるし」
「そんなもんか」
「それよりさ、一緒にあそこ行かないか?」
俺が指差したのは少し離れた先にある雪で築かれたそりの小さなレジャーだった。
雪遊びでも、そりはいつまでも飽きないのだ。
特に異論はないようで、俺たちは滑らないようにゆっくりと歩いて行った。これが間違った判断だったとも気づかずに。
長時間の空の旅で睡眠を取ったり、友達と話したりして眠気を吹っ飛ばした生徒たちは、弾んだ声で口々に「寒い」だとか「死ねる」だとか言っていた。
空港に降りてすぐにバスに乗り、最初に向かったのは『ノーザンホースパーク』という馬を中心としたテーマパークに訪れた。テーマパークといってもアトラクションのようなものがあるわけではなく、乗馬などの体験ができるふれあい牧場のような場所だ。さすがは北海道で、その敷地面積はとても広く、パンフレットを見たときに驚いたものだ。
太陽は完全に昇りきった後で、時刻はすでに午後三時を回っていた。ちなみに、昼食は配布されたどこにでもある弁当だった。修学旅行最初の食事とは思えなかったが、ご飯を抜きたくもないのでしぶしぶ食べた。
そして、現在に至るというわけである。今、俺たちは馬と一緒に集合写真を撮っているところだ。これが終われば一時間の自由行動であり、ついに真の意味での修学旅行の始まりだ。
俺たち二組の写真撮影が終わると、先生が次の集合場所と時間を周知した。二組の面子はその言葉に食い気味に返事をすると、待っていたとばかりに広がる大地へと駆けて行った。
みんなが興奮するのも仕方ないだろう。修学旅行でテンションが上がっているというのもあるが、なにより目の前に真っ白に埋め尽くされた世界が広がっているのだ。香川では雪がふることなんてほとんどない。降ったとしてもすぐに溶けてしまうから、こんなに雪が積もっているのを、みんなはテレビでしか見たことがないのだろう。
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俺はというと、そんなみんなを少し冷めた表情で見ていた。祖父母の家が岐阜の山奥にある俺にとっては、雪が積もっていることはそこまで珍しいことじゃないのだ。雪合戦で遊びまくったし、かまくらも雪だるまも死ぬほど作った。
あまりはしゃぐ気になれず、俺がぼーっと立ち尽くしていると、背中にぼすっとなにかが投げられた音がした。
振り向いてみると、そこでは俺と同じく冷めたような顔をした千堂がいた。
「なんだ、センか」
「杉下が良かったか?」
「さあ、どうかな」
俺は肩をすくめて少しすかして見せた。…ごめんなさい、ちょっと、いやだいぶ期待してましたマジですいません!
「杉下ならあそこにいたぞ」
俺が胸中で懺悔していると、千堂がそう言って俺の向こう側を指さした。見てみると、そこではいつもの四人で大爆笑しながら雪合戦をしている双葉の姿が見えた。
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「いいんじゃないか? 無理して会いに行く必要ないだろ。チャンスならいくらでもあるし」
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俺が指差したのは少し離れた先にある雪で築かれたそりの小さなレジャーだった。
雪遊びでも、そりはいつまでも飽きないのだ。
特に異論はないようで、俺たちは滑らないようにゆっくりと歩いて行った。これが間違った判断だったとも気づかずに。
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