魔性男子はモテたくない

月華

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2.消えた平穏

クズ教師の鑑

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「あの、ありがとうございました」
「おい、鍵、失くすなよ~」


 ソファで軽薄そうにひらひらと手を振る姿も、今はただ神々しい。キラキラ光って見える。教師らしからぬ金髪のせいではなく。



***


 ガラガラと引き戸が閉まる音が鳴る。岬の姿が見えなくなっても、笑みを残したままの小日向がソファに凭れていた。


「あんなに喜んじゃって……可愛いヤツ」


 クスクスと笑みが漏れる。先ほどまで触れていた右腕をさすって、岬の感触を思い出す。
 大人しそうな見た目に反し、程よい弾力のある綺麗な筋肉がついた感触だった。鍵を握らせる時に触れた手は、男とは思えないほどに滑らかで美しかった。
 触れるたびに感じる確信が強くなっていく。
 昨年の入学当初、初めて見た時から感じていた。薄着になる夏には気付かれぬように舐めるように見つめた。最高の身体だと思った。小さすぎず、平均よりも少し高い身長と細すぎない健康的な肉付き。手入れしているのかは定かではないが、産毛さえ見えないほどの滑らなか肌。いくら見つめても、好みのど真ん中としか言えない身体。
 大きなマスクと前髪で顔を隠してはいるが、注意深く見つめていれば前髪の隙間から時折瞳が見える。チラと見えただけで整った顔立ちなのだろうと分かった。大きなマスクに見えるのも、顔が小さいからだろう。


「はぁ……」


 考えれば考えるほど、身体が火照っていく。
 密室で2人きり、あれだけ密着していて押し倒さなかった自分を褒め称えたい。昨年中は、少しずつ警戒を解こうとしても中々距離は縮まらなかった。碌でもない噂話を聞いたのだろうと自身を納得させるしかなかった。
 それが、2年目にしてようやく転機が訪れたのだ。異例の転校生のおかげで、一気に距離が縮まった。岬から声をかけられるなど、それまで一度たりともなかったことだ。
 歓喜に震えそうになるのを、必死に理性で押し留めていた。
 まさか、こんな展開になろうとは。これからは、この密室で2人きりになる機会も増えることだろう。そう考えると、笑みが止まらなくなる。


「あー……勃った」


 ソファの背凭れに頭を乗せ、天井を見やる。ポケットに入れていたスマホを取り出して、LIMEを立ち上げる。黒髪で170cmくらいの生徒を選び、チャットを打ち込む。


『準備室来れる?』


 すると、授業中であるにもかかわらずすぐに既読がついた。


『すぐに行きます』


 1分も経たないうちに返事が届くと、ソファにスマホを投げて再度ソファに凭れた。


「早く岬とヤリてぇなぁ」


 目を閉じて岬の感触を思い出しながら、呼び出した相手を待った。1日も早く、本物を抱ける日を待ちわびて。
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