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2.消えた平穏
こいつグイグイくるな
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ランキングに関わりそうにない転校生=黒毬藻が俺に絡んできたところで、チワワ達はなんとも思わないだろうし、俺が困るだけでそれ以外の害はない。でも、生徒会の親衛隊に目を付けられている転校生、と前置きが入ると全て瓦解する。制裁に巻き込まれるのも嫌だし、変な難癖を付けられる可能性もあるかもしれない。
そもそも忘れていたが、あの黒毬藻――花菱は、変装をといたらまさかの美青年だったのだ。奴の素顔がバレたら、おそらく親衛隊ができるだろう。そうなったら絡まれていた俺が無事で済むと思えない。
「はぁ……本当に面倒臭ぇ」
ぽつり、思わず溜息のように小さく言葉が漏れる。
外界から遮断されている学園。小さな箱庭。目立たなければ、多くに関わらず静かに過ごしていればこれほど打って付けの安息の地はないだろう。その前提が崩れてしまえば、平穏な箱庭ではなくなってしまう。
「? 岬君?」
「あ……いや、なんでも。……大丈夫、上手く……まずはひとりで逃げてみるよ」
「そう? もしそれが無理そうだったら言ってね。力になれるなら、力になるよ」
「……ありがとう」
話しているところで、本棟の教室のある2階に着いた。この学園は、全ての棟に渡り廊下が付いているので、昇降口を経由しないで済む場合は移動が楽だ。
「秀も……上履きありがとう」
「おう。……昼は迎えに来る」
「え」
「待ってろ」
そんなことしなくていい、と言いたかったが、言うや否やさっさとB組に入っていってしまった。
くそ、言い逃げしやがって。榛もいる手前、強く言えないのも辛い。
「岬君、兼崎君のこと名前で呼んでるんだね」
去っていった兼崎をぐぬぬ……と前髪の下で睨んでいたら、榛がこちらを見ていたので慌てて表情を元に戻す。見えていないだろうけど、念の為。
「え?」
「いや、秀って呼んでるでしょ? 意外だなって思って」
「あ……そう、だね」
「俺のことも名前で呼んでほしいな。いつも委員長って呼ばれるのも味気ないし」
「はい?」
「いいじゃん、仲良しみたいで。ね、だめ?」
「駄目っていうか……」
「嫌?」
「い、嫌っていうか……」
そもそもそんな仲良しでもないじゃん? と言いたい。
「榛……君?」
「流星って呼んでよ」
「それは……」
「大丈夫だよ。流星って呼ぶのなんて、他のクラスメイトにもいるでしょ? 同い年なんだから、別に不自然じゃないよ。あ、それか兼崎君みたいに、一文字取って〝流〟でもいいよ。俺も岬って呼んでいい?」
思ったよりぐいぐい来るな。別に、名前で呼ぶことに何も抵抗はない。中学の同級生とか友達は、名字を呼び捨てたり、仲が良ければ名前を呼び捨てにしていたし、男子高生の距離感はそんなものだろうと思う。
――この学園でなければの話だけど。
そもそも忘れていたが、あの黒毬藻――花菱は、変装をといたらまさかの美青年だったのだ。奴の素顔がバレたら、おそらく親衛隊ができるだろう。そうなったら絡まれていた俺が無事で済むと思えない。
「はぁ……本当に面倒臭ぇ」
ぽつり、思わず溜息のように小さく言葉が漏れる。
外界から遮断されている学園。小さな箱庭。目立たなければ、多くに関わらず静かに過ごしていればこれほど打って付けの安息の地はないだろう。その前提が崩れてしまえば、平穏な箱庭ではなくなってしまう。
「? 岬君?」
「あ……いや、なんでも。……大丈夫、上手く……まずはひとりで逃げてみるよ」
「そう? もしそれが無理そうだったら言ってね。力になれるなら、力になるよ」
「……ありがとう」
話しているところで、本棟の教室のある2階に着いた。この学園は、全ての棟に渡り廊下が付いているので、昇降口を経由しないで済む場合は移動が楽だ。
「秀も……上履きありがとう」
「おう。……昼は迎えに来る」
「え」
「待ってろ」
そんなことしなくていい、と言いたかったが、言うや否やさっさとB組に入っていってしまった。
くそ、言い逃げしやがって。榛もいる手前、強く言えないのも辛い。
「岬君、兼崎君のこと名前で呼んでるんだね」
去っていった兼崎をぐぬぬ……と前髪の下で睨んでいたら、榛がこちらを見ていたので慌てて表情を元に戻す。見えていないだろうけど、念の為。
「え?」
「いや、秀って呼んでるでしょ? 意外だなって思って」
「あ……そう、だね」
「俺のことも名前で呼んでほしいな。いつも委員長って呼ばれるのも味気ないし」
「はい?」
「いいじゃん、仲良しみたいで。ね、だめ?」
「駄目っていうか……」
「嫌?」
「い、嫌っていうか……」
そもそもそんな仲良しでもないじゃん? と言いたい。
「榛……君?」
「流星って呼んでよ」
「それは……」
「大丈夫だよ。流星って呼ぶのなんて、他のクラスメイトにもいるでしょ? 同い年なんだから、別に不自然じゃないよ。あ、それか兼崎君みたいに、一文字取って〝流〟でもいいよ。俺も岬って呼んでいい?」
思ったよりぐいぐい来るな。別に、名前で呼ぶことに何も抵抗はない。中学の同級生とか友達は、名字を呼び捨てたり、仲が良ければ名前を呼び捨てにしていたし、男子高生の距離感はそんなものだろうと思う。
――この学園でなければの話だけど。
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