魔性男子はモテたくない

月華

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2.消えた平穏

一緒に行こう

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***


 怒涛の一日を終え、明くる日の朝。俺は新たな難問に頭を悩ませている。


「だーかーらー、大丈夫だって」
「いいじゃねぇか、一緒に登校するくらい。俺の親衛隊のことなら気にすんな」


 俺の同室者兼友人の秀が、今朝から一緒に登校しようと言い出したのだ。
 というのも、昨日鞄も忘れて速攻帰宅したにも関わらずその時には既に帰宅していた(SHRをサボったらしい)秀は、鞄もマスクを付けることさえ忘れて帰宅した俺に、何かあったのではと問い詰めてきたのだ。
 もちろん何もなかったと話したが、ならなぜマスクを付けてないんだ、なぜ鞄なんてもんを忘れてくるんだと言われてしまったらぐうの音も出ない。仕方なく、例の転校生に追われて逃げて来たと軽く説明したらこれだ。


「俺がいた方が少しは牽制になるだろ。もし近寄って来ても、俺が相手してる間に逃げりゃいいじゃねぇか」
「……確かにそうなんだけどさあ」
「同室なんだし、俺に相談して一緒に登校してもらってるとか言やあいい」
「ぐ……確かに」


 秀の言っていることは正直、ありがたいことこの上ない。心配なのは転校生ではなく、もう一人の方。あのイカれ腐男子である。親衛隊持ちの秀と一緒に登校なんてしたら、絶対に煩い。絶対に絶対に絡んでくるに違いないのだ。
 同室が秀だとはとっくに知られているものの、一切喋らない、関わりはほとんどないと嘘を吐いているので、そこも突っ込まれそうで怖い。
 ……だが。道添は確かにウザいし面倒臭いが、俺の貞操に害はない。対して、あの転校生は純粋な力では敵いそうにないことが分かったし、確実に貞操が危うい。
 グググ、と歯ぎしりを殺しつつ、大きく息を吐いた。


「……お願いします」
「分かりゃいいんだよ。おら、行くぞ」


 ふん、と勝ち誇った顔で笑う秀にマスクの下で苦笑しつつ、靴を履いた(ちなみに玄関で言い合っていた)。


「で、相手はどんな奴だって?」
「黒毬藻」
「それ以外だよ」
「瓶底メガネ。デカい」
「見りゃ分かるか?」
「分かると思うよ、変に目立ってっから」


 どことなくいつもより機嫌の良さそうな秀が、なるほどな、と呟いた。タッパは黒毬藻の方があるけれど、力は秀の方があるんじゃないだろうか。なんせ格闘一家のスパルタ教育だし。秀ならそう打ち負かされる心配もないので、そういった点でも安心だ。


「悪いな、秀」


 もう室外なので、小さめに話しかける。


「お前のせいじゃないだろ」
「んー……だけど、面倒な事に巻き込んだ」
「別に、面倒じゃねぇよ」
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