魔性男子はモテたくない

月華

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2.消えた平穏

息抜きも大事

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 静かな空間が好きだ。耳を澄まさずとも、自身の呼吸音が聞こえてくるような静音。他に聞こえてくるものといえば、柔らかな風に擦れる葉の音くらいなもので。入学して以来、過去一番と言っていいほどハプニングが続いた昼間の出来事が、遠のいていく感覚に、ほぅと一息を吐いた。
 ここは、学園の中庭にあるガゼボ。昼間は生徒たちがここで昼食を食べるべく、我先にと場所取りに走るような人気スポットだ。そして、俺のお気に入りの場所でもある。
 ここにあるガゼボは、欧州チックな校舎に倣って真っ白のドーム型になった屋根のついたタイプで、ロココ調の模様が入った白石柱4本、その3本の柱にかけて2面に腰高の柵があり、柵に沿うようにクッション付きのソファ、中央にこちらもロココ調の白いガーデンデスクが備えられている。ソファには4人くらい座れる広さがあって、生徒に人気といえど親衛隊持ちの生徒が使っているところしか見たことはない。

 そんな陰キャには不釣り合いな場所になぜ俺がいるのかといえば、今が夜だから、である。
 21時以降は室内から出入り禁止という寮の規則があるものの、バレなきゃいい精神で俺はちょいちょい寮を抜け出しては息抜きにこの場所に来ていた。ずっと素性、素顔、性格を隠し続けていると、どうしたってストレスは溜まっていく。毎日鬘を被っているのも地味にストレスだし、マスクも慣れたとはいえ毎日続けば嫌にもなってくる訳で。
 秀にも完全な素顔は知られないようにしているため、完全に変装を解いてリラックスするために、ここではいつも変装を完全に解いていた。
 ちなみに寮は寮監が出入り口に常駐していて21時以降の外出は出来ない。俺の部屋は2階なので、自室の部屋から飛び降り、戻るときはよじ登って部屋に入っている。自分の運動神経の良さをフル活用し、この自由空間を得たのだ。3階とかじゃなくて良かった。


「あ、もしもし? 有香ゆか?」


 落ちてきた金色の髪を耳にかけつつ、脚までソファに乗せながら完全リラックス状態で電話の向こうの愛しの妹に話しかける。ここで本来の姿で妹に電話している時が、至高の時間だ。


「お兄ちゃん? どうしたの?」
「いや、ただどうしてるかなってさ。最近の体調はどうだ?」
「全然平気! 今日も昼間は外に出たりしてたよ」
「院内だよな?」
「もちろん。ちゃんと看護士さんも一緒」
「なら安心だな」


 元気そうな声にほっとする。調子がいいのも続いているようで、楽しげに話す様子に心がぽかぽかと温まっていく。


「お兄ちゃんは? 学校はどう?」
「んー、いつもと変わらずかな。気楽な平凡ライフを楽しんでるよ」


 流石に本当のことは言えないので、誤魔化しながら笑う。俺が色々と変な奴に絡まれていた過去も、妹はほとんど知らない。それでも、俺がここに編入するきっかけになった事件は軽くニュースになったしで、流石にバレてしまい時折心配させてしまっているようだ。
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