魔性男子はモテたくない

月華

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2.消えた平穏

実は首席です

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 いい具合に副会長と黒毬藻が言い合っているので、逃げるなら今の内だろう。さりげなく秀に目配せすれば、同じことを考えていたようで軽く頷いてくれた。
 よし、今だ……!


「逃がさねぇって、言ってんだろ?」


 ま た か よ!
 副会長と話していたはずの黒毬藻の手が、今度は最初から握力全開で掴んでくる。だからお前はホークアイか!


「いっ……」
「おい、テメェ!」
「? おや」


 あまりの力に、思わず声が出た。秀は黒毬藻の腕を掴んでも簡単に離さないと踏んでか、胸ぐらに掴みかかる。そこでようやく副会長は俺の存在に気付いたらしい。いや、気付かなくていいんですけどね。


「花菱 佑。その手を離せ」


 凛とした、けれど威圧感のある声が響く。さっきから空気になっていた生徒会長だ。


「あぁ?」


 負けじと黒毬藻……花菱も威圧で返した(今こいつの名前思い出した)。


「ペナルティを受けたいのか? 離せと言っている」
「……クソッ」


 ようやく腕が解放され、思わず掴まれていた場所をさする。痛かった。手形の痣とか付くんじゃねぇの? ってくらいの馬鹿力だった。秀が「大丈夫か」と小声で言ってきたので、頷きで返事をする。


「何です、貴方。こんな地味なのがタイプなんですか」


 心底意外、とでも言いたげな声音で副会長が言えば、黒……花菱は「ハッ」と馬鹿にしたように鼻で笑う。


「そうだよ。な、岬チャン?」


 うるせぇ、殺すぞ怪力毬藻。チャン言うな。そう言いたい気持ちを何とか堪える。マスクの下の顔はさぞかし歪んでいることだろう。
 世界の全てを憎んでいるかのような据わった目をしていると、急に顔が持ち上げられる。何このデジャブ。
 前髪の隙間から見えるのは、生徒会長。え、何……!?


「岬……岬 壱瀬、学年1位の奴か」


 おお、知られている……! 流石は生徒会長、成績優秀者の名前は一応知っているらしい。


「あ、あの……」
「っおい!」


 流石の秀も生徒会長様には手は出しづらいようで、出そうとした手が宙に浮いている。


「お前、マスクを外せ」
「は!?」


 っと、思わず本声が。と言いながらも生徒会長の手がするすると耳元まで登ってくるので、慌てて両手でマスクを押さえた。


「……い、嫌です……」


 ブンブン頭を振りながら、絶対に嫌だと意思表示する。


「何故だ? マスクを外せない理由でも?」
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