魔性男子はモテたくない

月華

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2.消えた平穏

唐揚げ大好きっ子

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「なんで岬が唐揚げ定食だってわかったんだろうね、あの人」


 赤面を隠すように俯いていたら、流星がぶっ込んできた。いいじゃんそんなの、気にしなくていいじゃん!


「あはは……僕、いつも唐揚げばっかり頼んでたから、覚えていたのかも……」
「へぇ、そんなに唐揚げ好きなんだ」
「ウェイターに顔覚えられてるとか、まじ王道! さすが岬同志、隅におけない!!」


 唐揚げ大好きっ子という無駄な情報が露見した。なんだろう、この羞恥感。別に唐揚げ好きだってバレたところで恥ずかしいことなんてないはずなのに、なんだろうね、めっちゃ恥ずかしい。
 ニコニコしている流星から目を逸らし、やんややんやと騒いでいる道添はもちろん無視し、マスクを外す。
 羞恥心なんて感じている場合じゃない。冷めないうちに食べないとね。
 ちなみに流星はさすが運動部といった感じのアホみたいなどんぶり大盛りご飯の生姜焼き定食で、秀は運動部でもなんでもないのにカツ丼とラーメンを注文していた。道添はチキン南蛮定食の普通盛り。こういうところは、同志かもね俺たち。というか2人が凄いんだろうけど。
 小さくいただきます、と言いつつ、熱々だと知っている唐揚げを軽くふーふーして冷ましてから齧る。ジュワッと溢れる肉汁にあちち、となるも肉汁で濡れた唇を舐めつつ咀嚼していく。わかっているけど美味い。何度食べても感動する美味さに、自然と口元も緩む。醤油と生姜の風味が絶妙なのだ。
 うめぇうめぇと食べていたら、やたらと視線を感じた。ん? と思い視線を上げると、秀も流星も道添までもが俺を見ていた。思わずゴクリと肉を飲んだ。


「え……な、なに?」


 なんでそんな見てくんの? え、食べちゃ駄目だった? みんなで声を合わせて「いただきます」とか言ってからじゃないと食べちゃ駄目だった!?
 内心冷や汗だらだらで固まっていたら、流星が「んん゛っ」と咳払いした。


「いや、エッロ。エロすぎじゃん岬同志、何事!?」


 いきなり道添が椅子をガタタッと鳴らして身を引いた。


「は?」


 エロいって、何が?


「口元エロすぎない? ってか食べ方エロすぎでしょ! だからマスクしてるの? 王道すぎない、大丈夫!?」


 エロいエロいって、やめろ、人を猥褻物みたいに。


「え……普通だと思うけど」
「全然普通じゃないから! 俺ノーマルなのにドキッとしちゃった! 腐男子×王道の妄想が一瞬頭を過りかけたもん、地雷なのに!」


 いや知らんがな。やめろ、俺でカップリングを作るんじゃない。てか食べてただけなのになんで? 顔半分でもアウトなの、俺? マスク外すのってそんなアウトなの?
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